札幌競馬場
札幌競馬場(さっぽろけいばじょう/ 英: Sapporo Racecourse)は、北海道札幌市中央区にある中央競馬の競馬場。 競馬場概要
1907年(明治40年)10月に、桑園駅付近の現在地にて開設(開設までの経緯は#コース周回の変遷、札幌育種場競馬場、中島遊園地競馬場を参照)。 施設所有者は日本中央競馬会 (JRA) で、ホッカイドウ競馬が開催していた際(後述)は施設をJRAから賃借していた。 JRAでは非開催時も場外発売所(場外発売時は「パークウインズ札幌」と呼称)として使用しているほか、トレーニングセールの会場としても使用される[3]。 札幌市の「広域避難場所」に指定されており、大規模火災の発生時には避難所としても使用される[4][5]。 スタンド・施設1971年に竣工した旧メインスタンドは[6]、小規模な改修を加えながら41年にわたり使われ、取り壊しを伴う大規模なスタンド改築は長らく行われなかったが、2012年10月より現在地で新スタンドへの改築工事に着手、2013年11月30日より新スタンドの一部となる「パークウインズ棟」が先行開業[7]。2014年7月8日に竣工式が行われ[8]、同年7月26日にグランドオープンした[9][10]。 新メインスタンドは札幌競馬開催期間のほか、非開催日の場外発売に利用する「パークウインズ棟」と、札幌競馬開催期間中のみ供用される地上5階建ての「スタンド棟」の2棟に区分。1・2階が一般席、3階は指定席エリア、4階は馬主席エリア、5階は業務区域となる。日本の競馬場では初めてとなるテラス席「もいわテラス」が、パークウインズ棟の2階屋上に新設された[10]。パークウインズ棟にはこのほか、天井の高い開放的な室内空間「ファンファーレホール」も設置された[10]。
馬場内には投票所のほか、子供向け遊具「パカパカドーム」や水遊びができる「じゃぶじゃぶ池」、馬車の試乗会や体験乗馬などができる「ポニーリンク」がある[14]。
コース概要芝コース・ダートコースともに平坦な右回りコースで、全体として大きな高低差はない(芝コースの高低差は0.7m、ダートコースの高低差は0.9m)ものの、向正面は芝コースとダートコースで異なる勾配がつけられている[16]。障害競走用コースは設置されていない。 芝コース・ダートコースともに丸っこい形状が特徴で、楕円形というよりも円形に近い[16]。 芝コースは1周距離が1640.9m(Aコース)あるわりに第4コーナーからゴールまでの直線が短く(Aコースの場合266.1m)、コーナーの半径も大きくとられて緩やかになっている[16]。1周のうち直線距離よりもコーナーをまわる距離の方が長く、スパイラルカーブも採用されていないため、馬群の外を回れば回るほど距離のロスが大きくなる[16]。ゴール板は第1コーナーに差し掛かる手前に設置されている[注 3]。競馬エイトの松本ヒロシがJRA全10競馬場のコーナーについて、曲線やカーブの大きさを表す「R値」を算出して比較したところ、札幌競馬場は最も大きかった東京競馬場(187)に次ぐ値(167)だという[17]。 ダートコースも同様で、1周の距離は1487mで中京競馬場に次ぐ大きさであるが、直線の長さは264.3mとやはり一周距離に比して短い[16][注 4]。 1989年に新設(後述)された洋芝コースは野芝に比べ寒さに強く、緑色も鮮やかで見栄えがよい[18]反面、メンテナンスに手間がかかるため野芝より傷みやすい[19]うえ耐久性に乏しく[16]パワーとスタミナを要する[18]とされ、馬により適性も異なるため道外の競馬場で結果を残せなかった馬が札幌や函館でいきなり好走する場合がある。また、洋芝はしっかりと整備された馬場状態であれば野芝と比べても遜色のないタイムが出る[19]ものの、開催が終盤になるにつれて内側の芝に傷みが目立つようになり、内側のコースを通る馬が苦戦する傾向がある[16]。このため、馬場の外側から差してくる馬(いわゆる「外差し」)も見られる[16]。福島競馬場や小倉競馬場など小回りコースを得意としている馬であっても、札幌・函館では結果を残せないケースも見られるため、近年では札幌・函館の洋芝コースに対する適性が馬券検討などでもある程度重視されるようになった[18]。 芝コース
ダートコース現在のダートコースは当初調教用馬場であったが、ホッカイドウ競馬では1975年からレースで使用していた。その後外回りコース(旧ダートコース)が芝コースに改修されたため、中央競馬でも新ダートコースとして使用を始めた。 前述の通り、ホッカイドウ競馬は2010年以降札幌競馬場での開催を行っていないが、開催権を保持していた2014年度の距離設定も併記する。 歴史コース周回の変遷札幌競馬場の起源は、明治初期に公道で行われた仮設の直線コースに由来し、北海道庁付近のホップ園を周回する仮設馬場を経て1878年(明治11年)に開設された札幌育種場競馬場までさかのぼる。北海道では開拓にあたりアメリカからエドウィン・ダンを招いており、札幌育種場競馬場の指導にも関わっている。