やがて君になる (アニメ)
『やがて君になる』(やがてきみになる)は、2018年に放送された日本のテレビアニメ。仲谷鳰による同名の漫画を原作とし、加藤誠が監督を務め、TROYCAが制作した。2018年10月から12月にかけてAT-Xほかにて全13話が放送された。恋愛感情が分からない少女である小糸侑を主人公とし、その先輩であり他人に好かれることを望まない少女である七海燈子との恋愛が描かれる。 本作は加藤にとって監督2作目となった。脚本・構成は花田十輝が担当し、キャラクターデザインと総作画監督は合田浩章が担当した。本作はCrunchyroll Anime Awards 2019のBest Animationにノミネートされ、東京アニメアワードフェスティバル2020のアニメファン賞において6位となった。 あらすじ→「やがて君になる § あらすじ」も参照
アニメでは原作漫画の第6巻の途中にあたる生徒会劇までの様子が描かれる[1]。恋愛感情が分からない高校1年生の小糸侑は、2年生であり生徒会役員である七海燈子と出会う[2]。誰に告白されても好きになれないと言う彼女に侑は共感を覚えるが、燈子は侑に対して告白する[3]。しかし、一方で燈子は自分のことを好きにならないよう侑に伝える[4]。侑は燈子の生徒会選挙の演説を手伝うことになり、立会演説会で燈子の推薦演説を行う[5]。選挙の結果、燈子は生徒会長に就任する。侑も生徒会に入り、燈子の親友である佐伯沙弥香のほか、槙聖司や堂島卓といったメンバーと共に生徒会役員となる[5]。 新たに生徒会長となった燈子は、文化祭において生徒会による劇を行うことを提案する[5]。そうしたなかで侑は、燈子には死去した姉がおり、燈子が姉の姿を無理に演じていることをを知る[6]。生徒会のメンバーは劇の練習のため合宿に出かける[7]。合宿を終えた後、侑と燈子は水族館にデートに出かける。デートの終盤、侑と燈子は劇の練習のためエチュードを行う。そこで侑はあくまで自分は燈子のことしか知らないと本音をぶつけ、これによって燈子の心は動いていく[6]。 登場人物→詳細は「やがて君になる § 登場人物」を参照
制作
企画・スタッフ本作の監督である加藤誠は、2015年に放送されたアニメ『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』で初めて監督を務め、本作が2作目となった[9]。加藤はKADOKAWAから次にアニメ化する作品について何作か提示され、その中から『やがて君になる』を選んだ[10]。この作品を選んだ理由として加藤は、自分がやりたい空間演出やレイアウトを行うことができると感じたことや[9]、物語に普遍性があると感じたということを挙げている[10]。また、自身がこれまで百合というジャンルに興味を持っていなかったこともアニメを作るうえで強みになるとも感じたという[11]。 本作のプロデューサーはTROYCAの長野敏之が務めた[12]。キャラクターデザインと総作画監督を務めた合田浩章は長野によって起用された[10]。合田によると、長野は原作に男性ファンが多いことから男性向けアニメとして作ると語っていたという[12]。加藤によると、シリーズ構成と脚本を務めた花田十輝はいちど加藤と直接会って話し合った結果、引き受けることとなったという[13]。 脚本・構成本作の脚本・構成は花田十輝が務めた[10]。構成にあたっては、まず監督である加藤が原作のなかからアニメに入れたい部分を花田に提出し、それを花田が構成案としてまとめた[10]。その際には、アニメをどこで終えるかが重視された。加藤は原作6巻にあたる生徒会劇までやることを考えたが、1クールでそこまで描くと原作の重要な部分が損なわれるうえに、七海燈子だけの作品になってしまうという考えで一致した加藤と花田は、原作をなぞるかたちで制作することを決めた[10]。脚本会議には原作者である仲谷がすべて出席したほか、作中で描かれる劇の脚本や昔の生徒会劇の冒頭、キャラクター同士のLINEのやりとりの文章などを仲谷が手掛けた[14]。 演出本作の演出にあたって、加藤は侑の心の動きを風で舞い上がる葉やカップのなかの紅茶、日光の移ろいといった情景で表現するなど[11]、背景美術や足元のみのカットといった比喩表現を多く取り入れた[10]。こうした演出を行った理由について加藤は、自分自身の解釈を伝えるのではなく、視聴者自身に独自の解釈を持ってもらうためであるとしている[10]。 オープニングとエンディングの絵コンテや演出も加藤が担当した[10]。オープニングでは加藤は自身が以前監督を務めた『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』から着想を得て登場人物の二面性を表現したほか、物語の展開や登場人物の心情に沿った花言葉にあわせて花が描かれている[10]。 