エビ
エビ(海老・蝦・魵)は、十脚目(エビ目)に属する甲殻類のうち、カニ下目(短尾類)とヤドカリ下目(異尾類)以外の全ての種の総称である。かつての長尾類(長尾亜目 Macrura)にあたる。現在、長尾亜目という分類群は廃止されており、学術的な分類ではなく便宜上の区分である。 十脚目(エビ目)から、カニ・ヤドカリという腹部が特殊化した2つの系統を除いた残りの側系統であり、単系統ではない。この定義では、ザリガニもエビに含まれる。 名称和語の「えび」は、元々は葡萄、あるいはその色のことだった。葡萄の色に似ていることから、蝦・海老のことを「えび」と呼ぶようになった。現在でも「葡萄色」と書いて「えびいろ」とも読む慣習が残っている。漢字表記の「海老」や「蛯」の字は曲がった腰と長い髭を老人に見立てたものである[2]。漢字表記の「鰕」や「蝦」の字は中国でもエビを意味する漢字である[2]。 漢字表記について、「イセエビなどの海底を歩行する大型のエビ類を「海老」、「螧」または「蛯」、サクラエビなどの海中を泳ぐ小型のエビを「蝦」、「魵」または「鰕」と表記する」と言われることもあるが、実際にはそこまで厳格に区別しているわけではない。 英語における呼称は大きさにより分けられており、クルマエビ程度で「prawn(プローン)」、小さなエビは「shrimp(シュリンプ)」と呼ばれる。「Lobster」(ロブスター)という呼称はアカザエビ科、特にその中のロブスター属の種類を示す[3]が、それ以外の大型エビ類、例えばイセエビ上科の種類の呼称にも「lobster」が付いている(例えばイセエビ科は「spiny lobster」、セミエビ科は「slipper lobster」)。 なお、カブトエビ、ホウネンエビ、カシラエビ、ムカデエビ、カイエビ、ヒメヤドリエビ、コノハエビ、ヨコエビ、シャコ(シャコエビ)などは、名前に「エビ」とついていたり、姿形がエビと類似しているが、いずれも十脚類ですらない別系統であり、甲殻類ではあるがエビではない。コシオリエビはエビと同じく十脚類で英名も「squat lobster」だが、ヤドカリなどと共に異尾類に含まれており、エビではない。 特徴構造は他の甲殻類と同じく頭部、胸部、腹部に分かれており、カニ類と同じく頭部と胸部のすべてが外骨格に覆われている[4]。外骨格に覆われた部分を頭胸甲(頭胸部)という(カニの場合は背甲という)[4]。 複眼の間に額角(がっかく)という尖った角があり、これの形状も種類を判別する手がかりの一つになる。頭胸甲内の歩脚の近くに鰓をもち、呼吸をおこなう。ヤドカリやカニには陸上生活できるものもいるが、エビには乾燥した陸上で生活できる種類はいない。ただしモエビ科のキノボリエビは湿った陸上で活動する。 付属肢は19対ある(頭部付属肢5対、胸部付属肢8対、腹部付属肢6対)[4]。 頭胸部には前の方から2対の触角、大あご、2対の小あご、3対の顎脚、5対の歩脚へと変化している。触角は周囲の様子を探る器官、大あごと小あごは餌を咀嚼する器官、顎脚は餌を掴んだり小さくちぎったりする器官、歩脚は歩くための器官である。分類群によっては顎脚や歩脚の先が鋏に変化しており、このような脚を鋏脚(きょうきゃく)、または鉗脚(かんきゃく)と呼ぶ。ザリガニやロブスターなどは鋏脚が特に大きく発達し、敵に対して大きく振りかざして威嚇したり、敵をはさんで撃退することもある。 腹部は6節に分かれ、それぞれの節が腹甲に覆われ、内部は消化管を囲むように筋肉が発達する。腹節の下部には腹肢をもち、泳ぐ時や卵を抱える時に使う。尾部(しっぽ)は中央の尾節と左右に2対の尾肢があり、尾扇という扇子のような構造となる。敵に襲われたときは腹部を勢いよく下に曲げ、大きく後ろへ飛び退いて逃げる動作を行う。 卵から生まれた子どもは親とは異なった体型で、幼生とよばれる。幼生は水中を漂うプランクトン生活を送り、脱皮を繰り返して変態し、小さなエビの姿となる。ザリガニ類やミナミヌマエビなど、分類群によっては卵の中で変態し、親とほぼ同じ体型で生まれてくるものもある。 真社会性を示すエビとしてユウレイツノテッポウエビが知られている。このエビは大型のカイメン類に共生し、300個体にも及ぶ大きな群れを作る。しかし繁殖は一個体の雌に限られ、他の個体は保育や防衛を行う。 感受性2005年、EUの科学者たちは、エビが痛みや苦痛を感じることができることを示す科学的証拠が明確に存在すると主張[5]。2022年には、イギリスで動物福祉(感覚)法が法律化され、エビの感覚が認められた[6]。より人道的なエビの屠殺への取り組みも始まっている[7]。 おもな種類多くの種類があって、河川から深海まであらゆる水環境に生息する。食用や観賞用として人とのかかわりが深い種類も多い。
