著作権侵害著作権侵害(ちょさくけんしんがい、英: Copyright infringement)とは、私的使用(フェアユース)の範囲を超えて他人の著作物を無許可でコピーし、配信、上映、改変、切除などをする行為である[1]。著作権侵害は、人々の創造意欲を減退させる行為[2]として、法により規制されている。 なお、文化庁ではインターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト内に相談窓口を開設し、主にインターネット上の海賊版による著作権侵害に関する相談を受け付けている。 日本
著作権法は、以下で条数のみ記載する。 著作権侵害の成立要件著作権侵害(直接侵害)の成立要件を以下に詳述する。 著作物性著作権侵害が成立するには、著作物が第三者の手によって利用されていることが必要である。ここで著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」である(2条1項1号)。 他人が考案したゲームの規則(ルール)やスポーツ競技の競技規則、他人の特許発明は「思想」であって、思想の創作的表現たる著作物ではないから、それらを無断で利用しても著作権侵害は成立しない[要出典]。また、工業的方法により量産することを目的として創作されるいわゆる工業デザイン(応用美術)は、一般的には意匠権の対象であり(意匠法2条1項、3条1項柱書)、著作権の対象にはならないと解されている。しかし、当該応用美術であっても、感情の創作的表現が認められ、美術工芸的価値としての美術性が備わっているものについては、その著作物性を否定すべきではないとした判例がある(「博多人形赤とんぼ事件」、長崎地方裁判所佐世保支部判決昭和48年2月7日)。 匿名BBSでの書き込みや電子メール本文、YouTubeでの動画紹介の字幕が著作物であると判断され、賠償金の支払いが命じられた事例も存在する[3][4]。 著作権の存在著作権侵害が成立するには、利用されている著作物の著作権が有効に存続している必要がある。著作物が利用されていても、何らかの事由によって著作権が原始的に発生していない場合、あるいは著作権が原始的に発生していても既に消滅している場合は、著作権侵害が成立しない。 国内法において保護される著作物であること著作権法による保護を受ける著作物は、以下の3つである(6条)。これらに該当しない著作物は、日本国著作権法による保護を受けることはないので、無断で利用しても著作権侵害は成立しない。
原始的に著作権の目的となる著作物であること著作権法の規定では、憲法その他の法令、国や地方公共団体が発する告示、裁判所の判決文などは、著作権の目的とならない(13条各号)。従って、これらの著作物を著作者に無断で利用しても、著作権侵害は成立しない。 著作権が消滅していないこと著作権の存続期間満了(51条~58条)、著作権者の死後における相続人不存在等または解散著作権法人の清算による国庫帰属(62条)等の事由によって著作権は消滅する。いったん消滅した著作権は、対抗要件を満たさない限り復活しない。 著作権の消滅後に著作物を第三者が無断で利用しても、著作権侵害は成立しない。 例えば、著作者の死後70年(無名または変名の著作物、団体名義の著作物、映画の著作物の場合は、著作物の公表後70年)が経過した場合[注 1]、著作権は消滅するため(著作権法51条2項)、当該著作物を無断で利用しても著作権侵害は成立しない。著作権侵害訴訟における著作権存続の判断時は、差止請求訴訟においては事実審の口頭弁論終結時、損害賠償請求においては著作物が利用された時であると解する。 なお、日本法では著作権の放棄に関して明文で規定がないため、権利者の放棄[注 2]により著作権が将来に渡り消滅するのか、それとも無期限かつ無条件の全面利用的許諾に留まるのかは所論がある。また、権利者の放棄により、登録がなされていない著作権に関し第三者との間の対抗要件上、問題が生じ得る[注 3]。 著作権が及ぶ範囲で利用されていること著作権の効力著作権侵害が成立するには、21条~28条が規定する著作権の効力の範囲内で著作物が利用されていることが必要である。著作権法は、著作物の利用行為のうち、以下の態様によって著作物を利用する権利を著作者に専有させている。したがって、以下の行為が、著作権の効力が及ぶ範囲での著作物の利用に該当する。
日常語としての「利用」には、著作物を読んだり視聴したり、プログラムを実行させること(「使用」)も含まれるが、上に列挙した著作権については「使用」は規定されていないため、上に列挙した著作権に対する侵害は基本的には成立しない。ただし、一部の権利侵害類型では「使用」を要件の一部とする場合もある(法113項2項など)。 著作権の効力の制限著作物の利用促進等への配慮から、著作権の効力は制限される。すなわち、私的複製(30条1項)、引用(32条1項)、非営利無報酬無対価演奏(38条1項)などの態様により著作物を利用する行為に著作権は及ばない。 依拠性と類似性著作物を利用しているとされるには、現に利用されている著作物(利用著作物)が、対象となる既存の著作物(既存著作物)に依拠して作出されたものであって(依拠性)、利用著作物と既存著作物における表現が類似していること(類似性)が必要であると解する。いずれかの要件を欠く場合は、既存の著作物を利用していることにはならず、著作権侵害は成立しない。
