ホップ代数は,その起源であり H 空間(英語版)の概念と関係する代数的位相幾何学,群スキーム(英語版)の理論,群論(群環の概念によって),そして多数の他の場所で,自然に生じ,おそらく双代数の最もよく知られた種類となっている.ホップ代数はそれ自身も研究されていて,一方では例の特定のクラスが,他方では分類問題が,多く研究されている.それらは物性物理学や量子的場の理論[1]から弦理論[2]まで多様な応用を持つ.
定理 (ホップ)[3]A を標数 0 の体上の有限次元次数付き可換(英語版)次数付き余可換ホップ代数とする.このとき A は(代数として)奇数次の生成元による自由外積代数である.
定義
正式には,ホップ代数は体K 上の(結合的かつ余結合的)双代数H であって,次の図式が可換であるような(対蹠射または対合射と呼ばれる)K 線型写像S: H → H を持つものである:
ホップ代数 H の部分代数 A が部分ホップ代数であるとは,H の部分余代数であり,対合射 S が A を A の中に写すことをいう.言い換えると,部分ホップ代数 A は,H の積,余積,余単位射,対合射を A に制限したとき(さらに H の単位元 1 は A に属しているとき)それ自身ホップ代数である.Nichols–Zoeller freeness theorem は H が有限次元であるときに自然な A 加群 H は階数有限の自由加群であることを(1989年に)確立した.これは部分群に対するラグランジュの定理の一般化である.これと積分論の系として,半単純有限次元ホップ代数の部分ホップ代数は自動的に半単純である.
部分ホップ代数 A がホップ代数 H において右正規であるとは,安定性の条件,すべての h ∈ H に対して adr(h)(A) ⊆ A, を満たすことをいう.ここで右随伴写像 adr はすべての a ∈ A と h ∈ H に対して adr(h)(a) = S(h(1))ah(2) によって定義される.同様に,部分ホップ代数 A が H において左正規であるとは,adl(h)(a) = h(1)aS(h(2)) によって定義される左随伴写像で安定なことをいう.正規性の2つの条件は対合射 S が全単射なときには同値であり,この場合 A は正規ホップ部分代数といわれる.
H の正規部分ホップ代数 A は(H の部分集合の等式の)条件 HA+ = A+H を満たす,ただし A+ は K 上の余単位射の核を表す.この正規性条件は HA+ が H のホップイデアルである(すなわち余単位射の核の代数イデアルで,余代数余イデアルで,対合射で安定である)ことを意味する.したがって,商ホップ代数 H/HA+ と全射準同型 H → H/A+H があり,群論における正規部分群と商群に類似の理論がある[9].
ホップ整環
分数体K をもつ整域R 上のホップ整環O とは,K 上のホップ代数 H における整環(英語版)であって,代数と余代数の演算で閉じている,特に余積 Δ は O を O⊗O に送る,もののことである[10].
群的元
群的元とは非零元 x であって Δ(x) = x ⊗ x なるものである.群的元たちは対合射によって与えられる逆元を持つ群をなす[11].原始元(英語版)x は Δ(x) = x ⊗ 1 + 1 ⊗ x を満たす[12][13].
表現論
A をホップ代数とし,M と N を A 加群とする.このとき,M ⊗ N も次のようにして A 加群である:m ∈ M, n ∈ N, Δ(a) = (a1, a2) に対して,
さらに,自明表現を基礎体 K に m ∈ K に対して
として定義できる.最後に,A の双対表現が定義できる:M が A 加群で M* がその双対空間のとき,f ∈ M* と m ∈ M に対して
Δ, ε, S の間の関係により,ベクトル空間のある自然な準同型は実際 A 加群の準同型であることが保証される.例えば,ベクトル空間の自然な同型 M → M ⊗ K と M → K ⊗ M は A 加群の同型でもある.また,ベクトル空間の写像 M* ⊗ M → K, f ⊗ m → f(m) も A 加群の準同型である.しかしながら,写像 M ⊗ M* → K は A 加群の準同型であるとは限らない.
