十二人の怒れる男『十二人の怒れる男』(じゅうににんのいかれるおとこ、12 Angry Men)は、1954年製作のアメリカのテレビドラマ及び、それを原案とする作品。原作はレジナルド・ローズ。「法廷もの」に分類されるサスペンスドラマであり、特に本作をリメイクした1957年の映画が有名で密室劇の金字塔として高く評価されている。ほとんどの出来事がたった一つの部屋を中心に繰り広げられており、「物語は脚本が面白ければ場所など関係ない」という説を体現する作品として引き合いに出されることも多い。日本では、アメリカの陪審制度の長所と短所を説明するものとして、よく引用される。 本作品の発端は、レジナルド・ローズが実際に殺人事件の陪審員を務めたことである。その約1ヶ月後には、本作の構想・執筆に取りかかったという。 あらすじ父親殺しの罪に問われた少年の裁判で、陪審員が評決に達するまで一室で議論する様子を描く。 法廷に提出された証拠や証言は被告人である少年に圧倒的に不利なものであり、陪審員の大半は少年の有罪を確信していた。全陪審員一致で有罪になると思われたところ、ただ一人、陪審員8番だけが少年の無罪を主張する。彼は他の陪審員たちに、固定観念に囚われずに証拠の疑わしい点を一つ一つ再検証することを要求する。 陪審員8番による疑問の喚起と熱意によって、当初は少年の有罪を信じきっていた陪審員たちの心にも徐々に変化が訪れる。 登場人物
テレビドラマ版
CBSの単発ドラマ番組枠『Westinghouse Studio One』(1948年 - 1958年、ウェスティングハウスの一社提供番組)の1エピソード(第7シーズンの第1回)として、1954年9月20日の22時00分 - 23時00分(EST)に放送された。タイトル表記は『Twelve Angry Men』。 放送当時はVTRが開発される以前であり、実用的な収録技術が無いことから、テレビドラマは生放送が普通であり、本作も生放送であった。演出は、当時CBS社員だったフランクリン・J・シャフナー。製作にあたっては放送時間の制約により、ローズが執筆したもともとの脚本から多くのセリフがカットされた。 このドラマは高評価を獲得し、後の映画版につながることとなる。また、プライムタイム・エミー賞において、脚本(レジナルド・ローズ)、演出監督(フランクリン・J・シャフナー)、最優秀男優(ロバート・カミングス)を受賞し、3冠に輝いた。他にもクリストファー賞、シルヴァニア賞も受賞した。 キャスト
スタッフ
映像の保存状況前述のとおり、この作品は生放送であった。映像はキネコで記録されたが、当時の映像保存の技術・環境が不安定であったこともあり、CBSが保有していたキネコフィルムは前半部だけであった。そのため長い間、後半部分は喪失したものと考えられていた。 しかし、2003年に全編を収録したキネコフィルムが、弁護士Samuel Leibowitzの自宅で発見された。発見したのは、Samuelを取材していた、ヒストリー・チャンネルの記者Joseph Consentinoであった。このフィルムは後に、ペイリー・センター・フォー・メディア(旧テレビ・ラジオ博物館)に寄贈された。同年5月23日 - 7月6日に、ニューヨークとビバリーヒルズにて公開された。これにあわせて、映像のリマスタリングも施された。 2008年にはアメリカで、テレビシリーズ『Studio One』のDVDセットの一つとして、初のソフト化がされた。2010年には、同じく『Studio One』で放送されたレジナルド・ローズ作のドラマ『An Almanac of Liberty』とともにDVDソフトとして発売された。いずれも日本での発売予定はない。 映画版→詳細は「十二人の怒れる男 (映画)」を参照