このため左回りが主流のアメリカ競馬の影響を強く受けており、札幌育種場競馬場やのちに移転された中島遊園地競馬場も左回りとなった[23]。1907年(明治40年)に現在地で札幌競馬場が開設された頃にはアメリカから受けた影響も薄れ、横浜(根岸)競馬場などと同様に右回りとなった。当時は決勝線が正面直線の真ん中に設けられていたため、左右どちらの回りでも最後の直線距離はほぼ変わらなかったこともあり、右回りのほか左回りでも競走を行っていた。1932年(昭和7年)[24]8月14日の札幌競馬を澄宮が観覧したことを報じた北海タイムスでは「札幌競馬特有の左手前(左回り)競走に特に興味を示した」旨が書かれており、札幌の左回り競走は当時の「名物」であった[23]。 札幌競馬は太平洋戦争による中断を経て、1946年(昭和21年)7月に進駐軍主催のアメリカ独立記念日を祝う競馬会として再開。進駐軍は、戦争中に畑になっていたコースをわずか1日の突貫工事で整備。整備はアメリカ軍が手掛けたため、本国と同様に札幌競馬場は再び左回りとなった。この際に第4コーナー(現在の第1コーナー)へ合流する引込線が設けられ、直線に近い形(逆「へ」の字)の800mと、引込線からスタートして1周する2400mの競走が行われていた[23]。こうして札幌競馬場では1974年(昭和49年)まで左回りでレースが行われ、1975年(昭和50年)のスタンド増改築工事とともに右回りに変更された[23][25]。 1968年(昭和43年)までは左回りの砂コース[26]で、1969年(昭和44年)から左回りダートに変更[26]された後、1975年(昭和50年)に右回りダートに変更(前述)[27][26]。1989年(平成元年)に100%洋芝の芝コースが新設された(次項)[26]。 洋芝コースの設置とオーバーシードの技術開発1988年(昭和63年)までの札幌競馬場には、中央競馬を開催する競馬場としては唯一、芝コースがなかった[28]。従来、JRAの競馬場における芝コースでは冬季に枯れて休眠する性質を持つ暖地型芝(野芝)を使用していたため、冬季の冷え込みが厳しく積雪量も多い札幌では、野芝を植えても「ただ生えているだけ」の状態[28]で馬場に使用することができず、芝コースの設置は道内でも比較的温暖な函館競馬場[28]が北限とされていた(ただし、函館での野芝の育成は本州と比べ倍の時間を要した[28])。 しかし、札幌と同様に冷涼な気候の欧米では芝の競馬が行われている[28]ことから、JRAでは1977年(昭和52年)より競走馬総合研究所が中心となって札幌競馬場の気候条件に適した天然芝の研究・開発に着手[28][29]し、寒さに強い性質を持つ複数の洋芝を用いた馬場生育法を確立[28]。これにより、札幌競馬場でも芝コースの設置が可能になったことで1989年(平成元年)に外回りダートコースを改修し、ケンタッキーブルーグラス・トールフェスク・ペレニアルライグラスの3種類[29][19]を混生させた100%洋芝の芝コースを新設[30]。その後、1994年(平成6年)には函館競馬場でも芝コースを洋芝に変更するコース改修が行われた[注 5]。なお、1989年(平成元年)のJRA札幌競馬は芝を育成・保護するため新ダートコース(旧内回りダートコース)のみで行われ、芝コースの運用開始は1990年(平成2年)からとなった[30]。 芝コースの土台となる路盤も、洋芝に適した構造の研究を進めた[28]。従来、競馬場の芝コースにおける路盤はしっかり締め固められた山砂層の上に黒土の肌土を置き、その上に芝を張るのが常識とされ、雨が降っても黒土層より下に蹄が潜らないうえ、芝の管理にも適した路盤構造とされていた[28]。その反面、ひとたび雨が降るとゴール前では馬も人も泥で真っ黒になる事態も発生した[28]。このような悪条件を解消するために吸水ローラーが開発されたりもした[28]が、札幌競馬場の路盤はそれすら必要とせず、馬場全体を均一に保つことができる画期的な馬場構造を実現した[28]。また、札幌競馬場の芝コースは非常に水はけがよいため、芝コースの馬場状態が「重」になることは少なく、「不良」まで悪化したことは2019年(令和元年)まで一度もない[16]。その後、他のJRA競馬場でもこれを応用した馬場構造が採用された[28]ほか、後述のオーバーシード法とともに、天然芝を用いるサッカー場の構造にも応用されている[28]。 一方、JRAではもう一つの課題として、「芝コースの通年緑化」という悲願もあった。1981年(昭和56年)にジャパンカップが東京競馬場に創設されたが、当時東京競馬場の芝コースは野芝のみを使用していたため、ジャパンカップの施行時期に当たる11月下旬には野芝が冬枯れし、芝コースも茶色くなっていた[29]。第1回ジャパンカップで招かれた外国の関係者が茶色くなっていた東京競馬場の芝コースを見た際「どこに芝馬場があるの」などと言われ、これがJRAに芝馬場の通年緑化を決意させたきっかけとされる[29]。その後、1986年(昭和61年)から競馬学校やトレーニングセンター(美浦・栗東)の芝馬場を使った調査試験に着手[29]し、暖地型の野芝の上に寒地型の洋芝の種を秋にまいて発芽させる「冬期オーバーシード法」の技術が確立された[29]。