索道索道(さくどう)とは、空中に渡したロープに吊り下げた輸送用機器に人や貨物を乗せ、輸送を行う交通機関である。ロープウェイ(ropeway)[注 1]、ゴンドラリフト、スキー場などのリフトなどが索道に含まれる。 英語では、aerial tramway(エリアル・トラムウェイ)、aerial lift(エリアル・リフト)、gondola lift(ゴンドラ・リフト)、cable car(ケーブル・カー)、telecabine(テレキャビン)と呼ばれている。 概要駅と駅の間に架空したスチールロープ(鋼索)に、人や荷物などを載せるための搬器を懸垂させて輸送を行う[1]。路線の途中にロープを支えるための複数の滑車を備えた支柱を設けるタイプと、途中に支柱を設けないタイプの2種類がある。後者は前者と比べて支柱の建造費用の抑制というメリットがあるが、風による揺動を原因にした脱線事故が起こりやすく、荷重制限のため搬器もあまり多数を同時に運用できないので、効率は良くなかった。そのため、日本では昭和30年代以降はこのタイプで規模の大きな索道の新設は避けられるようになった。 地形の影響を受けにくく急勾配や急斜面にも対応できるほか、谷などの横断も比較的容易で、同じ地形でほかの交通と比較すると、建設コストを低廉に抑えることができる[1]。そのため山間部の観光地やスキー場など主に山岳における輸送に用いられる[1]。人員輸送のほかにも、建設業や林業などにおける資材や製品の輸送など、産業分野でも幅広く利用される。山小屋や山奥の温泉旅館など、自動車が走行できる道路が通じていない場所へ物資を輸送するために専用の索道が作られている例もある。 1990年代以降新しい形態のロープウェイ、複式単線 (DLM) フニテルが世界中で普及し始め、2000年頃から日本でも箱根、谷川岳、蔵王等で旧来のロープウェイが置き換えられ、運行されている。 歴史紀元前250年の中国華南で書かれた書物に、ロープを介した人間が移動する絵が記述されており、中国やインドなどの険しい山岳部の移動手段として「溜索」(古代名:撞[2])という名で数千年も使用されてきた[3]。 15世紀になると、それまで動力に馬などが利用されていたのが風車・水力・重力などの動力を使う構想がなされるようになっていった。 用途人間の移動だけでなく、鉱業の採掘物、農作物・材木の移動にも利用された。 また、アルプス山脈周辺の国々は、第一次世界大戦と第二次世界大戦中に駄獣に分割して載せられるようにしたもので短期間で建築して移動するシステムを開発し、イタリア人によるものだけで2,000本のロープウェイが施設され、兵士や物資、傷病兵の移送に使用された(第一次世界大戦中の軍用ロープウェー)。 ハイライン - 船舶間の物資輸送用に使用されるシステム 構成架空されたワイヤロープに懸垂させた搬器をロープによって駆動して運行する[1]。 各部の名称日本の索道規則(昭和22年運輸省令第34号、1987年廃止、後述)では「架空した索条に搬器をつるして運送する設備をいう」とされた。 索条(さくじょう)とは空中に渡したロープのことで、搬器(はんき)とは吊り下げられている輸送機器のことである。索条は搬器を支持するための支索(しさく)、搬器を牽引するための曳索(えいさく)[注 2]、搬器を支持しながら牽引する支曳索(しえいさく)[注 2]に分類される(方式により異なる。後述)。搬器は箱型やかご型のもの、椅子型になっていて乗客が直接座るものがある。箱型やかご型の搬器は通俗的に「ゴンドラ」とも呼ばれる。また、旅客用のロープウェイは、安全上の理由から搬器の走行輪と係合する支索は1本または2本、搬器を牽引する支曳索の2本の3線または4線を架設することが規則で定められている。 支索は通常の鉄道やケーブルカーにおける軌条、曳索はケーブルカーにおける鋼索、搬器は車両に相当する。 搬器の種類
分類
支持牽引方法
走行方式
→「滑走式リフト」も参照
動力ほとんどの索道で電動機を動力源としており、その電動機は始点駅または終点駅のどちらかに設置されているものがほとんどである。なお、停電時は使用できないため、ディーゼルエンジンなどの非常用発動機が装備されている。構造上、貨物用など限られた搬器以外は動力を持たず、電力供給も受けないことが多い。ただし、電力供給については3Sロープウェイでの例はある。 日本においては、山口きらら博のパルスゴンドラ「きらゴン」で初めて空調装置を搭載した搬器が登場した。これは内燃機関発電機を搭載した電源専用の小型搬器を、乗客用搬器後部に連結する形態を採用していた[8][9]。またYOKOHAMA AIR CABINでは、駅において急速充電を行うバッテリーシステムを搬器に搭載し、空調装置やLED照明、安全監視装置などの電力供給を行えるようになった[10]。 各国での利用日本日本は世界有数のロープウェイの基数を有しており、大半は山間部で使用されているが、YOKOHAMA AIR CABINやスカイシャトルといった都市部での導入もされている。 旅客輸送日本国内では2002年現在、公共輸送システムとして約3,000基が設置されており、年間5億6,000万人余りの旅客を輸送している[1]。 →詳細は「日本の索道」を参照
