姦通
姦通(かんつう)は、社会・道徳に背いた不貞行為・性交渉のことである[1][2]。特に既婚者が、配偶者以外の異性と肉体関係をもつこと[1]と言う場合もあるが、未婚の者どうしの性的交渉について意味する事が多い「婚外(性)交渉」と異なり、一方または両方の相手が、社会制度の下で婚姻状態にある場合に行われる、婚姻に基づかない他の相手との関係について特に言う場合が多い。 姦通罪がある国では、違反者には刑事罰が与えられる。日本のように刑法から削除した国では、姦通は民法と道義の話になっている[3]。 →「姦通罪」も参照
概要社会的に承認される性行為は通常、婚姻によるものであるが、世界の地域・時代によっては、婚姻以外にも社会的に承認される関係は存在した。儒教においては、妾を持つことが認められており、日本でも側室などは公的な存在であり、一夫一妻制が厳しかったキリスト教でも公妾が存在することがあった。また、娼婦・奴隷等と性交渉を持つことが公的に認められた時代もあった。 一方、社会的に容認されないとされるものの例には、既婚の女性の他、他人の妾、他人の側室、親の保護下にある未婚の娘との性的関係がある。また、身分制度の影響や、宗教支配の強い国や民族・宗教集団では、身分の異なる相手(異なるカーストなど)、異教徒の相手との通婚が禁じられていた。また儒教圏においては、儒教が厳しく解釈された地域・時代における父系親族(同姓不婚)との関係や婚姻があった。 宗教や民族・地域・時代によっては、同性愛が含まれる場合もある。近親相姦は、いくつかの社会でそれにまつわるタブー(インセスト・タブー)が存在する。 既婚者が不貞行為に及ぶ理由としては、セックスレス状態に陥っていたり、家庭からの現実逃避などが挙げられる[4]。 語源江戸時代では「姦通」のほか、「密通」「不貞」「不義」という表現が使われ、日常的には「浮気」も用いられた[5]。 「不倫」という言葉は元々、倫理から外れたこと、人の道から外れたことを意味した[5]。近年では特に、近代的な結婚制度(一夫一婦制)から逸脱した男女関係、すなわち配偶者のある男や女が配偶者以外の異性と行う恋愛・性行為を指して用いられる[5]。1930年代の雑誌記事では「姦通」、1960年代以後は「浮気」の表現が多い[5]。TBSのテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』(1983年)により「不倫」という言葉が広まったと考えられている[6][5]。 本来は、不倫(ふりん)・不義密通も同じ意味であるが、現代日本語では、既婚者が配偶者以外の者と性交渉を持つ行為を主に不倫(ふりん)と呼ぶようになった。 関連語
サレ妻・サレ夫サレ妻(されづま)・サレ夫(されお)はそれぞれ不倫された妻・夫を意味する。 もともとは2ちゃんねるの不倫・浮気板で使われるネットスラングであった[7]が、ケータイ小説でも使われ、2008年には「戦場のサレ妻」が書籍化されている[7]。またブログでも一般的に使われるようになっていった[7][8]。 その後、2018年にはテレビドラマからも「サレ妻地獄へ、ようこそ」をキャッチコピーとする『ホリデイラブ』が登場し[9]、サレ妻・サレ夫はネットに留まらない用語となった。 2021年12月にはNHK Eテレの番組『ねほりんぱほりん』からも「サレ妻・サレ夫」の回が登場した[10]。 日本不義密通というのは、要するに他人の保護下にある女性に対して保護者の許可無く(不義)、密かに性交渉を持つ(密通)ことであり、他人の妻、妾または娘が対象となる。男が未婚の場合、未婚の娘に結婚を申し込むことは可能であるが、家同士の関係で結婚が決まる時代においては、身分や貧富の差があった場合、許可されないことが多く、駆け落ち、心中といった悲劇につながった。 古代日本においては、一夫多妻制の上に招婿婚(妻問婚)という社会制度のため、夫が妻(正室)の家にいつもいるわけではないこともあり、夫が他の女性の家へと行っている時には別の男性が来ることもあったらしく、また男性が恋人の女性の家へと行くと、すでに他の男性が来ていたということもあった(『古今和歌集』に収録されている歌にも、多くその時に歌われたと思われるものがある)。ただし、その夫や恋人がそのことに対して声高に訴えたり、ましてや公にすることは、面子もあって滅多に無かったようだ。 平安時代では、やはり男は多くの女の元へ通うのが常識であり、一人の女性しか愛さない男は真面目人間として軽く見られた。しかし人の妻を奪うことは非常識とされ、世間の非難を浴びた。 鎌倉時代には、武家法である御成敗式目第34条において不倫密懐に関する処罰が規定され[12]、不倫密懐は所領半分没収の上職務罷免とされ、武家文化の中で厳しく処罰される端緒となった。