UNITEC-1
UNITEC-1(UNISEC Technology Experiment Carrier 1)は日本の大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)による宇宙機[1]。愛称は「しんえん」[2]。金星へのフライバイを計画しており、地球の重力圏を離脱する世界初の民間宇宙機である[3]。 2010年5月21日に種子島宇宙センターから打ち上げられ、予定軌道に入った[4]。 計画2008年JAXAが金星探査機「あかつき(当初はPLANET-Cと呼ばれていた)」の相乗り衛星を募集した。これによって民間宇宙機が金星行きを選択することが可能になったが、距離的な問題で超小型衛星では通信を行うことすら困難になってしまい、観測などの本格的な科学ミッションはまず不可能であった[3]。さらに打ち上げが2010年に予定されており、開発期間も非常に限られていた。こうした制約の中、機体内部で各大学が開発したオンボードコンピュータ(UOBC)をコンペ形式で耐宇宙環境性能試験を行う計画が立てられた。 複数の大学・高専がこの計画に参加を表明し、予選会として耐真空、耐熱、耐振動試験が2009年夏に行われた。その結果、電気通信大学、東京理科大学、北海道工業大学、高知工科大学、東北大学、慶應義塾大学の6台が選ばれた[5]。これらがUNITEC-1(しんえん)に搭載され、6台のうち1台ずつ定期的に起動し、企業が開発した信頼性の高いメイン・オンボードコンピュータ(MOBC)から送られてくるコマンドの解釈が出来ているか、また決められたパターンで正確にデータの送受信ができているか、をMOBCによって試験されその結果が地上に送られる[3][6]。 MOBCからUOBCへ渡されるデータには搭載カメラおよび放射線の計測データが含まれる。各UOBCによる生き残り競争を利用して、カメラの映像から本機の姿勢を計算したり、科学観測を行うこともミッションの一部とされる[7]。 サクセスレベル
設計UNITEC-1は約35cm3のキューブ型で、重量は約20kg[8]。機体の表面に太陽電池パネルが貼り付けられ、約25Wの電力を発生する[5]。姿勢制御システムは搭載されておらず、全方向性アンテナを搭載[5]。UNITEC-1は姿勢制御システムも展開システムも持たないので、電波が非常に弱い。そのため打ち上げ前からアマチュア無線コミュニティにも電波の受信・デコードの協力を求めている[9]。 参加学校UNITEC-1の開発は22の大学・高専によって行われた。太字は主担当校[3]。
状況2008年11月にUOBCコンペが告知される[10]。 2009年8月10日から13日にかけて、九州工業大学にてUNITEC-1に搭載されるUOBCの選考会が行われ、秋田大学、香川大学、慶應義塾大学、高知工科大学、東海大学、東京工業大学、東京理科大学、東北大学、電気通信大学、北海道工業大学が参加し、東京理科大学、北海道工業大学、高知工科大学、東北大学、電気通信大学、慶應義塾大学のUOBCが搭載権を得た[5]。 金星探査機「あかつき」の相乗り衛星としてUNITEC-1を載せたH-IIAロケット17号機は当初、2010年5月18日6時44分14秒(JST)に打ち上げを予定していたが、天候不順のため延期され、3日後の21日6時58分22秒(JST)に打ち上げられた。なお大学の開発による相乗り衛星として、UNITEC-1と同時にNegai☆″、KSAT、Waseda-SAT2が同時に打ち上げられた。 打ち上げは成功し、打ち上げ当日の午後にはUNITEC-1からのものと思われる電波を受信し、予定軌道への投入が確認された。これを受けてUNITEC-1の愛称「しんえん」が発表された[5]。このとき得られた電波状況も25日に追記の形で報告された[11]。しかしその後、公式の運用センターでは電波を拾えなくなっていることを明らかにした[12]。 5月26日の宇宙開発委員会では、同時に打ち上げたKSAT、Waseda-SAT2と共にUNITEC-1の信号が観測できない状態であることが報告された(KSATは後に信号確認されたが再び不明に、Waseda-SAT2は依然不明)。JAXAは今後発見される可能性は低いと見ている[13]が、UNITEC-1の公式ウェブサイトでは今後も引き続き有志による受信報告を募っている[12]。 JAXAが8月2日に開催した第3回相乗り小型副衛星ワークショップ[14]によれば、最後に通信が成功した位置は地球から約27万kmの地点だったという[15]。そのためヴァン・アレン帯の突破は成功したとされるが、信号が得られたのは衛星分離45分後の1回目のパスのみだった。またテレメトリの内容が本来の設計に外れたものだったことが分かっており、予想よりも低温に晒されたことで電力系に不具合が生じたと予想されている。ミニマムサクセスを目指してそのとき得られた断片的なデータの解析が続けられているが、解読は難航している。 脚注
関連項目外部リンク
|