キャラクターデザイン本作のキャラクターデザインと総作画監督は合田浩章が務めた[10]。また、原作者である仲谷がキャラクターデザインの監修を務めた[14]。キャラクターデザインについて、合田は仲谷と話しあったうえで、キャラクターの魅力を活かすために原作から逸れたデザインにするのではなく、原作そっくりに描くことを決めた[15]。合田は、加藤が濃い演出をしていたため画は自己主張をしないように、なおかつ作品に溶け込む画を目指したと語っている[16]。また、合田によると、清楚な雰囲気を出すためセックスアピールのような画は避けたという[12]。 キャスト・演技本作のキャストは、アニメより前に作られた原作のプロモーションビデオですでに七海燈子を演じていた寿美菜子も含め[5]、オーディションによって決められた[17]。アフレコにあたっては、監督である加藤から制作側が用意した尺には合わせなくてもよいという指示が出され、そうして収録した仮の尺をもとにしてカッティングを行う手法が取られた[10]。原作者である仲谷鳰も毎回アフレコに参加し、侑と燈子を中心に、キャラクターの解釈について確認を取った[9]。 評価『やがて君になる』は2019年のCrunchyroll Anime Awardsの「Best Animation」にノミネートされた[18]。また、東京アニメアワードフェスティバル2020のアニメファン賞において6位となった[19]。このほか、アニメ!アニメ!が主催する「ネットユーザーが本気で選ぶ!アニメ総選挙2018年間大賞」では21作品中10位となった[20]。 Anime News NetworkのRose Bridgesは、本作では10代特有の悩みやLGBTについて描かれており、百合ジャンルではめったに見られないリアリズムがあると評して2018年の秋アニメのなかで最高評価を与えた[21]。Comic Book Resourcesは、本作は同性に恋をしたことをきっかけに自らのセクシュアリティを見つけ出そうとしている物語であるとし、プライド月間に見るべき10のLGBTQ+アニメのひとつに本作を挙げた[22]。また、Anime UK Newsも、本作はユニークながらも確実に、かつ説得力のある方法で多くのLGBT+についてのテーマを描いている格別のアニメであると評し、10点中9点の評価を与えた[23]。その一方で、Anime News NetworkのNicki "YuriMother" Baumanは、アニメが物語の途中までしか描かれていないことで、アセクシュアリティにまつわる描写が不可視化されていると指摘している[1]。 売り上げ本作のブルーレイボックス第1巻の売り上げは発売初週で2,849枚、2週目の時点で3,723枚で、最高位は16位だった[24][25]。第2巻の売り上げは発売初週で3,490枚で、最高位は7位だった[26]。第3巻の売り上げは発売初週で3,293枚で、最高位は11位だった[27]。第4巻の売り上げは発売初週で3,441枚で、最高位は13位だった[28]。 主題歌「君にふれて」は、本作のオープニングテーマ。ボンジュール鈴木が作詞・作曲を、鈴木Daichi秀行がアレンジを手掛け、安月名莉子が歌唱する[29][30]。ボンジュール鈴木は本作のオープニングテーマの制作にあたって、「君にふれて」のもととなったエモーショナルな曲と、可愛い曲の2曲を送ったという[31]、安月名はオーディションで本曲の歌手として選ばれた[30]。安月名は、サビに近づくにつれてメロディーが高くなるところなどから、良い意味でアニメソングらしくないアニメソングだと感じたという[30]。 「hectopascal」は、本作のエンディングテーマ。本多友紀が作曲、中村彼方が作詞、脇眞富が編曲し、小糸侑役の高田憂希と七海燈子役の寿美菜子が歌唱する[4][29]。エレクトロダンス風のキャラクターソングになっている[32]。 各話リスト
放送
関連商品・メディアBD / DVD2018年12月から2019年3月にかけてKADOKAWAから全4巻のBlu-rayとDVDが発売された。各巻の初回生産限定盤には原作者である仲谷鳰による描き下ろし収納ケースや合田浩章による描き下ろしデジパック、ブックレットなどが付属する。また、各巻にはキャストやスタッフによるオーディオコメンタリーが収録された[36]。日本国外では、2019年12月17日にアメリカ合衆国のSentai Filmworksからブルーレイディスクとプレミアムボックスセットが発売された[37]。
CD
ウェブラジオ2018年10月4日から音泉にて高田憂希と寿美菜子をパーソナリティとするWebラジオ『やがて君になる〜私、このラジオ好きになりそう〜』が全12回にわたり放送された[40]。 脚注出典
参考文献
外部リンク
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