首都圏外郭放水路首都圏外郭放水路(しゅとけんがいかくほうすいろ、英: Metropolitan Area Outer Underground Discharge Channel;MAOUDC[1])は、日本の首都圏で水害を軽減することを目的とした治水施設(放水路)。 埼玉県春日部市の上金崎から小渕にかけての延長約6.3 km、国道16号直下約50 m地点に設けられた世界最大級の地下放水路[2][3]。周辺の中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川といった中小河川が洪水となった時、これらの洪水の一部を江戸川に流し、洪水の被害を軽減する[3]。 1993年(平成5年)3月に着工し、2002年(平成14年)6月に一部供用を開始した後、2006年(平成18年)6月から全区間の完成と全川の供用が開始した[4]。 公式の愛称は彩龍の川(さいりゅうのかわ)で、銘板にもその名が刻まれている。メディアなどでは、特に放水路の調圧水槽を指して「地下神殿」と呼ばれることが多い[5][6][7]。これは調圧水槽内にある高さ18 m、重量500 tの巨大な柱59本が天井を支える光景が神殿のように見えるため[8]。 利根川水系に属する一級河川であり、国が直轄管理する大臣管理区間(指定区間外区間)である[9]。 施設概要泥水式シールド工法で建設されたシールドトンネルで[10]、延長約6.3 km、内径約10 m。 本水路の周辺地域は、かつては利根川の本流が流れており、他地域に比べて低く水が溜まりやすい地形となっている。江戸時代初期の利根川東遷事業以降は水田として開発されたが、高度経済成長期の都市化で浸水被害が頻発するようになった。 1992年(平成4年)4月に本格的調査が開始された[11]。1993年(平成5年)1月に都市計画の決定を受けて用地買収に着手し[11]、同年3月に着工した[11]。2002年(平成14年)6月には江戸川から倉松川までの3.3 km区間(第1工区[10])が逸早く竣工し、早期に効果を出すべく、係る一部区間に限って供用が開始された[11]。 未完区間の工事は引き続き実施され、2006年(平成18年)6月には大落古利根川までの全長約6.3 km区間(第4工区)が竣工し[11]、これをもって当初計画どおりの施設が完成し、全川での供用が開始された[11]。工事費 約2300億円[12]。 稼働状況は、2021年7月現在131回洪水調整[13]しており、年平均7-8回程である[14]。 台風・大雨による中川、倉松川、大落古利根川など、周辺河川の増水時、洪水を防ぐため流量容量を超えた水を貯留し、江戸川に排水する。そのため、地下河川であると同時に巨大な洪水調節池としての機能がある。この放水路の開通により、洪水常襲地帯だった倉松川流域などで洪水が減少している。 地下トンネルから流れ込む水の勢いを調整するための調圧水槽は、長さ177 m・幅78 mの広さがあり、59本の巨大なコンクリート柱が林立している[12]。その貯水量はおよそ67万立方メートルで東京・池袋のサンシャイン60ビルの体積とほぼ同じである[15]。洪水防止のみを目的とすることから、通常時は水を取り込まず空堀で、人も立ち入れる巨大な地下空間となっている。 巨大水槽内の空間に整然と太い柱が立ち並ぶ様子は一種の荘厳さを感じさせ、あたかも地下神殿のような雰囲気を持つ[16]。そのため、テレビ番組、特撮作品、映画、広告、ミュージック・ビデオ、ウェブサイトのロケ地として利用されることも多い[17]。撮影や取材の対応状況は、2015年度(平成27年度)が合計154件(テレビ撮影24件、映画撮影1件、書籍取材68件、ほか)、2016年度(平成28年度)が合計159件(テレビ撮影33件、映画撮影2件、書籍取材61件、ほか)である[17]。 管理事務所は、テレビ撮影として日本テレビ『NEWS ZERO』を、プロモーションビデオ(ミュージックビデオ)の撮影として家入レオのアルバム『WE』(2016年発売)を、書籍取材として東京書籍『目で見る地下の図鑑』(2017年刊)を具体例として挙げている[17]。 インフラツーリズムにおける名所の一つと捉えられ[18]、施設の一部については、完成後の早い時期から、湛水時以外を条件に、予約さえすれば一般見学が可能だった。これは国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所による見学会という形で執り行われてきた[18]。2018年(平成30年)4月27日には[16]、民間企業の協力によってさらなる集客を図る狙いをもって、首都圏外郭放水路利活用協議会が東武トップツアーズ(東武グループの旅行会社)と連携協定を締結し[16]、見学ツアーの実施などへの取り組みを本格化させた[16][18]。 調圧水槽(座標) 立坑
管理支所首都圏外郭放水路管理支所(しゅとけんがいかくほうすいろかんりししょ)は、首都圏外郭放水路の全施設を直接管理する機関で、庄和排水機場に設置されている。 庄和排水機場首都圏外郭放水路管理支所 庄和排水機場(しゅとけんがいかくほうすいろかんりししょ しょうわはいすいきじょう、英称:Showa drainage pump station[25])は、埼玉県東部の中川・倉松川・大落古利根川等と、江戸川を結ぶ、首都圏外郭放水路の江戸川側(座標)に位置し、中川流域の浸水被害軽減を目的としてスーパー堤防とあわせて[26]建設された施設である[27]。通称、庄和排水機場。埼玉県春日部市上金崎720(着工当時の北葛飾郡庄和町上金崎720)に所在し、管理支所を擁する。また、内部施設として関連博物館である龍Q館がある。 2006年度(平成18年度)に完成[27](※国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所のウェブサイトの記述を典拠としているが、国土交通省 関東地方整備局のウェブサイトは、2002年〈平成14年〉6月の完成としている[28]。よって、完成時期は不確定情報である)。管理者は、首都圏外郭放水路管理支所[28]。 排水ポンプは4台設置されており、それぞれに原動機として三菱MFT-8型タービンエンジンを備える[29]。MFT-8型エンジンは元々航空機用ジェットエンジン(P&W JT8D)が原型で、これを元にかつて高速船テクノスーパーライナー用の舶用エンジンとしてのMFT-8型が開発された[30]。庄和排水機場に設置されているものは、これが更にポンプ駆動用とされたタイプである。最大排水量は 200m3/s[27]にもおよび、50 mプールの水を12秒ほどで全て吸い出す能力に相当する。 完成前の2005年(平成17年)、「首都圏外郭放水路庄和排水機場」名義で「関東の富士見百景」に選定されている。 龍Q館地底探検ミュージアム 龍Q館(ちていたんけんミュージアム りゅうきゅうかん)は、庄和排水機場内に併設された博物館である。通称、龍Q館。所在地は庄和排水機場内。北緯35度59分50.3秒 東経139度48分41.3秒)[31][32]。2003年(平成15年)に開館。運営および管理は首都圏外郭放水路管理支所ではなく、国土交通省江戸川河川事務所と春日部市が共同で行う[32]。 施設名のうち、「龍」は地元・庄和地区(旧・庄和町)に伝わる「火伏の龍の伝説」にちなんでおり、「Q」は "aqua(水)" から採っている[32]。 首都圏外郭放水路に関する資料や模型を展示している。施設見学の集合場所にもなっている。
年表ここでは、首都圏外郭放水路とその関連事象について、時系列で記載する。
施設の活用撮影利用実績ここでは主要なものについて、分野別で列記する。特撮作品でよく利用されており、操作室もロケ地になることが多いことが一つの特徴である。ミュージシャンのプロモーションビデオのロケ地にもなっている。
脚注注釈出典
関連項目外部リンク
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