ましゅう型補給艦
ましゅう型補給艦(ましゅうがたほきゅうかん 英語: Mashu-class replenishment oilers)は、海上自衛隊が運用する補給艦の艦級[1]。建造費は約430億円。 本型は、2015年にいずも型ヘリコプター搭載護衛艦が就役するまでは最大の自衛艦であった。 設計本型は、昭和62年度計画で建造された8,100トン型補給艦(62AOE)をもとに、補給能力を向上させるとともに任務の多様化に対応した性能向上型とされている[2]。増大する護衛隊群の補給所要、機動運用する掃海隊群への支援、国際平和協力業務、国際緊急援助活動等の多様な事態に対応するため、当初は1万4,000トン型を計画したが、補給所要等を精査した結果、最終的に1万3,500トン型として建造することになった[3]。 船体構造様式は62AOEと同じく縦肋骨方式である。一部を除いて商船規格に基いて設計されている。船型は、62AOEと同じ上甲板の斉一化を図った長船首楼型を基本とするが、艦首部には更に1層の船首楼が設けられている。これは上甲板への波浪の影響を減らすための措置であった。このために従来のようなブルワークは省かれている。また揚錨機を船首楼内に配置したことで、投揚錨(錨関係)作業はここで実施することとされた。ただし、係留関係の機器や索具は船首楼上に装備される。[4]。 抵抗低減のため艦首はバルバス・バウとされており、またこれとあわせて艦首部のラインも従来になく絞り込んだ特異な形状となっている。補給物資搭載スペースの確保と速力向上を両立するため、水線上を広くとる一方抵抗軽減を意図し水線部を絞り込んだ形状となり、両舷には顕著なナックルが設けてある。また艦尾もかなり絞られており、機械室付近から艦尾にかけて曲線を形成している。なおヘリコプター甲板長確保のため、艦尾にはオーバーハングが付されている[4]。 船体部については、特に傾斜船型とされているわけではないが、上記の事情のために船体平行部は少ない。また上部構造物については、レーダー反射断面積(RCS)低減を意識して傾斜がつけられている[4]。なお2021年からは、順次ロービジ(「ロービジビリティ」Low-visibilityの略[注 1])塗装への塗装変更が進んでおり、煙突頂部の汚れを目立たなくするための黒帯の廃止、艦番号及び艦名の灰色化かつ無影化、飛行甲板上の対空表示(航空機に対し艦番号下2桁を表示するための塗装)の消去などが行われている[5]。 なお搭載艇としては、01甲板レベルの煙突両舷にダビットを設けて、11メートル作業艇を各1隻搭載している。また後部03甲板上には6.3メートル複合型作業艇1隻を搭載する[4]。 また2番艦の「おうみ」には、新造時から女性用居住区が造られている(女性専用居住区は「ましゅう」にも設定されており、平成20年の対テロ作戦支援任務では14名の女性自衛官が参加した)。平成18年の対テロ戦争支援任務でのインド洋派遣(自衛隊インド洋派遣)にも19名の女性海上自衛官が参加している。
機関本型は、海上自衛隊の補給艦としては初めて、主機関にガスタービンエンジンを採用している。機種としては、第2世代DD(汎用護衛艦)で巡航機として用いられたロールス・ロイス社のスペイSM1Cが選定された[6]。 主機関の合計出力は40,000馬力で、62AOEの26,000馬力と比して大幅に強化されている。これは船型の大型化を補って余りあるものであり、速力は62AOEよりも2ノット優速の24ノットを発揮できるとされている。機械室はパラレル配置とされており、両舷に1基ずつの主機関が設置されて、減速機を介して両舷の推進器を駆動する。推進器としては、スキュー付き5翼の可変ピッチ・プロペラ(CPP)を採用している[6]。 貨油ポンプが蒸気駆動から電気駆動に変更されていることもあって所要電力が大きく、出力1,500キロワットのガスタービン発電機3基とディーゼル発電機1基が搭載され、給電能力が強化されている[6]。 なお水中放射雑音低減の観点から、主機関・減速機・発電機などは防振支持構造となっているほか、プロペラも大径化・低回転数化されている[6]。 