1957年にリメイク映画が製作された。監督はシドニー・ルメット、主演はヘンリー・フォンダ。公開当時より評価が高く、2007年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。 関連作品その後の映像化12人の怒れる男 評決の行方1997年8月17日にテレビ映画として、オリジナルと同じ脚本でリメイクされた作品。監督はウィリアム・フリードキン。MGMテレビジョン製作。上映時間は117分。作品自体高い評価を受けてプライムタイム・エミー賞 作品賞(テレビ映画部門)にノミネートされた。 ジャック・レモン、ジョージ・C・スコット、アーミン・ミューラー=スタールが出演。ジョージ・C・スコットは、この作品でゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞している。他には、『CSI科学捜査班』のウィリアム・ピーターセン、『ギャラクティカ』のエドワード・ジェームズ・オルモス、『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』のジェームズ・ガンドルフィーニも出演している。 原題はオリジナルと同じだが、日本では1957年映画版と区別するために、上記のような副題を付してビデオソフトとして発売された。アメリカでは後にDVD化され、日本でも2011年10月に発売された。また日本では、2003年12月にNHKの総合テレビおよびBS2で放映された。 キャスト
12人の怒れる男→詳細は「12人の怒れる男」を参照
原題は『12』。2007年に、ロシアの映画監督ニキータ・ミハルコフによって、時代・舞台設定を現代のロシアに置き換えて翻案・脚色された映画。監督は、陪審員2番として出演もしている。この作品は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞やアカデミー外国語映画賞候補に選ばれるなど、世界的に高い評価を得ている。日本では2008年8月23日より公開された。 その他
舞台化原作者のレジナルド・ローズが、テレビドラマ版の翌年(1955年)に本作品を舞台用に脚色した。それ以来、広く上演されている。女性の役者がキャスティングされる場合、『12 Angry Jurors』(12人の怒れる陪審員)や『12 Angry Women』(12人の怒れる女)と改題されるなど、様々な脚色がされるケースもある。 1964年には、ロンドンにおいてレオ・ゲン主演で上演された。 1973年には、スペインのTelevision Española(TVE)のEstudio 1によって製作・放映された。このスペイン映像作品版は正確には舞台ではなく、スタジオ内で製作と撮影が行われたものである。アメリカ映画版でカットされたシーンやセリフを追加して113分となり、映画版より長い作品になった。映画版でカットされ、本作では追加された2つのシーンとして、以下に例をあげる。
1996年3月7日には、ハロルド・ピンターが脚色を行い、ブリストル・オールド・ヴィックで公演を行った。 2004年にはラウンドアバウト・シアター・カンパニーによって、ブロードウェイ公演が行われた。この公演で2005年に、ドラマデスク賞演劇リバイバル作品賞とトニー賞演劇リバイバル作品賞を受賞した。2007年 - 2008年には全米ツアーを実施した。 2009年には、レバノンの官僚たちが刑務所の状況について議論する設定に置き換えて翻案された『Twelve Angry Lebanese』(十二人の怒れるレバノン人)が、実際のレバノン人受刑者たちによって上演された。 日本では劇団東京演劇座が定期的に公演を行っている。俳優座プロデュース公演も繰返し上演されてきた。他の劇団でも度々上演されている人気の演目である。 日本での影響額田やえ子の訳により、本作品のシナリオが日本語訳されている(初版:1979年、劇書房)。本作は日本でも広く舞台化されているが、そのほとんどは額田訳のシナリオをもとにしている。特に、2009年11月 - 12月には蜷川幸雄演出、中井貴一主演で、シアターコクーンにて上演された。 他の日本語訳版として酒井洋子の訳がある。この訳を基に、1988年より俳優座劇場プロデュースで上演されている。 また、本作品にインスピレーションを得て、筒井康隆作『12人の浮かれる男』や三谷幸喜作『12人の優しい日本人』、東野ひろあき作『十二人のおかしな大阪人』など、陪審制度に題材をとった戯曲が作られた。手塚治虫も1981年に漫画作品『七色いんこ』において「12人の怒れる男」と題した回を執筆している。ただし、本作とは逆に、主人公が他の陪審員の意見を覆して被告人を有罪にするという展開になっている。 関連項目 |