ホスホール (phosphole) とは、分子式が C4 H5 P と表される有機リン化合物 [ 1] 。ピロール の窒素がリンに置き換わった類縁体 にあたる。ホスホール環を含む一連の誘導体 も一般に「ホスホール」と呼ばれる。理論面での興味だけではなく、遷移金属 化合物 における配位子 として、またより複雑な有機リン化合物への前駆体 として興味が持たれてきた化合物である。
ホスホールを含む環縮合化合物では 1953年、トリフェニルホスフィン とフェニルナトリウムとの反応により p -フェニルジベンゾホスホールが得られることが ゲオルク・ウィッティヒ らによって報告された[ 2] 。その後、ホスホールを単環で持つ化合物の最初の例として、1959年にペンタフェニルホスホールを得たとする複数の報告がある[ 3] [ 4] 。そして親化合物である無置換のホスホールは、1983年に p -アニオンのプロトン化により低温で調製され反応性が調べられた[ 5] 。
ホスホール誘導体を得る通常の合成ルートでは、McCormackの手法を利用する。そこではまず 1,3-ジエンとジクロロホスフィンからジヒドロホスホール環を作り、その後脱水素化によりホスホール環を得る[ 6] 。ほか、ジルコナシクロペンタジエン(シクロペンタジエン のメチレン基 -CH2 - がジルコニウム -Zr(Cp2 )- に置き換わったもの)とジクロロフェニルホスフィンから 1-フェニル-1H -ホスホールが得られる[ 7] 。
ピロール やチオフェン 、フラン など他の複素5員環化合物と異なり、ホスホールの芳香族性 は弱い。それはリンの非共有電子対 が炭素のπ電子系と共役 しにくいためである.[ 8] 。例えば、ホスホールは電子不足 なアルキン とディールス・アルダー反応 を起こすなど、ジエン性を示す。
脚注
^ 総説: Mathey, F. (1988). “The organic chemistry of phospholes”. Chem. Rev. 88 : 429–453. doi :10.1021/cr00084a005 .
^ Wittig, G.; Geissler, G. (1953). “Zur Reaktionsweise des Pentaphenyl-phosphors und einiger Derivate”. Justus Liebigs Ann. Chem. 580 : 44-57. doi :10.1002/jlac.19535800107 .
^ Leavitt, F. C.; Manuel, T. A.; Johnson, F. (1959). “Novel heterocyclo pentadienes”. J. Am. Chem. Soc. 81 : 3163-3164. doi :10.1021/ja01521a083 .
^ Braye, E. H.; Hubel, W. (1959). “Proton [1,5] shifts in P-unsubstituted 1H -phospholes. Synthesis and chemistry of 2H -phosphole dimers”. Chem. Ind. (London) : 1250-1251.
^ Charrier, C.; Bonnard, H.; De Lauzon, G.; Mathey, F. (1983). J. Am. Chem. Soc. 105 : 6871-6877. doi :10.1021/ja00361a022 .
^ W. B. McCormack (1973). "3-Methyl-1-Phenylphospholene oxide" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 5, p. 787
^ Paul J. Fagan and William A. Nugent (1998). "1-Phenyl-2,3,4,5-Tetramethylphosphole" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 9, p. 653
^ D. B. Chesnut, L. D. Quin (2007). “The important role of the phosphorus lone pair in phosphole aromaticity”. Heteroatom Chemistry 18 : 754-758. doi :10.1002/hc.20364 .
単環
二環
五員環+五員環 五員環+六員環 六員環+六員環 五員環+七員環