『ヴォルガの舟歌 』(ヴォルガのふなうた、ロシア語 : Эй, ухнем エイ・ウーフネム )は、世界的によく知られたロシア民謡 のひとつ。ヴォルガ川 の船引き 人夫の労働歌 に由来し、『ヴォルガの船引き歌 』とも呼ばれる。
概要
ロシア語の題は歌詞の冒頭部分によるもので、ヴォルガ川 の船引き (бурлак ブルラーク )のかけ声である。『ヴォルガの舟歌』はロシアの船引き歌のうちでもっとも有名なものである[ 1] 。同様の労働歌として、革命歌 としても歌われた『ドゥビヌシカ(仕事の歌)』 (ru:Дубинушка ) もよく知られる[ 2] 。
1860年代にニジニ・ノヴゴロド で歌われていたものがミリイ・バラキレフ によって採譜され[ 1] 、1866年に出版された『ロシア民謡集』(Сборник русских народных песен )の第40曲「船引きの歌」(Бурлацкая )として収録されている[ 3] [ 注 1] 。現在のロシア語の歌詞は3番まであるが、バラキレフの採録した歌詞は1番だけであり、残りは後から追加されたものである。
その後、フョードル・ケーネマン が編曲してフョードル・シャリアピン が歌った版によって『ヴォルガの舟歌』は世界的に有名になった[ 1] 。
ドン・コサック合唱団 などの合唱曲のレパートリーとしても知られる[ 1] 。レオニード・ハリトノフ と赤軍合唱団 による演奏も有名である[ 4] 。アメリカ合衆国 ではグレン・ミラー 楽団によるジャズ版が1941年3月15日のビルボード で全米チャート第1位に輝いた[ 5] 。
日本では、1903年に旗野 ( はたの ) 十一郎 ( とりひこ ) 作詞『雁の叫び』として東京音楽学校 で紹介されたのが初めてとされるが、原曲とは無関係な叙景の歌詞に変えられていた[ 1] [ 6] :97 。ほかにも数多くの訳詞があるが、「エイコラ」ではじまる有名な歌詞は門馬直衛 による[ 7] :43-44 。原曲での歌唱は映画『脱線情熱娘』(松竹 、1949年)の劇中で笠置シヅ子 が歌唱するシーンがあるほか、レオニード・ハリトノフと赤軍合唱団による合唱が映画『戦争と人間 第三部 』(日活 、1973年)の劇中曲として流用されている。
クラシック音楽での使用
『ヴォルガの舟歌』の編曲は無数にある。とくに有名なものをいくつかあげると
『ヴォルガの舟歌』はしばしば他の曲の中に使用されている[ 1] 。
歌詞
2番と3番の歌詞は5・6行めのみを記した(8行めは6行めのくり返しで、他の行は1番と同じ)。
ロシア語
日本語訳
1.
Эй, ухнем! Эй, ухнем!
えんやこら、えんやこら
Ещё разик, ещё да раз! [ 注 2]
もう一回、もう一回
Эй, ухнем! Эй, ухнем!
えんやこら、えんやこら
Ещё разик, ещё да раз!
もう一回、もう一回
Разовьём мы берёзу,
白樺の枝を解こう[ 注 3]
Разовьём мы кудряву,
からまった枝を解こう
Ай-да, да, ай-да! Ай-да, да, ай-да!
アイダ・ダ・アイダ、アイダ・ダ・アイダ
Разовьём мы кудряву.
からまった枝を解こう
2.
Мы по бережку идём,
我々は岸にそって行き
Песню солнышку поём,
太陽にむかって歌を歌う
3.
Эх ты, Волга, мать-река,
ああ、母なる川ヴォルガよ
Широка и глубока,
広くて深い
脚注
注釈
出典
^ a b c d e f 伊東一郎 著「エーイ・ウーフネム」、日本ロシア音楽家協会 編『ロシア音楽事典』河合楽器製作所出版部、2006年、48頁。ISBN 4760950168 。
^ 『仕事の歌(ドゥビヌシカ)Dubinushka 』世界の民謡・童謡。https://www.worldfolksong.com/songbook/russia/dubinushka.htm 。
^ A Collection of Popular Russian Songs (Balakirev, Mily) の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
^ Леонид Харитонов — Эй, ухнем! (Live) , Певец Леонид Харитонов , http://www.leonidharitonov.ru/video/army/uhnem65/ (1965年のモスクワでの公演)
^ “The Billboard Music Popularity Chart” , The Billboard 53 (11): 11, (1941-03-15), https://worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1941/BB-1941-03-15i.pdf
^ 白倉克文「日本とロシアの近代歌曲に関する比較的考察 」『東京工芸大学芸術学部紀要』第14巻、89-100頁、2008年。http://id.nii.ac.jp/1245/00001666/ 。
^ 浜崎慎吾「戦後日本における「ロシア民謡」の受容と変容 : 訳詞はいかに作られるか 」『千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書』第304巻、31-95頁、2016年。https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/100388/ 。
^ イーゴル・ストラヴィンスキー 著、塚谷晃弘 訳『ストラヴィンスキー自伝』全音楽譜出版社、1981年、90-92頁。
^ Richard Taruskin (1996), Stravinsky and the Russian Traditions , University of California Press, pp. 1183-1184, ISBN 0520070992
^ “36. Эй, ухнем! ” . Русские Народные Песни . Музгиз . (1957). pp. 100-101. http://etmus.ru/wp-content/uploads/2014/01/%D0%91%D0%B0%D0%BB%D0%B0%D0%BA%D0%B8%D1%80%D0%B5%D0%B2-%D0%9C.-%D0%A0%D1%83%D1%81%D1%81%D0%BA%D0%B8%D0%B5-%D0%BD%D0%B0%D1%80%D0%BE%D0%B4%D0%BD%D1%8B%D0%B5-%D0%BF%D0%B5%D1%81%D0%BD%D0%B8.pdf
関連項目
外部リンク