急性呼吸窮迫症候群
急性呼吸窮迫症候群 (きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん、英: acute respiratory distress syndrome, ARDS) とは、臨床的に重症の状態の患者に突然起こる呼吸不全の一種である。特に発症前後の状態を急性肺傷害 (acute lung injury, ALI) と言う。本項では二つをまとめて述べる。 かつては成人呼吸促迫症候群 (adult respiratory distress syndrome) と呼ばれた。これは超未熟児における新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)と区別するためであるが、本症は未成年にも見られるため、現在はこの呼称は使われない。 病因敗血症、大量輸血、重症肺炎、胸部外傷、肺塞栓、人工呼吸、純酸素吸入、急性膵炎等で重症の患者に突然起こる。その初期段階における病態生理は様々であるが、最終的に発症に至る経緯及び治療法は同じである。
心不全による肺水腫に合併することもあるが、本症はより重症であり、明確に鑑別されなければならない。 こうした背景のある患者においては、腫瘍壊死因子やインターロイキン1・6・8が血流中に放出されている。肺は体内を循環する血液が必ず通る臓器であるため、その影響を受けやすい。好中球が誘引され、肺組織において活性酸素やプロテアーゼを放出して肺胞毛細血管上皮や肺胞上皮組織を傷害する。肺に定着した好中球はさらにG-CSFやGM-CSFを放出し、局所の炎症反応を増幅する。こうして血管透過性が増し、間質さらには肺胞内まで血性の滲出液で満たされてしまう。 換気血流不均衡と死腔の増大により、CO2の呼出には通常より多くの換気が必要となる。しかし初期には滲出液で満たされた肺胞が、そして後期には線維化した肺がコンプライアンスの低下(肺の硬化)をもたらし、高い圧での人工呼吸が必要となる。 肺胞の毛細血管は換気が悪いと収縮し、換気の良い部位の血流を増大させる作用がある。しかし本症においては、肺の多くの部位で換気が悪くなるため、それらの部位の毛細血管が収縮し、肺高血圧症をもたらす。 疫学集中治療室に収容中の患者の15%、人工呼吸を受けている患者の20%に起こる。 症状・徴候酸素飽和度と動脈血酸素分圧が急激に低下する。北米・ヨーロッパコンセンサス会議 (NAECC) は、P/F比 =(動脈血酸素分圧 / mmHg)÷(吸入気の酸素分率)が200以下のものをARDS、300以下のものをALIと定めた。この定義でALIの患者の4人に1人が、7日以内にARDSへと発展する[2]。他に数値で表すべき診断基準は未だ定まっていない[3]。 臨床的には、頻呼吸と1回換気量の低下が起きる。胸部X線上は著明な浸潤影を認める。 合併症
治療気管挿管を行い、人工呼吸管理が必要である。大量の気道分泌物によって肺胞虚脱や細気管支の閉塞が起きるため、高い呼気終末陽圧で管理する。集中治療室管理が必要である。 心不全を合併していなければ、肺動脈カテーテルの適応ではないと考えられている。 現在、以下の治療法が研究されている。
予後治療開始の早さが予後を決定する。死亡率は4割程度であるが、背景にある疾患と本症による呼吸不全とが互いに増悪し合ってのものが多い。酸素が持つ細胞傷害作用が肺の線維化を助長するため、数日経っても人工呼吸器の酸素濃度を50%まで下げられなかった患者は予後が悪い。 本症の回復を見た症例では、線維化はある程度は可逆的であり、呼吸器系の後遺症は軽度なものが残る。重度の低酸素症を経験した場合は高次脳機能障害が残ることもある。 参考文献総説
出典
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