列車
列車はその目的、運転時期、使用動力車、性質などにより分類できる[2](#列車の種類)。 英語の「train トレイン」の語源は古フランス語の名詞の「train トラン」(男性形)や 「traine トレーヌ」 (女性形)である。これは古フランス語の「trahiner」という動詞から派生する。これは更にラテン語の「trahere」(=引く、引っ張る)にたどり着く[3]。 定義列車の定義は国によって微妙に異なる。 (鉄道の歴史が長い)イギリスでは、1993年鉄道法83(1)条において、列車 (train) を「(a)2両またはそれ以上の鉄道車両が連結されたもので、少なくともそのうち1両は機関車であるもの、(b)他の鉄道車両と連結されていない機関車」と定義している[4](機関車方式が前提となった定義を掲載している)。なおOxford Dictionaryでは「機関車や(車両と)一体化したモータ群(integral motors)によって動かされる、一連の連結された鉄道車両や貨車」という定義を掲載しており、機関車方式以外も想定している。[3]。 アメリカ合衆国のアッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ鉄道の1948年の運行規程では列車を「客貨車の有無にかかわらず、1両またはそれ以上の機関車が連結されており、標識類が示されたもの」と定義していた[5]。 日本においては国土交通省の定めた、2002年施行の鉄道に関する技術上の基準を定める省令第2条13項で、「停車場外の線路を運転させる目的で組成された車両をいう」とされている[6]。日本では、「電車」という言葉で鉄道の線路を走る車両すべてを指すことがあるが[7]、電車は本来は電力によって走行する鉄道車両のことを指しており[8]、列車であるためにはどのような動力源を用いていてもよい[9]。(日本では)専門的には、停車場(駅)の外の線路を運転させる目的で組成された車両のことを特に「列車」と呼び、同じ車両であっても運転させる目的をもたずに留置されているようなものは列車ではなく、単なる車両である[10]。 (上述のイギリス、アメリカ、日本の法規や運行規定の定義で、三国とも同様だと判るが)、車両数に関係なく、動力車単独であっても「列車」となりうる[2]。 編成→詳細は「編成 (鉄道)」を参照
列車は複数の車両を連結して運転されることがあり、このことを「編成を組む」などと呼び、組み合わせた車両を指して編成と呼ぶ。編成には、列車として具備するべき前述の条件に加えて、動力装置、電源系統、サービス設備などの制約もある[11]。 機関車が客貨車を牽引する動力集中方式の場合は、牽引定数が問題となる。列車ダイヤで定められた時刻を守って列車を運転するためには一定の速度以上で走行する必要があり、運転対象路線にある勾配と機関車の性能から、牽引する編成の重量は一定の範囲内に収まっている必要がある[12]。編成の各車両に動力が分散している電車方式(動力分散方式)の列車では、運転を想定している路線の勾配に合わせて、動力車の比率(MT比)を決める必要がある[13]。 列車暖房においては、蒸気暖房の時代には蒸気機関車またはそれ以外の機関車では蒸気発生装置から蒸気を供給して暖房を行っており、蒸気発生装置のない電気機関車・ディーゼル機関車では暖房を使えなかった。電気暖房においても、機関車に電気暖房用の送電設備、客車にそれに対応したヒーターが搭載されている必要があり、対応しなければ暖房を使えないという制約がある[14]。冷房の面でも、冷房装置とそれに対応した電源がなければ冷房を使えない[15]。 サービスの面では、必要に応じてグリーン車(一等車)などの優等車両と普通車の割合を決めて編成に連結する[16]。現代では売店での食品販売や外食産業に押されて連結は減少しているが、供食設備として食堂車やビュフェ車が連結されることがある[17]。優等車両や寝台車を連結するに際しては、特別料金を払っていない旅客がこうした車両内を通り抜けることを防止するために、編成の一端にまとめて優等車両や寝台車を連結したり、食堂車やロビーカーを間に挟んだりする対策が行われる[18]。荷物車や郵便車は駅における取り扱い設備の配置の関係から、連結位置が決まっている[19]。 線路容量や車両数の制約から、列車の分割・併合を行うことがある。