能力補給機能とわだ型で確立された手法をベースとして、これを全体的に改良・強化したものとなっている。補給物資搭載量は大幅に増加しており、さらに真水の補給能力も持つ[7]。 洋上補給補給ステーションは6箇所あり、艦橋からの視界改善のため門型からモノポール型に変更されている。中央の2つ(第3/4番)がドライカーゴ用、前後の4つが液体用であり、艦首よりの2つ(第1/2番)は主燃料、艦橋よりの2つ(第5/6番)は主燃料、航空燃料、真水用である。なお、とわだ型より省力化が進められている。 #外部リンクにある「おうみ」と護衛艦「かが」による相互洋上給油訓練映像(蛇管接続・離脱時のみの抜粋)のように、大型艦に対しては2か所のステーションを同時に使用しての給油も可能。(映像では「かが」からの受給訓練も行われている) 補給品格納・荷役
航空補給海自AOEでは、5,000トン型補給艦「さがみ」(51AOE)でHSS-2ヘリコプターを発着させられるようヘリコプター甲板を設置し、ヘリコプターによる物資移送(VERTREP)に対応した。発展型の8,100トン型補給艦では、MH-53Eヘリコプターに対応できるようヘリコプター甲板を拡張した[7]。 本型では、更にヘリコプター甲板に連続して、VERTREP用の物資を一時集積するための飛行甲板荷扱所を設置した。物資が集積されていない場合、ここを格納庫として利用することができる。ヘリコプター甲板、格納庫のいずれも、建造当時海上自衛隊最大のヘリコプターであったMH-53Eまで対応した[1]。
医療機能本型は、自衛艦として最も高度な医療能力を備えていることで知られている。これは護衛艦隊の洋上後方支援を担当するという任務に対応したものであるが、阪神・淡路大震災規模の大規模災害派遣においても十分に活用できるものとなっている。このことから、災害時などには病院船としての運用が考慮されている[4]。 医療区画は、艦後部、第2甲板レベルに設置されている。区画のすぐ裏には、第1甲板レベルの飛行甲板と第2甲板の間を往復する昇降機が設置されており、昇降機で移送されたストレッチャーを直ちに医療区画に移すことができる[4]。 本型の医療区画は、手術室、集中治療室、X線撮影室、歯科治療室など充実した医療設備を備え、46床の入院設備を有している。重傷者用の第1病室(8床)、軽傷者用の第2病室(30床)、女性用または隔離室としても使える第3病室(7床)に区分されており、収容人数を確保するため、第2病室は二段ベッドを採用している[4]。 自衛機能対水上捜索用のOPS-28E及び航海用のOPS-20を搭載する[8]。 OPS-28Eはシースキマーの探知も可能とされている[9]。また対空レーダーの搭載も考慮されている[4]。また補給艦として初めて、戦術航法装置(TACAN)も搭載している[7]。 本型は、海自AOEとして初の電子戦装置として、NOLR-8B電波探知装置を搭載している[8]。原型のNOLR-8はミサイル・シーカー波の瞬時探知や全方位同時捜索に対応するなど、対艦ミサイル防御(ASMD)を重視して開発された電波探知装置であり、あさぎり型護衛艦「せとぎり」より装備化されていたものであった[10]。 デコイ発射装置としては、Mk 36 SRBOCを搭載し、Mk.137 6連装チャフ・フレア発射機を艦橋ウイング後方両舷に各2基ずつ装備する。これは62AOEと同様の装備要領であるが、同級では後日装備であったのに対し、本型では当初より搭載した[4]。 艦首と後部格納庫上部には高性能20mm機関砲(CIWS)の後日装備が計画されているが具体的な目処は立っていない[1]。 また、12.7mm重機関銃等を装備可能な機関銃座が艦橋両舷に装備されている。 機関銃は、自衛隊における区分としては兵装ではなく搭載小火器扱いにはなるが、必要に応じ艦内の格納庫から持ち出され、銃座に設置・運用される。 比較表
同型艦
登場作品映画
漫画小説
模型
脚注注釈出典参考文献
関連項目
外部リンク |