御成敗式目は戦国・江戸時代を通じて各家法に強い影響を与え、武家法の基礎となった(「密懐法」を参照)。 江戸時代の寛保2年の公事方御定書47条[注釈 1]には不義密通を死罪とする重罰規定が見られる[注釈 2]。 しかし、御成敗式目、公事方御定書とも既婚男性が未婚女性と関係に及ぶ件に関しては規定がない。御成敗式目は戦国・江戸時代を通じて各家法に強い影響を与え、武家法の基礎となった(「密懐法」を参照)。 これに対し、庶民の性風俗に関わる明確な取り決めは見られず、近世(江戸時代)以前には配偶者以外との性交渉は珍しいことではなく、近代に入っても戦前では特に農村などではその風潮が一部に残っていた。 近代に入ってからも、「浮気は男の甲斐性」などと既婚男性が未婚女性と関係にいたる限り、容認する風潮が長く続いていた。 近代以降、戦前戦中まで、既婚男性が未婚女性を愛人に持つことは容認されても既婚女性が未婚男性と浮気をすることは容認されないとされており、既婚女性が関係に及んだ場合、後述の姦通罪廃止までは、相手の男性から男女とも刑事告訴されることがあった。1947年(昭和22年)施行の日本国憲法下における刑法改正により、同年10月26日をもって姦通罪は廃止され、それ以降現在まで、日本の法律では刑罰を受けることはなくなっている。 公事に基づく処罰や刑事罰が科されなくとも、不貞を働いた者には村落や島嶼、鉱山などの共同体の中で私刑が課せられることがあった。長崎県の高島炭鉱では、不貞を働いた女性(姦婦)を見せしめのために全裸にしてはりつけ、人目の多い場所で拷問する私刑が行われていた[13]。 現代日本前述の日本国憲法下の1947年(昭和22年)刑法改正に際し、既婚女性と関係を持った者や既婚女性のみ姦通罪が適用されるのは憲法違反ではないかと議論になり、既婚男性と既婚男性と関係を持った者にも適用範囲を拡大するか、姦通行為への刑事罰自体を廃止してしまうのか議論になり、最終的には姦通罪は廃止された[14]。 →「不貞行為」も参照
戦後の法制度下では、婚姻関係にある男女への他人の性的な介入は、不貞行為として、婚姻下にある配偶者としての貞操義務違反行為に該当するとされており、法的にも現在まで確立している。 不貞行為は、民法770条の離婚事由の一つとしてあげられ、配偶者に不貞な行為があったとき、離婚の訴えを提起することができる場合(離婚原因)と規定している。なお、離婚の事由となる「不貞行為」とは、婚姻関係にある者が婚姻相手以外と性交渉をすることであり、前者が後者を強姦した場合[15]や売春の枠内での性交渉[16]も含まれる。ただし、短期間の一時的な関係だった場合には離婚事由に至らないとして離婚の訴えが退けられる場合もある。また、性的関係に至らない、単純な交際(デートやキスなど)だけでは、不貞行為に当たらないとするのが通説である[17]。婚姻関係にある男女の一方が他人と異性愛でなく同性愛の関係を持った場合は、判決で不貞行為に当たらないとされていたが、近年、女性同性愛による他人との関係も不貞行為とし損害賠償を命じる判例が出てきている[18]。 つまり、民法制度上は、不貞行為の相手方や、相手となった夫または妻に対して、貞操義務に違反した精神的苦痛を理由とした不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求、さらに不貞行為を原因として、別居状態に至ったり、あるいは離婚の訴えによる裁判離婚または不貞行為を理由とする協議離婚が成立した場合、不貞行為の相手方や、相手となった夫または妻は、精神的苦痛に加えて、別居状態になったこと、または婚姻関係が破綻したことを原因とする逸失利益および精神的苦痛を理由とした不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を重ねて負う事になる。別居や離婚に至った場合、精神的苦痛による慰謝料だけでも数百万円に上る場合がある。つまり、不倫が犯罪ではないとしても、家庭や友人関係を一気に崩壊させる危険をはらみ、経済的・精神的に深刻な打撃を受け、社会的信用はもとより、自身の社会的な基盤すらをも失う可能性がある。[要出典] さらに、夫婦間に子がいる場合、特に幼年から若年の子である場合、不倫を原因とする両親の不仲や諍いのために、子の精神状態が不安定になり、心身症などの精神的障害などを負ってしまう場合がある。これに関しても、医学的に精神的障害と不倫(およびそれを原因とする両親の不仲)との相当因果関係が立証されれば、不貞行為の相手方や、相手となった夫または妻は、それによる不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を重ねて負う。