列車が進行していく際に、輸送需要が低くなるにつれて一部の車両を切り離していく、あるいは輸送需要が高くなるにつれて車両を増結していくような運行の仕方(増解結)をすることがある。またはそうした切り離した車両が支線に直通して別の終着駅となる列車になっていたり、別の始発駅を出発して支線から直通してくる列車を増結したりする(多層建て列車)こともある[20]。 初期の車両では、1両単位で電源や暖房などが独立した構成になっており、自由に連結・解放することができた。しかしそうした機器類にかかる費用を節約するため、走行に必要な機器類や空調電源などを編成全体でまとめて最適設計して各車両に配置する、固定編成という考えが生まれた。さらに基本編成と付属編成という組み合わせにして、輸送需要に応じて付属編成を切り離すといった運用が行われている[21]。 列車の設定と運行列車の運行計画列車の運行計画は、ダイヤグラム(列車ダイヤ)の形で立案される[22]。 運行計画においてはまず、対象路線の輸送量を想定し、各種列車の輸送力を設定する。旅客列車の場合、乗車率(混雑率)が低いほど、旅客にとって座席を確保しやすくなってサービス上は好ましいが、乗車率が低いと輸送量に対し必要とされる車両数が増えることになり、鉄道事業者の運営コスト上は好ましくない。このバランスは競合する交通機関の状況を踏まえて決定される[23]。 続いて列車の設定本数と区間を決定する。輸送量に応じて列車本数を調整したり、編成両数を増減したりする。また列車の運転する区間や異なる路線への直通列車の設定を検討する。列車本数が多い方が旅客にとっては利用しやすいが、回送などの非営業列車や貨物列車を含む線路容量や、車両運用との兼ね合いもある[24]。 設定した列車の配列順序・出発時刻を決定する。利用者の利便性を考慮しつつ、線路容量や駅の発着番線の都合などを考えて、各列車の順序と時刻を決定する[24]。そして各列車の使用車両の性能や線路の条件に応じて計算された基準運転時分に基づいて駅間の走行時間を決め、各列車の停車駅と停車時間を定めて列車の時刻を確定していく[25]。こうした時刻を決定するにあたっては、各駅間の閉塞の条件、線路容量、駅の信号機の条件、車両の性能といった条件から決まる最短時隔を守る必要がある[26]。 列車には、他の列車と区別するために、列車番号が与えられる。列車のおおよその性質を知ることができるような番号体系が定められており、運行管理上重要であることから、同一駅に同一番号の列車が発着しないようにされている[9]。 列車の時刻決定と表裏一体のものとして、列車に乗務員および車両の割り当てを行う、乗務員運用計画および車両運用計画(運用)が作成される。乗務員や車両が循環して各列車に割り当たっていくことで、実際の列車の運行が行われる[27]。 運行管理→詳細は「運転整理」を参照
列車の運転は、常に当初の計画通りに行えるわけではなく、何らかの原因で列車に遅れが生じることがある。そうした列車の運行状況を監視し、必要に応じて対応策を講じて正常な運転に復帰させるために運行管理が行われる[28]。 元来は、中央の運転指令所から電話で各地の駅や列車と連絡を取って指示命令を行っていた。現代においては、列車集中制御装置 (CTC) の導入が進み、運転指令所から各駅の信号設備を遠隔制御して列車の運行を制御している[29][28]。また運転指令所と列車の情報伝達には、列車無線が用いられるようになった[29]。 CTCにおいても、列車の現在位置と列車ダイヤをもとに指令員が判断を行い、制御盤から信号を制御して列車の運行を管理していた。さらなる発展として、列車の運行状況をコンピューターを用いて自動的に追跡・監視し、あらかじめ入力された列車ダイヤのデータと照合して、自動的に運行管理を行う自動進路制御装置 (PRC) という装置が導入されるようになった[30]。 列車ダイヤが乱れた際には、運転指令員が列車ダイヤや車両・乗務員運用計画の変更を行う。この作業のことを運転整理と呼ぶ。運転整理は、評価基準があいまいで難しく、制約が厳しいうえに大規模な組合せ最適化問題であるという、非常に難しい問題である[31]。 列車の種類用途目的による分類用途目的による列車の分類として、運賃を徴収して一般の旅客貨物を輸送する営業用列車と、鉄道事業者の業務の都合上運転する事業用列車の区分がある[10]。営業用列車はさらに、下記のようにいくつかに区分されている。 旅客列車→詳細は「旅客列車」を参照