旅客輸送用の索道は、日本では以前は索道規則[注 5]が根拠法令だったが、1987年に廃止され、以後は鉄道と同様に鉄道事業法にもとづいて運営が行われる。同法では「索道事業」を「他人の需要に応じ、索道による旅客又は貨物の運送を行う事業」と定義している。「索道事業」は、原則として国土交通大臣の許可が必要としている(例外は、専ら貨物を運送するものや、国が経営する索道のとき)。こうして同法で「鉄道事業」ではなく「索道事業」に分類されることから、「鉄道事業」に分類されているトロリーバスやモノレールなどと異なり、鉄道として扱われることはほとんどない。ただし、図鑑などには鉄道として掲載されることもある。単にロープウェイというと、支索と曳索が分かれている複線で、人や貨物を載せる搬器にも車輪がついているものを指す。搬器に車輪が備わっておらず単線自動循環式のものは一般的に「ゴンドラリフト(単にゴンドラとも)」と呼ばれる。 日本において索道は鉄道事業法施行規則第47条により「普通索道」と「特殊索道」に分類されている。
1997年5月29日の鉄道事業法施行規則改正以前は、特殊索道はさらに甲種・乙種・丙種の3種類に区分されていた。
貨物輸送貨物輸送は、旅客輸送に付随して行われるもののほか、専用の索道を利用して行われる。山間部のダム建設現場への資材搬入[11]や伐採した木材の搬出[12]など、目的に応じて規模や設置(仮設)期間。使用する搬器は多様である。 →詳細は「貨物索道」を参照
米国ニューヨークでは都市交通に通勤用・通学用のロープウェイが存在する[1]。 →詳細は「ルーズベルト・アイランド・トラムウェイ」を参照
オーストラリアオーストラリアの著名なロープウェイにスカイレールがある[13]。地球最古と呼ばれる熱帯雨林を通るルートであり、環境への影響を与えないように、建設には世界初の工法が多く採用され、環境に配慮したロープウェイ建設として高く評価され様々な賞を受賞している[13]。 ボリビア→詳細は「ミ・テレフェリコ」を参照
南米にあるボリビアの事実上の首都ラパスとその近郊都市エル・アルトを含む、人口100万人を超える都市圏ではロープウェイ網「ミ・テレフェリコ」の整備が進んでいる。アンデス山脈の山中にあるラパスは標高3600m以上、エル・アルトは同4100m以上という超高地にあり、従来はこの2都市間を結ぶ公共交通は路線バスしかなかったが、2014年に1期線が開業したミ・テレフェリコは地下鉄より安い建設費で高低差のある両都市を結び、1時間あたり片方向3000人の輸送力を持つ3路線は合計で1日あたり8-9万人の輸送人員を記録した。これを受けてボリビア政府は2期線の整備を決定し、2019年3月までに10路線、30.2kmに及ぶ世界最大の都市ロープウェイ路線網が開業した。 都市索道→詳細は「都市索道」を参照
索道はスキー場や山間部の観光用に使われる事例が多かったが、2010年代頃からエミレーツ・エア・ラインやシンガポール・ケーブルカー、ミ・テレフェリコ、ザイルバーン・コブレンツなど、中・短距離の都市交通としてゴンドラリフトや都市型ロープウェイ、3Sロープウェイなどが導入される事例が増えている。 都市索道は従来の交通機関と比べ、以下の特徴があるとされる[14][15][16]。
これに対し、下記の横浜市の計画に対しては、計画地域の商業事業者から「景観を損ねる」という理由からの反対意見が出されたこともあった[17]。また、上空のゴンドラから見下ろされる地域住民からはプライバシーへの配慮を求められる事もある。その例として、2005年に開催された2005年日本国際博覧会「愛・地球博」では、2つに分散した会場を結ぶためのロープウェイが市街地上空を通過する必要が生じ、その区間ではゴンドラのガラスを白く濁らせて周囲を見えなくする対応がなされた(愛知万博の交通#会場内の交通)。 輸送力では上記のザイルバーン・コブレンツにおいては3Sロープウェイ用の大型の搬器の採用(形式:ZETA、定員35人[18])により、一方向毎時7600人を確保しているものの、一般的な単線自動循環式ゴンドラリフトのエミレーツ・エア・ラインやミ・テレフェリコでは搬器が小型(形式:OMEGA IV、定員10人[19][20])なため一方向毎時最大4000人程度となる。 都市内での導入では「新交通システム」の名で日本各地に普及している自動案内軌条式旅客輸送システム(AGT)、及びミニ地下鉄などの「中量軌道輸送システム」との比較検討が行われる。 日本の場合、1951年から1953年にかけて東京都渋谷区の渋谷駅前、東急百貨店東横店にあった「ひばり号」[注 6][21]の特殊例を除くと本格的な導入事例は2020年代に入るまでなかったものの、2021年4月22日に、日本初の常設型都市索道として桜木町駅~運河パーク駅間にYOKOHAMA AIR CABINが開業した。その他東京都江東区(汐留〜有明)や福岡市(博多駅〜博多港)、横浜市(横浜駅〜みなとみらい地区〜山下埠頭)などにも都市索道の計画・構想がある[22][23]。 ギャラリー
関連組織メーカーロープウェイやリフトなどの主要メーカー
団体
野猿・吊舟
ロープモノレール搬器自体に動力(ディーゼルエンジンなど)を備え、これによって油圧モーターを作動させ、支索上を自走する方式である。モノレールの一種としても扱われる。 日本においては、高知市の五台山で1969年から1978年にかけて、山麓から山頂の展望台まで、『五台山ロープモノレール』が運行されていた[29]。 →「モノレール § ロープモノレール」も参照
事故・故障の例モーターが諸事情で停止してしまう事故の他、きわめて稀なケースで搬器がロープをつかみ損ね滑り落ちて転落する事故が長野県三岳村の御岳ロープウェイで起きている[30]。また整備で機械に挟まれ死亡する事故も起きている。 一覧
脚注注釈
出典
関連項目
外部リンク
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