ただしこの場合、通説および判例では、子が損害賠償請求をしても退けられる、不倫の被害方となった配偶者側が子の精神的損害について配偶者側の慰謝料請求の増額要因となると言う解釈である。[要出典] 重婚的内縁関係に於いては、実子を邪魔な存在と感じて児童虐待に及ぶケースがある。[要出典] 芸能人の不倫発覚・イメージ悪化と広告契約における禁止条項芸能人や政治家、スポーツ選手などの有名人の場合は、特に不祥事として非難を受け、イメージ悪化に繋がり、不倫(既婚者の浮気)を是としない人々からの支持を大幅に失う。 CMを含めた広告では、契約時では「好感度の高いイメージを持つ芸能人」を採用し、商品やサービスのイメージ向上につなげようとする。そのため、CM等の広告の契約書には、放映期間中に不倫等の世間のイメージと異なることをしないと約束した条項が入っている[19]。 歴史学者の濱田浩一郎は2016年(平成28年)、昨今の男性が不倫した際にも世論の反応が過熱する背景として、昔のように男性優位の社会ではなくなったことや、結婚相手を『運命の相手』とし、一生の恋愛関係にあることを理想とする考え(ロマンチック・ラブ)が広まったことが一因となっていると語った[20]。 駒澤大学准教授の山口浩は、インターネットによりバッシングが可視化され、意見が見えることにより、多数派の流れに逆らう意見は出にくくなり、インターネットでのコメントは、一方向への大きな流れが起きやすいと語った。また、バッシングが過熱した要因として、マスメディアの存在を挙げ、「怒りの感情は人を動かしやすいので、ネットに募る批判は“おいしい材料”。つまり、ネットで批判が盛り上がると、メディアはそれを煽るような内容を報じる。すると、さらにネットが盛り上がる。こうしてネットとマスメディアの間を、掛け合いのようにぐるぐる回っていき、火種がすごく大きくなってしまう。こういった炎上の構造ができている」と語った[21]。 また、一連の不倫報道の激化は、公正世界信念に基づき炎上しやすく、マスメディアによる消費報道、過剰報道がそれを煽っているのではないかと言う意見もある[22]。 不倫した者の知名度が高かったり、清純派や誠実のイメージが強いほどと「騙された」と感じる人が多くなり、ダメージを受ける[23]。清純派という世間のイメージと異なる実態が発覚したことでイメージがひっくり返ったケースとして、元卓球女子日本代表でタレントの福原愛、小泉今日子、松田聖子、宮崎あおい、広末涼子、矢口真里、ベッキー、雛形あきこ、斉藤由貴、鈴木杏樹、唐田えりかなど元清純派のタレントが多数存在する[24]。2023年8月に不倫が発覚したジャングルポケット斉藤も不倫報道で過去に称賛集めたいじめ被害告白に説得力が無くなる事態になり、世論で「人の心の痛みを良く知っている人だと思ってた。不倫もいじめと同じ。魂の殺人だと思う」などの落胆が広がった[25]。 CMは芸能事務所とタレントにとって、最も大きな収入源であるが、不倫等のイメージと大きく異なる実態が発覚した際には打ち切りになる。そして、基本的には不倫が発覚した者にはCM出演依頼は来なくなる[19]。 ユダヤ教・キリスト教『旧約聖書』の『出エジプト記』第20章に出てくるモーゼの十戒の中に、「なんじ姦淫するべからず」というものがある。 イスラム教→詳細は「ズィナー」を参照
イスラム法では、姦通に対しては特に厳しく、石打の刑が定められている。イスラム法(シャリーア)にはズィナーという婚外の性行為(強姦、結婚前性行為、売春、同性間の性行為など)および肛門性交を重罪としており、既婚女性との不倫や既婚者が不倫することも死刑になることもある[26]。 不倫がテーマとなった小説、漫画、テレビドラマ、楽曲など古くは古代ギリシアのホメーロスの作品に姦通が描写されている[27]。姦通はヨーロッパの騎士道物語の重要な要素でもある[27]。 11世紀後半から12世紀頃南フランスを中心にして宮廷風恋愛をテーマとする詩歌が発展しはじめた[28]。『トリスタンとイゾルデ』などに見られるように、宮廷風恋愛は君主を夫とする妻(妃)と君主に仕える騎士の間の愛を描いたもので、その関係は基本的に不倫である[28]。これには、政略結婚が一般的で君主と妻の間の愛が薄かった時代背景がある[28]。 日本の平安時代の『源氏物語』が不倫を扱った作品とされることもあるが、一夫一婦制が一般的でなかった時代の作品であるため、現代的観点でいう「不倫」に分類することは不適切だという意見もある[29]。 文学作品
漫画
テレビ・映画作品
音楽作品
脚注注釈出典
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