貨物列車→詳細は「貨物列車」を参照
また、鉄道車両自体を貨物として輸送する甲種鉄道車両輸送や、大物車を使った特大貨物輸送も貨物列車の一種である[45]。 混合列車→詳細は「混合列車」を参照
客車と貨車を併結した列車を混合列車という。さらに区別して、客車に貨車を併結した列車を混合列車、貨車に客車を併結した列車を準混合列車という[32]。準混合列車は貨物列車としての運行が主体であり、貨車の解結、貨物の積み下ろしに重点が置かれて、旅客扱いは従たるものである[46]。 事業用列車→詳細は「特殊列車」を参照
事業用列車は、鉄道事業のために用いられるが営業列車ではない列車である[47]。一般の旅客貨物を輸送する列車と使命が異なる列車として、特殊列車とも呼ぶ[48]。
動力車による分類列車は動力車の種類により、機関車牽引列車、電車列車、気動車列車などに分類される[47]。異種動力車が併結されている場合はメインとなる動力車が基準となる[47]。機関車牽引列車には、蒸気機関車を使用する蒸機列車、電気機関車を使用する電機列車、内燃機関車を使用する内燃機列車などがある[10]。機関車牽引列車は、特に蒸機列車は、「汽車」とも呼ばれる[54]。 運行時期による分類
運行距離による分類
運転時間帯による分類
日本での技術的要件日本の鉄道の運転取り扱いでは、旅客や貨物の輸送に直接鉄道車両を使っている場合と、それ以外の場合を区別している。輸送に直接使われる、停車場間での鉄道車両の運転(移動)を「列車」と呼び、それ以外の鉄道車両の移動を単に「車両」と呼ぶ。輸送の準備や後始末で駅構内や車両基地において行う移動(入換)が車両である。列車として運転する場合には、車両に比べて高度な安全要件を満たすことが要求される[57]。 列車として具備するべき条件は、以下のようなものがある[58]。
愛称付き列車→詳細は「列車愛称」を参照
旅客にアピールする目的で、列車に「黄金の矢」(イギリス・フランス)や「20世紀特急」(アメリカ合衆国)など、列車愛称を付けることがある[59]。そうした愛称付きの列車(ネームド・トレイン named train)には、シンボルマークを描いたヘッドマーク・テールマークを取り付けることがある[60]。 世界で最初に愛称を付けた列車は、1848年にイギリスで運行開始した「アイリッシュ・メール」である。鉄道の普及以前には、駅馬車(ステージコーチ)の中でもっとも速いものに郵便物を載せて運んでおり、そうしたステージコーチを特にメールコーチと呼ぶ慣習があった。そのためにメールが付く名前には速いという印象があったことから、アイルランド行き最速列車をアピールしてアイリッシュ・メールと名付けられた(ただしアイルランドへ直通しているわけではなく、アイルランド行きの船が出る港への列車である)。以降、行き先の地名にメールを付けた愛称がつけられていった[61]。また、競走馬のザフライングダッチマンの名前にちなんでグレート・ウェスタン鉄道が名付けた「フライング・ダッチマン」も人気を博し、「フライング・スコッツマン」など同様にフライングを付けた列車名がイギリス国外を含めて広がっていった[62]。 日本では長らく列車番号のみで列車を識別していたが、昭和初期の不況で輸送力が余剰気味であったことから、列車に愛称を付けて親しんでもらおうという意図で、東京 - 下関間の特急列車2往復に愛称を付けることになり、列車名を一般公募して「富士」「櫻」と名付けて1929年(昭和4年)9月15日のダイヤ改正から時刻表にも掲載されて運行されるようになった。第二次世界大戦中一時的に列車愛称は途絶えるが、戦後復活し、列車の増発とともに愛称は増加していった。同じような運行系統・運行目的の列車を「○○1号・2号」あるいは「第1・第2○○」のように番号付きで区別することも始まり、ヨンサントオ(昭和43年10月1日ダイヤ改正)で同一区間の列車名はできるだけ愛称を統一することや、末尾に1号・2号と付番することで出発順序を区別することなどが決められた[59]。 なお、「とびうお」「たから」など、貨物列車に愛称がつけられた事例もある[63]。 脚注出典
参考文献
関連項目外部リンク
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