食用
→詳細は「食品としてのエビ」を参照
ほとんどのエビが食用にされ、大小さまざまなエビが漁獲・消費されている。陸上の昆虫などと異なり、少ない労力で大量に捕獲できるため、世界中で利用されている。ブラックタイガーなどの場合、販売時には下処理の方法によって有頭エビと無頭エビに分けて表示されることが多い。 旨味の元となる各種アミノ酸が豊富に含まれるため美味。肌や髪のツヤ・ハリに作用するタウリンや、骨を丈夫にするカルシウムも含まれている[8]。 天ぷらなどのエビの調理の際には、背ワタ(腸)を取り、尾の先端を切る下処理が行われることも多い。背ワタは砂などを含むことがあり、いやな臭いのもとになる。背ワタは背をまるめ、頭から2―3節目の殻間に串を刺し、すくいとるようにひきぬく。背ワタと共に、腹ワタを取ることもある。 主な料理エビを使った料理は、刺身、茹でエビ、焼きエビ、佃煮、グラタン、寿司、天ぷら、エビフライ、えび団子、ハトシ、焼売、餃子、エビチリ、炒め物、鉄板焼き、踊り海老、酔っ払い海老など多種多様である。スナック菓子としても、煎餅(えびせん、海老満月)、シュリンプロールなどが作られている。海鮮料理の一覧も参照のこと。 食中毒エビはサバなどと同様に細菌に弱い魚介類のひとつである。日本での報告例はないが、鮮度管理が不十分な環境下においては細菌が異常繁殖して青色に発光する事例が海外で報告されている。そのようなエビを食べた場合、食中毒を引き起こす可能性があるので注意が必要である。 食物アレルギー食物アレルギーを起こしやすい食品とされる。日本では「食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令 別表第四」により特定原材料に指定されており、食品衛生法第19条の適用を受けるため、エビを原材料として含む製品を販売する場合にはエビを原材料に使用している旨を表示する義務がある。カニも同様に特定原材料に指定されている[9]。 漁業・養殖漁法としては主に刺し網、徒手採捕、かご・どうを用いた漁法によって漁獲する。第一種共同漁業権対象のものと、それ以外のものがある。スジエビ、テナガエビなどの内水面に棲息するもので第五種共同漁業権が設定されているものもある。 ウシエビ(ブラックタイガー)などのエビは東南アジアを中心とする海外で大規模に養殖されている。これらの海外養殖では養殖場確保のためにマングローブ林が伐採され、養殖後は汚染された湿地が残されるなど、環境問題も指摘されている。なお、海外のエビ養殖の多くは日本及びアメリカ向け輸出用の生産が大半を占めている。世界中で養殖されているエビの数は年間約4,400 億匹と推定される[10]。 眼柄切除→「en:Eyestalk ablation」を参照
エビ養殖では、より多く産卵させるために、メスのエビの眼柄切除が標準的慣行として行われている。こうすることで、ホルモン操作され、急速な成熟と 産卵を誘導すると言われる[11]。 方法は、かみそりで目を切り開いてから、親指と人差し指で根元から眼柄(根と頭部をつなぐ組織)を絞り出す、加熱した刃または鉗子で眼の根元を切るなどの方法で行われる[12][13]。麻酔などは使用されない。この処置はエビの苦痛とストレスにつながるため、小売大手のマークス&スペンサーのように、動物福祉の観点から、2019年以降、サプライヤーに眼柄切除を禁止する企業もある[7]。 エビの代表的な感染症エビの養殖場では下記の感染症などが発生し問題となる[14]。
分類受精卵を水中に放出する根鰓亜目 Dendrobranchiata と、産んだ卵を腹肢に抱えて保護する抱卵亜目 Pleocyemata に大きく分けることができ、異尾下目と短尾下目は抱卵亜目の下位分類となる。 以下の分類は De Grave et al. (2009) による[21]。 根鰓亜目→詳細は「クルマエビ亜目」を参照
クルマエビ亜目とも呼ばれる。メスは受精卵を腹肢に抱かず、そのまま水中へ放出する。卵は水中を浮遊しながら発生し、幼生期をプランクトンとして生活する。
抱卵亜目→詳細は「エビ亜目」を参照
メスが受精卵を腹肢に抱え、孵化まで保護する。エビ亜目とも呼ばれる。根鰓亜目と同じく幼生期をプランクトンとして過ごすが、種類によっては卵の中で幼生期を過ごし孵化する。ヤドカリやカニも抱卵亜目に含まれる。 オトヒメエビ下目コエビ下目
ザリガニ下目
ムカシイセエビ下目
アナエビ下目
アナジャコ下目イセエビ下目
センジュエビ下目
脚注
参考文献
外部リンク |