最初に実用化されたのは1991年(平成3年)の阪神競馬場[29]で、1995年(平成7年)までに札幌と函館を除くJRAの8競馬場、美浦・栗東の各トレーニングセンターにおいても芝馬場の通年緑化が実現した[29]。その後、各競馬場の開催時期に合わせた3種類のオーバーシード法が導入され、工夫や改良が施されている[29]。 中央競馬の開催1848年、国営競馬による開催が決定。同年9月11日の札幌競馬場における競走が初開催となった[31]。1954年、国営競馬から中央競馬に移行した後も、札幌開催は続けられている。 2022年は7月23日から9月4日まで2回・14日開催。全て第3場開催として扱われるが、夏季競馬で唯一のGII競走(札幌記念)も施行されるなど、同時開催している主場より注目される場合もある。また、函館競馬場と同様に一般競走も含め多くのレースで関東(美浦)所属と関西(栗東)所属の馬や騎手が混在する。 なお、例外的に2021年は東京オリンピックのマラソン・競歩競技が当初の会場だった東京都内の猛暑対策の観点で札幌市周辺に変更された関係に伴い、その警備上の観点から第1回札幌を6月の3週間、第2回札幌を8-9月の4週間で開催された[32]。当初は2020年に同様の日割で開催予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う東京オリンピックの開催延期により通常日程・「無観客競馬」で開催されていた。 最寄り駅であるJR北海道桑園駅の開業100周年を記念し、2024年8月11日の第9レースに「桑園駅開業100周年記念」が開催される[33]。 重賞競走2015年現在、施行されているのは以下の5競走。
発売する馬券の種類全レース100円単位。 ○…発売 ×…発売なし
ホッカイドウ競馬の開催札幌競馬場では中央競馬のほか、1953年から2009年までホッカイドウ競馬も開催しており、中央競馬を開催する競馬場としては最後まで、地方競馬を併催していた[注 7]。2010年以降はホッカイドウ競馬が門別競馬場での単独開催となった[34][35]ため、以後は中央競馬のみ開催している。 開催を行わなくなった2010年以降も、北海道地方競馬実施条例には施行競馬場として札幌競馬場が残されている(2014年7月15日改正時点)[36]ほか、ホッカイドウ競馬の番組編成要領には札幌競馬場での出走可能頭数など札幌競馬場に関する記述が2014年時点では残っていた[37](2015年の要領からは削除[38])。地方競馬全国協会の公式サイトでは、「競馬場ガイド」のページに札幌競馬場は記載されていない[39]一方、「地方競馬のあらまし」のページでは主催者と競馬場の一覧に中央競馬との共用競馬場として中京競馬場とともに札幌競馬場の記載がある[40]。ホッカイドウ競馬では2021年に一般のファンから「第3期北海道競馬推進プラン」の素案に対する意見を募集し、札幌競馬場での開催を望む声もあったが、コスト面での問題から札幌での開催は困難としている[41]。 また、ホッカイドウ競馬による場外発売所(札幌場外発売所)としても使用されていたが、2009年の開催最終日をもって場外発売を終了した[42]。 開催日数の変遷2005年(平成17年)以降の札幌競馬場におけるホッカイドウ競馬の開催日数は以下の通り。 開催日数は2007年(平成19年)から大幅に減少し、2009年(平成21年)の開催日数はわずか6日だった。2010年以後は門別競馬場を会場として、すべての開催日を「グランシャリオナイター」として施行しているため、札幌競馬場でのホッカイドウ競馬は休止扱いとなっている。このため2009年が現状最後となった。
レコードタイム・基準タイムJRAではコース改修をした最初の開催を通じて、距離別・コース別各々での最高タイム(第1着馬が記録したもの)を「基準タイム」と定義[48]しており、次開催以降に基準タイムを上回った場合に、初めてレコードタイムとして記録される。 ホッカイドウ競馬では基準タイム制度を設けておらず、レコードタイムも中央競馬開催時とは別に記録している。このため、ダートの競走ではホッカイドウ競馬のレコードタイムが中央競馬のそれを上回るケースも見られた。 すべてサラ系の競走のみ記載。 中央競馬
芝コース(2歳)
芝コース(3歳以上)
ダートコース(2歳)
ダートコース(3歳以上)
ホッカイドウ競馬2009年シーズン終了時までの記録。 3歳以上における2000年以前の記録は、旧馬齢表記で記載。 中央競馬開催におけるレコードタイム・基準タイムよりも速い場合は、タイムを太字で表記する。 参考資料:Record Time Room ダートコース(2歳)
ダートコース(3歳以上)
アクセス無料送迎バス競馬開催日は札幌競馬場 ⇔ 桑園駅間、札幌競馬場 ⇔ 二十四軒駅間に無料送迎バスを運行している[1]。 脚注注釈
出典
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