上の例はほとんど可換(すなわち積が可換)か余可換(すなわち[17]Δ = T ∘ Δ ただし twist map[18]T: H ⊗ H → H ⊗ H は T(x ⊗ y) = y ⊗ x によって定義される)である.他の面白いホップ代数は,可換でも余可換でもない,普遍包絡環や正則関数環,座標環のある種の「変形」あるいは「量子化」である.これらのホップ代数はしばしば量子群と呼ばれ,この用語は今のところ漠然としか定義されていない.それらは非可換幾何学において重要であり,思想は以下のようである:普通の代数群はその正則関数の普通のホップ代数によってよく記述される;このホップ代数の変形版をある種の「普通でない」あるいは「量子化された」代数群(もはや代数群ではない)と考えることができる.これらの対象を定義したり扱ったりする直接的な方法は存在しないように思われるが,ホップ代数を研究することはなおでき,実際それらをホップ代数と同一視する.したがって名前「量子群」である.
Alfons Van Daele によって1994年に導入された 乗作用素ホップ代数(英語版)[20] はホップ代数の一般化であり,余積は(単位元をもつあるいはもたない)代数からその代数のテンソル積代数の乗作用素環(英語版) へである.
V. G. Turaev によって2000年に導入されたホップ群(余)代数(英語版)もまたホップ代数の一般化である.
弱ホップ代数
弱ホップ代数(英語版),あるいは量子亜群は,ホップ代数の一般化である.ホップ代数と同様,弱ホップ代数たちは代数の自己双対なクラスをなす,つまり,H が(弱)ホップ代数ならば,H 上の線型形式からなる双対空間 H* もそうである(H との自然なペアリングとその余代数・代数構造から得られる代数・余代数構造に関して).弱ホップ代数 H は通常次のように取られる:
有限次元代数かつ余代数で,余積 Δ: H → H ⊗ H と余単位射 ε: H → k を持ち,Δ(1) ≠ 1 ⊗ 1 あるいはある a, b ∈ H に対して ε(ab) ≠ ε(a)ε(b) でもよいが,他のすべてのホップ代数の公理を満たす.あるいは,以下を要求する:すべての a, b, c ∈ H に対して,
H は以下の公理を満たす弱められた対合射 S: H → H を持つ:
すべての a ∈ H に対して (右辺は像が HR または Hs と書かれる separable subalgebra である通常 ΠR(a) あるいは εs(a) と書かれる面白い射影);
すべての a ∈ H に対して (像が S によって HL に反同型な separable algebra HL あるいは Ht である通常 ΠR(a) あるいは εt(a) と書かれる別の面白い射影);
^G の有限性は KG ⊗ KG が KG × G に自然に同型であることを意味する.これは余積の上の公式で用いられる.無限群 G に対しては,KG ⊗ KG は KG × G の真部分集合である.この場合台が有限の写像の空間にホップ代数の構造を入れることができる.
出典
^Haldane, F. D. M.; Ha, Z. N. C.; Talstra, J. C.; Bernard, D.; Pasquier, V. (1992). “Yangian symmetry of integrable quantum chains with long-range interactions and a new description of states in conformal field theory”. Physical Review Letters69 (14): 2021–2025. doi:10.1103/physrevlett.69.2021.
^Plefka, J.; Spill, F.; Torrielli, A. (2006). “Hopf algebra structure of the AdS/CFT S-matrix”. Physical Review D74 (6): 066008. doi:10.1103/PhysRevD.74.066008.
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^Hazewinkel, Michiel; Gubareni, Nadezhda Mikhaĭlovna; Kirichenko, Vladimir V. (2010). Algebras, Rings, and Modules: Lie Algebras and Hopf Algebras. Mathematical surveys and monographs. 168. American Mathematical Society. p. 149. ISBN0-8218-7549-3
^Mikhalev, Aleksandr Vasilʹevich; Pilz, Günter, eds (2002). The Concise Handbook of Algebra. Springer-Verlag. p. 307, C.42. ISBN0792370724
^Dmitri Nikshych, Leonid Vainerman, in: New direction in Hopf algebras, S. Montgomery and H.-J. Schneider, eds., M.S.R.I. Publications, vol. 43, Cambridge, 2002, 211–262.
Fuchs, Jürgen (1992), Affine Lie algebras and quantum groups. An introduction with applications in conformal field theory, Cambridge Monographs on Mathematical Physics, Cambridge: Cambridge University Press, ISBN0-521-48412-X, Zbl0925.17031
H. Hopf, Uber die Topologie der Gruppen-Mannigfaltigkeiten und ihrer Verallgemeinerungen, Ann. of Math. 42 (1941), 22–52. Reprinted in Selecta Heinz Hopf, pp. 119–151, Springer, Berlin (1964). MR4784, Zbl0025.09303