利用者が著作物利用について正当な権原を有していないこと以下のような場合は、著作物の利用について、正当な権原を有しているといえる。 著作物の利用許諾著作権者から著作物の利用許諾(63条1項)を受けた場合、その利用許諾の範囲内で著作物を利用する限り、著作権侵害は成立しない。例えば、音楽のネット配信について音楽著作権者(および音楽著作権者から著作権管理業務を委託された一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)等や、音楽著作権者から音楽著作物の販売を委託されている著作隣接権者であるレコード会社など)から許諾を受けた場合において、許諾を受けた音楽を、許諾を受けた方法にしたがってネット配信する行為は、著作権侵害とならない。 出版権の設定著作権者(複製権者)から出版権(79条1項)の設定を受けている場合も、設定行為により定められた範囲内で著作物を複製する限り、著作権侵害は成立しない。 みなし侵害以上に列挙した要件を満たさない場合は、原則として著作権侵害(直接侵害)は成立しない。しかし、これらの要件を満たさない場合であっても、直接侵害の予備的行為が著作権侵害と擬制されることがある(みなし侵害)。 著作権法113条日本国著作権法では、以下の5類型を著作権侵害とみなしている(113条)。
著作権侵害行為に対する制裁措置著作権侵害をした者に対しては、損害賠償請求や差止請求のような民事的請求が認められている。また、故意に著作権侵害をした者に対しては、懲役や罰金の刑事罰が科されることがある。 民事訴訟
刑事罰著作権を故意に侵害した者は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処せられる(懲役と罰金が併科されることもある)(119条)。 また、法人の代表者、従業員等が著作権侵害行為をしたときは、行為者のほか、当該法人も3億円以下の罰金に処せられる(両罰規定)(124条)。 刑事罰(懲役刑、罰金刑)が科されるのは、著作権を故意に侵害した場合のみである。過失により著作権を侵害した場合は、刑事罰は科されない(刑法38条1項)。 いわゆる「違法ダウンロードの刑事罰化」として、「私的使用の目的をもって、有償著作物等の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、2年以下の懲役若しくは 200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」[5]が定められている。違法ダウンロードの刑事罰化における「有償著作物等」とは、「録音され、または録画された著作物、実演、レコードまたは放送もしくは有線放送に係る音もしくは影像であって、有償で公衆に提供され、または提示されているもの(その提供または提示が著作権または著作隣接権を侵害しないものに限る。)」である。 これらを含む著作権侵害罪の大部分(著作権法第119条、第120条の二第三号及び第四号、第121条の二並びに前条第一項の罪とされるもの)は親告罪である(123条1項)。これらについては、著作権者による告訴がなければ、検察官は公訴を提起することができない[注 5]が、TPP11協定法改正により、一定要件下の著作権等侵害等罪につき、非親告罪となった(「日本の著作権法における非親告罪化」を参照)。 技術的保護手段の回避を行うことをその機能とする装置の提供、およびそれを利用した複製を業として行った場合については、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処せられる(懲役と罰金が併科されることもある)(著作権法第120条の2第一号及び第二号)。別途、不正競争防止法による罰則もある。 著作権法には国外犯規定がないが、刑法施行法(明治41年3月28日法律第29号)第27条第1号により著作権法に掲げる罪については刑法第3条の例に従う、即ち日本国民の国外犯が適用になり、日本国内での行為の他、日本国民が日本国外で著作権侵害(罪)となる行為を行った場合、処罰される。 歴史日本で初めての著作権侵害訴訟は、浪曲家・桃中軒雲右衛門のレコードを巡るものである[6]。 アメリカ合衆国→「著作権法 (アメリカ合衆国)」も参照
アメリカ合衆国ではアメリカ合衆国通商代表部(USTR)が知的財産権の保護の世界的状況について毎年評価報告書を公表している[7]。この報告書は「スペシャル301条報告書」と呼ばれるもので301の番号は1974年通商法301条を指し、通商代表部が知的財産権の保護を十分に行っていない国を特定するという条項である[7]。 アメリカ合衆国通商代表部は知的財産権の保護・執行が不十分とみられる国の監視リストを報告書に記載し、それに従って米国政府は貿易制裁などの報復的措置をとることが可能となる[7]。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目 |