さいだん座 ( さいだんざ 、( ラテン語 : Ara )は、現代の88星座 の1つで、プトレマイオスの48星座 の1つ[ 3] 。生贄を捧げる祭壇 をモチーフとしている[ 4] 。さそり座 の南にある小さな星座 だが、4つの3等星と3つの4等星が比較的狭い領域に集まっており、容易に見つけることができる。星座の北端が-45.5°と南天の深い位置にあるため、日本など北半球の中緯度地域から星座の全容を見ることは難しい。
主な天体
恒星
2023年 6月現在、国際天文学連合 (IAU) によって2個の恒星に固有名が認証されている[ 5] 。
このほか、以下の天体が知られている。
星団・星雲・銀河
天の南極 に近いためメシエ天体 こそないものの、2つの球状星団 と1つの散開星団 がパトリック・ムーア (英語版 ) がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ 」に選ばれている[ 20] 。
由来と歴史
紀元前3世紀 前期の古代ギリシア の詩人アラートス は、著書『ファイノメナ (古希 : Φαινόμενα )』の中で「天の他の星々が雲に隠れてかすみ、この星座が輝いて見えるようであれば、船の帆をたたんで激しい南風に備えるように」と伝えている[ 33] 。紀元前3世紀後期にアレクサンドリア で活動したエラトステネース や1世紀頃のヒュギーヌス は、さいだん座は4個の星で構成されるとした。2世紀 に活動した古代ローマ の天文学者プトレマイオス の天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希 : ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας )』、いわゆる『アルマゲスト 』では「7個の星で構成される」と記述されている。この祭壇は『アルマゲスト』以降の各時代の星図で、北側に本体、南側に炎という、北半球から見ると上下が逆転した姿で描かれていた[ 3] 。
ヨハン・バイエル の『ウラノメトリア』(1603年 )に描かれたさいだん座。祭壇の本体が北、炎が南に描かれたため、上下が逆転しているように見える。
1603年 、ドイツ の法律家ヨハン・バイエル は、全天星図『ウラノメトリア (Uranometria)』を出版し、各星座の恒星に対してギリシア文字 の小文字の符号、いわゆるバイエル符号 を付した[ 35] 。しかし、『ウラノメトリア』の星表には星の位置を示す座標が書かれておらず、また南天の星の位置はオランダ の地図製作者ペトルス・プランシウス やヨドクス・ホンディウス (英語版 ) が製作した天球儀 から写し取られたものであったため、不正確なものが多かった[ 36] 。
この星の位置の問題は、18世紀 フランス の天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカイユ によって正されることとなる。1751年 から1752年 にかけて南アフリカ のケープタウン で南天の星の位置を正確に観測したラカイユは、1756年 に出版されたフランス科学アカデミー の1752年版紀要に自身の観測記録を元に作成した星表と星図を寄稿した[ 37] 。ラカイユはこの星表の中で、バイエルが『ウラノメトリア』で図示したさいだん座の星の位置を正すとともに、バイエルが付した符号を全て廃してギリシア文字の符号を新たにαからσまで[ 注 2] 振り直した[ 38] 。
1879年 、コルドバ州 に新設されたアルゼンチン国立天文台 (英語版 ) の台長の職にあったアメリカ 生まれの天文学者ベンジャミン・グールド は、自身の観測記録を元に編纂した南天の星表『Uranometria Argentina』を刊行した。この星表の中でグールドは、さいだん座の星に対してラカイユの付したギリシア文字の符号のうち、6等より暗い星に付された νとρ を除いて他のものは全て採用した。
1922年 5月にローマ で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Ara 、略称も Ara と正式に定められた[ 42] 。
中国
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー (英語版 ) (戴進賢)らが編纂し、清朝 乾隆帝 治世の1752年 に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、さいだん座の星は二十八宿 の東方青龍 七宿の第六宿「尾宿 」と第七宿「箕宿 」に配されていた[ 43] 。尾宿では、ε・γ・δ・η・ζ の5星が星官 「亀」に充てられた[ 43] 。箕宿では、σ・α・β・θ の4星が星官「杵」に充てられた[ 43] 。
神話
エラトステネースや1世紀 古代ローマの詩人マルクス・マニリウス によると、大神ゼウス 率いるオリュンポスの神々 とクロノス 率いる巨神族ティーターン との戦い「ティーターノマキアー 」の際に、クロノスとティーターン族による旧体制を打ち破ることをゼウスとその兄弟たちが誓った祭壇であるとされる[ 3] 。しかし、ティーターノマキアーの話を伝えるヘーシオドス の『神統記 』やアポロドーロス の『ビブリオテーケー 』、には神々の盟約を伝える記述がないことから、エラトステネースの創作かあるいは散逸して現存しない資料を参考にしたものと見られる。またエラトステネースは、ケンタウロス族 の賢人ケイローン が野獣 を生贄として捧げる祭壇とも説明している[ 45] 。
呼称と方言
古代ギリシア・ローマ時代にはこの星座は、祭壇を意味する θυτήριον (羅 : Thyterion ) とも、香炉 を意味する θυμιατήριον (羅 : Thymiaterion ) とも呼ばれていた。18世紀頃まではラテン語 で「香炉 」を意味する「トゥリブルム[ 47] 」(Thuribulum) の名称で呼ばれることもあった[ 3] 。
日本語での学名は「さいだん 」と定められている。日本では、明治末期に「祭壇 」という訳語が充てられていたことが、1910年 (明治43年)2月刊行の日本天文学会 の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる[ 49] 。この訳名は、1925年 (大正14年)に初版が刊行された『理科年表 』にも引き継がれた[ 50] 。戦後の1952年 (昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」とした際に、Ara の日本語の学名は「さいだん 」と定められた[ 52] 。これ以降は「さいだん」という学名が継続して用いられている。
現代の中国では、天坛座 (天壇座[ 54] )と呼ばれている。
脚注
注釈
^ Random House Dictionary
^ οを除く[ 38] 。
出典
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参考文献
ウィキメディア・コモンズには、
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座標 : 17h 23m 24s , −53° 34′ 48″