Athlon
Athlon(アスロン)は、AMDのx86アーキテクチャのマイクロプロセッサの名称である。 Athlonは、K7と呼ばれる第7世代のプロセッサの1シリーズとして開始されたが、第8世代のK8、更にその後継のK10(K9は中止された)にAthlonの名称は引き継がれた。 概要大きく分けると、以下の4つに分けられる。 AMD-K5 AMD-K6まではインテルが規格したソケットとの互換性が保たれていたが、本製品ではAMD専用のチップセットを搭載したマザーボードを使用し、ソケットも初期をのぞき、インテル製品とは互換性のない専用品を使う。初期のSlot AコネクタはインテルのSC242と形状だけは同一としてあり流用している。電気的にはDECがAlphaプロセッサ用に開発したEV6バスを採用している。バスの動作クロックはDDRにより基準クロックの2倍の速度で動作し、原則的に2倍のクロック周波数で表示される。 Athlonは、市販のx86(互換)プロセッサとしては最初(2000年3月6日)に1GHz製品の出荷が発表されたアーキテクチャである。なお限定出荷ではあるがPentium IIIも同時期(3月8日)に1GHz製品が発表されている。 互換製品として売り出されているため、同程度の能力を持つインテル製CPUよりも低めに価格設定される傾向にあった。市場シェアの先導権(イニシアティブ)を握る立場に就くことこそ無かったものの、限られたCPU市場の中では、低めの価格設定であるにも関わらず性能が高いことから大手メーカーブランドのパソコンに積極的に採用され、ショップブランド(販売店が独自に製造したパソコン)や自作パソコンにおいても良く採用または購入されていた。 初期のAthlonはPentium IIIに比べて発熱量が大きかったため、オーバークロックには不向きであった。ヒートスプレッダ等によって保護されておらず、半導体コアがむき出しになっている構造上、取り付け時に物理的に破損するいわゆる「コア欠け」を起こしやすいという問題もあった。また初期の製品では焼損防止措置も搭載されておらず、ヒートシンクの取り付けミスなどによって過熱により損傷しやすいという問題があった。当然ながらショップサービスの初期保証は受けられなかった。 以下に示したCPUコアの名称は基本的にAMD内部での開発コードネームであるが、CPUコアを厳密に区別するために一般にも(特に自作PC/AT互換機市場において)広く用いられている。 AthlonK7(Argon)K7は0.25μmプロセスで製造された最初の Athlon プロセッサである。「Slot A」と呼ばれるスロットに差し込むカードエッジコネクタ形状となっており、パッケージに装着されるCPUクーラーも固定に用いるリテンションメカニズムも、そしてマザーボード上に実装されるコネクタも全て、インテルのSlot 1用のものを流用するように設計されている(コネクタは逆向きにしてあり、実質的に誤挿しが出来ないようになっている)。この Slot A の採用は、新CPU採用に当たって当時のPCベンダー各社から極力部品種類を増やさないよう求められたことが理由であったという。 CPUコアの動作周波数は同時期のPentium IIIと拮抗しており、総合的な処理能力ではPentium IIIを上回る場合もあった。整数演算性能では互角程度だったが浮動小数点演算ではK7が優れていた。これは、AMD側がPentium III対抗商品として投入したK6-IIIが、整数演算性能については処理によっては同クロックのPentium III程度の性能を示すも、実効パフォーマンス、特に浮動小数点演算については劣っていた実情から、次世代アーキテクチャにおいては整数演算のみならず、浮動小数点演算においても競合製品と比較して遜色のない性能を発揮する事が課題となっていたためである。 2次キャッシュメモリの容量は同時期のPentium IIIと同じくCPUコアの外部に接続された512Kバイトで、CPUコアクロックの半分の周波数で動作した。これは当時の半導体製造技術レベルでは、2次キャッシュを内蔵させることでCPUの歩留まりが低下し、その結果、製品価格が上がることを嫌ったためである。FSBの動作クロック周波数は200MHz。
K75(Pluto/Orion)K7の製造プロセスを0.18μmプロセスに更新した製品。K7よりCPUコアの動作周波数がより高められている。しかし、CPUコア自体と2次キャッシュメモリの動作周波数における速度比率は低くなっている。これは、2次キャッシュ(SRAM)をCPUコアの外部に置いた結果、CPUコアの動作周波数向上のペースに対して、SRAMの動作周波数が追いつけなかったためである。CPUコアに対するL2キャッシュのクロック比率は、当初の1/2から2/5に減り、後期製品では1/3にまで低下した。
