この項目では、リン化水素 (H3 P)について説明しています。R3 P と表される有機リン化合物については「有機リン化合物#ホスフィン 」をご覧ください。
ホスフィン
識別情報
CAS登録番号
7803-51-2
特性
化学式
PH3
モル質量
34.00 g/mol
外観
無色気体
密度
1.379 g/l, 気体 (25 ℃ )
融点
-134 ℃
沸点
-87.8 ℃ (185.2 K)
水 への溶解度
31.2 mg/100 ml (17 ℃)
構造
分子の形
三角錐形
双極子モーメント
0.58 D
危険性
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード
Danger
Hフレーズ
H220 , H314 , H330 , H400
Pフレーズ
P210 , P260 , P264 , P271 , P273 , P280 , P284 , P301+330+331 , P303+361+353 , P304+340 , P305+351+338 , P310 , P320 , P321 [ 1]
NFPA 704
引火点
可燃性気体
発火点
38 ℃
関連する物質
その他の陽イオン
アンモニア アルシン スチビン ビスムチン
関連物質
トリメチルホスフィン トリフェニルホスフィン
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
ホスフィン (英 : phosphine ) は、分子式 PH3 で表される、リン と水素 による無機化合物 。リン化水素 (リンかすいそ、英 : hydrogen phosphide )、水素化リン (英 : phosphorus hydride )とも呼ばれる。IUPAC 組織名はホスファン (英 : phosphane ) である。「ホスフィン」は、PH3 を母化合物とする有機化合物 R3 P の総称でもある。半導体 製造のドーピング ガスの原料であり、ケイ素 をn形にする場合や、InGaP(インジウムガリウムリン)などといった半導体を製造するときにも用いる。
常温では無色腐魚臭の可燃性 気体 で、常温 の空気中で酸素と反応して自然発火 する[ 2] 。極めて毒性が強く(許容量 0.3 ppm )、吸入すると肺水腫 や昏睡 状態に陥り、死 に至る。融点 -134 ℃ 、沸点 -87.8 ℃、密度 1.379 g/L (気体, 25 ℃)。日本ではその強い毒性から、毒物及び劇物取締法 において、医薬用外毒物の指定を受けている。
アンモニア と同様に、強酸性媒体中で水素イオン を受け取りホスホニウム イオン
PH
4
+
{\displaystyle {\ce {PH4{}^+}}}
となる塩基 としての作用を持つが、アンモニアと比べて弱塩基であり、水溶液 中では水分子から水素イオンを受け取り水酸化物イオン OH- を放出する作用は極めて弱い。
H
2
O
+
PH
3
↽
−
−
⇀
PH
4
+
+
OH
−
{\displaystyle {\ce {H2O + PH3 <=> PH4^+ + OH^-}}}
,
p
K
b
=
26
{\displaystyle {\mbox{p}}K_{b}=26\,}
生成方法
Ca
3
P
2
+
6
H
2
O
⟶
3
Ca
(
OH
)
2
+
2
PH
3
{\displaystyle {\ce {Ca3P2 + 6H2O -> 3Ca(OH)2 + 2PH3}}}
有機リン化合物
有機化学では、リン化水素の誘導体で、一般式が RR'R''P (R, R', R'' は H または有機基)と表される一連の有機リン化合物 群を指してホスフィン と呼ぶ。詳細は項目: 有機リン化合物#ホスフィン を参照のこと。
惑星レベルにおける生成
ホスフィンは、地球の大気 中にわずかに存在する[ 3] 。しかし直接リン酸塩 をホスフィンに還元する強力な還元剤 はこれまで見つかっておらず、部分的な還元と不均化 による有機物 の分解によって、生物学的に生成されると考えられる[ 4] 。
ホスフィンは、木星 の乱気流中にも存在する[ 5] 。木星のホスフィンは、高温な惑星内部で生成され、大気中で別の化合物と反応している[ 5] 。ホスフィンを非生物学的に合成するには、木星のようなガスジャイアント の惑星級の対流嵐を必要とする[ 6] 。
金星 の大気中でもホスフィンが検出されたとする論文がある[ 注釈 1] [ 7] [ 8] [ 9] が、金星は木星ほどの高温高圧環境になく[ 9] 、どうやって生成されるのかについては不明である。さらに、このホスフィンの検出報告については、別の複数の研究者グループから疑義が呈されている[ 10] 。同じ観測データを異なるグループが独立して再解析したところホスフィンの特徴は統計的に有意な水準では検出されず、先の報告は誤検出の可能性が高いとの指摘がなされている[ 10] [ 11]
[ 12] 。
脚注
注釈
^ 論文では、「(ホスフィンが)未知の光化学 や地球化学 的反応か、地球におけるホスフィンの生成と同じように、生物の存在 によって生成されている可能性がある」と示唆している。
出典
^ Phosphine
^ 大谷英雄ほか、「ホスフィンの爆発限界 」、『安全工学』1988 年 27 巻 2 号 p. 96-98、doi :10.18943/safety.27.2_96
^ Gassmann, G.; van Beusekom, J. E. E.; Glindemann, D. (1996). “Offshore atmospheric phosphine”. Naturwissenschaften 83 (3): 129–131. Bibcode : 1996NW.....83..129G . doi :10.1007/BF01142178 .
^ Roels, J.; Verstraete, W. (2001). “Biological formation of volatile phosphorus compounds, a review paper”. Bioresource Technology 79 (3): 243–250. doi :10.1016/S0960-8524(01)00032-3 . PMID 11499578 .
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^ Greaves, J.S.; Richards, A.M.S.; Bains, W. (2020). “Phosphine gas in the cloud decks of Venus” . Nature Astronomy . doi :10.1038/s41550-020-1174-4 . https://www.nature.com/articles/s41550-020-1174-4 14 September 2020 閲覧。 .
^ a b Stirone, Shannon; Chang, Kenneth; Overbye, Dennis (September 14, 2020). “Life on Venus? Astronomers See a Signal in Its Clouds” . The New York Times . https://www.nytimes.com/2020/09/14/science/venus-life-clouds.html September 14, 2020 閲覧。
^ a b “「金星に生命の痕跡」に反証続々、ホスフィンは誤検出の可能性 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト ”. ナショナルジオグラフィック (2020年10月27日). 2020年11月16日 閲覧。
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^ Geronimo Villanueva, Martin Cordiner, Patrick Irwin, Imke de Pater, Bryan Butler, Mark Gurwell, Stefanie Milam, Conor Nixon, Statia Luszcz-Cook, Colin Wilson, Vincent Kofman, Giuliano Liuzzi, Sara Faggi, Thomas Fauchez, Manuela Lippi, Richard Cosentino, Alexander Thelen, Arielle Moullet, Paul Hartogh, Edward Molter, Steve Charnley, Giada Arney, Avi Mandell, Nicolas Biver, Ann Vandaele, Katherine de Kleer, Ravi Kopparapu (2020). "No phosphine in the atmosphere of Venus". arXiv :2010.14305 [astro-ph.EP ]。
関連項目