なお本グループは2000年3月6日発表で、AMDの量産x86互換プロセッサとしては初めて1GHzの大台を達成した。 1GHzで動作するK75には、特別に「Magnolia(マグノリア)」というコードネームが付けられた。 K76従来の製造技術であるアルミ配線で製造されているK75に対し、より高度な製造技術を要する銅配線で製造されたK76を指す。この当時はアルミ線でも特に問題はなく、性能や機能的には差がないことから、K76もK75の一部として扱われ、特別な事情がない限り区別されることは少ない。 Thunderbird(サンダーバード)K75のCPUコアを基本とし、製造技術の更新でより多くのトランジスタを実装できるようになった。それによりK75ではコアの外部に配置していた2次キャッシュを内蔵することで、キャッシュのクロック周波数をコアと等速で動作させ、性能の向上を行った製品である。外部にキャッシュを実装する必要がなくなったことから、コスト的に安価な「Socket A」(別名Socket 462)と呼ばれる新しいパッケージ形状を新設した。Slot A 製品も一部の需要家の為に少量の製造は継続されたが、Socket Aと比較してCPUパッケージサイズが大型であり、また、それに伴って製造原価も高価となった。そのため、Slot A 製品は存在価値が薄れ、Socket A製品 が主流となった。当初、FSBは200MHz動作だったが、後により高性能な266MHzで動作する製品も投入された。高クロックの品の消費電力とそれに伴う発熱は相当なものがあり、クーラーの取り付け時に注意しないとCPUが正しく冷却されずコアが焼損してしまうことがあったため、日本では「焼き鳥」などと揶揄された。
幻のAthlonシリーズ計画が発表されただけで実際に製品化は行われなかったが、Athlonに加えて以下の3種類を加えたラインナップが発表されていた。
Ultraが最上位、Selectが最低位で、通常のAthlonはProfessionalとSelectの間に位置する。Athlon UltraはL3キャッシュが追加された製品と推測され、完全に計画のみとなってしまった。Athlon ProfessionalはAthlon MPとして商品化されたと考えられる。Athlon SelectもDuronとして商品化されたと考えられる。 Athlon XPQuantiSpeedアーキテクチャを採用したとして性能を高めたAthlonに新たな与えられた名称。しかし既に先行して発売されていたAthlon 4やそれと同世代のDuronもこのQuantiSpeedアーキテクチャを採用している。また、QuantiSpeedアーキテクチャは幾つかの機能の集合で、全ての機能がこの世代から実装されたものではない。Athlon XP の日本での発表会で「Athlon XPの“XP”は eXtreme Performance の略だ。Windows XP とも親和性が高い。」と述べており、Windows XP を意識しての命名であることは否めない。このシリーズから製品名に動作クロック周波数の表記を止め、モデルナンバーという性能指標での表記を導入した。むしろ Athlon XP の発表会では Athlon XP 自体ではなくモデルナンバーに関心が集まった。 Corvette(コルベット)Thunderbirdの改良型として開発されていた開発呼称。サンダーバードはフォードのスポーツカーの名としても知られるが、次期製品のコードネームには、そのライバルである コルベットが選ばれた。 同時期に計画中の AMD-K7 マイクロアーキテクチャの製品のコードネームで自動車の名前と重複しないものは自動車の名称に改められた。しかしある自動車メーカーから商標侵害の苦情があり、戦闘機や自動車には馬の名前を付けることは珍しくなかったことから、開発呼称はさらに馬の品種であるとすり替えられた(ドレスデンに工場を作る際に連合国側の戦闘機の名前では問題があるからという説もある)。その結果、馬の名前に由来していない自動車の名称から取られた開発呼称は再び改められ、CorvetteはPalominoと再命名され、開発は続行された。 Palomino(パロミノ)Athlon にして第4世代、Athlon XPとしては初代のコア。プリフェッチ機能及びインテルのストリーミングSIMD拡張命令 (SSE) を内包した「3DNow! Professional」命令セットを Thunderbird に追加し、回路を最適化したもの。
性能面では高い評価を受けながら高発熱で知られた Thunderbirdコアに比べ、より高性能化されると同時に発熱が抑えられたことで自作ユーザの間では好評価を受けた。それでもなお高発熱ではあったが、その高熱状態が継続されたとしても通常動作する耐久性があった。PalominoののちAthlonは、より商品性が高まったThoroughbredに移行した。 Mustang(マスタング)発表は噂などの非公式なものに留まり、製品詳細は全くの不明で、発売にも至らなかった。Palominoを基にL2キャッシュを増量させた製品として開発されていたとされ、Athlon XPやAthlon MPの上位製品として発売される予定だったと考えられる。「Athlon Ultra」という商品名でサーバ向け製品が計画されていたが、「Athlon Ultra」が「Mustang(マスタング)」に該当するかは不明である。 Thoroughbred(サラブレッド)製造プロセスを0.13μmに微細化した第5世代のAthlon。 特にB-Stepの1.46GHz (1700+)の品は製造ロットにも拠るが、オーバークロックに対するかなりの耐性さらに逆の低電圧駆動での耐性があり、価格も廉価であったため、日本では「苺皿」(1.5の”サラ”ブレッド)と呼ばれてPC自作者に愛好された。
Barton(バートン)Thoroughbred の2次キャッシュを256Kバイトから512Kバイトへと2倍に増量した Thoroughbred と同じ第5世代のAthlonである。 後継製品で性能が優れるAthlon 64と製造原価に直結するダイ面積はほぼ同じであることから、AMDとしては費用対効果は良くないもののAthlon 64の開発遅延の結果、必要と判断されて開発されたと考えられる。それでも競合するPentium 4の販売が良好だったことからさらに低価格で販売せざるを得ず、その結果として費用対効果は良好で、市場の評価も好評であった。 当初FSBは333MHzまでの対応だったが、AthlonシリーズがFSBとして採用するEV6バスは、元々400MHzまでの動作を視野に入れて設計されており、FSBの速度の向上はCPUの処理能力を向上させることから後に400MHzに対応した製品も発売された。しかし Pentium 4が堅調な間もFSBはしばらく333MHzまでに据え置かれていたことから、後継のAthlon 64の販売を脅かす恐れを懸念したものの、Athlon 64の開発の遅れとPentium 4の好調さからAthlon XPの商品性の維持が必要になったことにより、急遽FSB 400MHzの製品が発売されたと見られている。
Thorton(ソートン)Bartonのダイを用いているが2次キャッシュをThoroughbredと同量の256KBに半減させたAthlon XP。 インテルのように2次キャッシュ量にかかわらず同じダイから作り分けをせず、個別に製造に追加費用がかかるものの2次キャッシュ量でダイを作り分けていることから、製造容量が逼迫していたと推定できる。しかしそのAMDの方針ではThortonを出荷するならThoroughbredを製造するはずであることから、Bartonと共通化することで製造した在庫の圧縮を目的としていると考えるのが順当である。対応FSBクロックも266MHzとなっている。ThoroughbredのダイでAppaloosa相当を製造した製品にApplebredと名づけていることから、Thortonの名称は同様にThoroughbredとBartonからの造語と思われる。
モバイルAthlonモバイルAthlon 4Palominoのモバイル向け製品。より低電圧で動作する個体を選別し、"PowerNow!" という独自の電源管理方式を採用して、低消費電力化を実現している。Athlon XPより先に発売された。元々はAthlon Hという名称での発売をPCベンダなど打診していたが、語感などで反対されたことで名称が変更された。"4"が付いた理由はPalominoコアがK7から数えて4世代目であるからとAMD側から説明がなされているが、CPU市場に精通している人々からはPentium 4を強く意識して見劣りしない名称にしたという推測や意見が多かった。FSB 200MHzに対応。後期製品からモデルナンバーが導入された。
モバイルAthlon XPデスクトップ向けとしてAthlon XPが発表されたため、Athlon XPと同じ機能を持って先行して発売されていたモバイル Athlon 4が改称されたCPU製品。新たに発表されたAthlon 4はモバイル Athlon XPとして発売された。主となるのは Thoroughbred / Bartonコア。シャープやソーテックなど一部メーカの低価格機に採用された。モバイル Athlon XPからは、携帯を考慮しない大型のノートPC(いわゆる「デスクノート」)向けの「DTR (DeskTop Replacement) 版」と低電圧版というバリエーションが追加された。 モバイルAthlon XP-MIntel の Pentium M 発売に合わせ、モバイル Athlon XPを改称しCPUである。内容に差は無い。組み込み用途向けプロセッサ「Geode NX」はこの派生製品である。 従来のSocket Aのほか、Socket 563と呼ばれる小型タイプも存在する。 Thoroughbred (サラブレッド)
Barton (バートン)
Athlon MPSMP対応版 Athlon XP。Smart MP 機能を搭載する点以外の製品仕様は、Athlon XPとほぼ同仕様である。同一のシリコンウエハーから特性の良好な選別品をAthlon MPとして抜き取った後、SMP機能を無効化してパッケージングしたものがAthlon XPと考えられている。しかし例外的にAthlon MP以外でもSmart MP機能で動作する製品も一部に存在する[注釈 1]。Athlonシリーズで唯一のSMP対応チップセットである AMD-760MP / 同MPX のFSBが266MHzまでしか対応しておらず、FSBは全製品が266MHzである。なお、Palominoコア搭載の1.0、1.2GHz品はモデルナンバー(とAthlon XP )の発表に先行して発表、出荷されたため、モデルナンバーを持たない。
注釈
関連項目
外部リンク |