偶然と想像
『偶然と想像』(ぐうぜんとそうぞう、英題:Wheel of Fortune and Fantasy)は濱口竜介監督が2021年に公開したオムニバス映画で、3つの短編からなる。第71回ベルリン国際映画祭に出品され、銀熊賞 (審査員グランプリ)を受賞した。 概要前作『寝ても覚めても』のあと、監督の濱口はいくつかの作品製作を進めていたが、コロナ禍によるスケジュールの混乱で、本作『偶然と想像』、そして長編『ドライブ・マイ・カー』が並行して撮影されることになった[1]。 『偶然と想像』は2021年3月にベルリン国際映画祭で初公開され、以後、世界各国の主要メディアできわめて高い評価を受けた。とりわけフランス映画の巨匠エリック・ロメールを思わせる抑制的な演技と台詞まわしや[2]、人物造形の確かさが注目され[3]、撮影監督の飯岡幸子による映像も繰り返し論評の対象となった[4][5]。 濱口は実際にロメールの『木と市長と文化会館/または七つの偶然』や、『パリのランデブー』からの影響を受けて、構成やアイデアの参考にしたことを明かしている[6]。 2021年10月30日に第22回東京フィルメックスのオープニング作品として日本で初上映され[7][8]、観客賞を受賞した[9]。同年12月17日の劇場公開から、4か月のロングランで観客数は7万人に達し、翌2022年4月6日からのフランス公開では、3週間で『寝ても覚めても』の10万人(総数)を上回る入場者を記録した[10]。 キャスト
あらすじ魔法(よりもっと不確か)ファッションモデルの芽衣子(古川琴音)は、撮影スタッフの一人つぐみ(玄理)と親友だった。都心での撮影が終わって一緒にタクシーに乗ると、つぐみは最近出会った運命の相手との夜を話し始める。 その相手は、若くしてビジネスで成功したハンサムな企業家だという。ふとしたことで出会い、話し始めると趣味や価値観がことごとく一致していることに、二人は驚喜した。どれだけ長く話しても、飽きるということがなかった。会ったその日の夜に、これがずっと探していた運命の相手だとお互いに確信した。その確信はあまりに揺るぎなかったので、肉体的な接触も要らなかった。目を見ているだけで満ち足りた時間を過ごすことができた。 芽衣子はこの話に喜んで耳を傾け、つぐみをうらやんでみせ、幸運を祝福する。しかし幸福に顔を輝かせているつぐみを家の前で降ろすと、芽衣子は運転手に、いま来た道を後戻りするよう伝える。 あるビルの前で降りる芽衣子。オフィスに入ると、久保田(中島歩)が一人残って働いている。久保田をカズと呼び、いま聞いたばかりのつぐみの体験を語り始める芽衣子。2年前まで、芽衣子はカズと交際しており、つぐみの相手がカズだと直感したのだ。 芽衣子の浮気が原因で別れた為に、当初は嫌悪感を示すカズ。だが、特異な芽衣子の人格にとって、それは浮気とも呼べない行動だったことも彼は理解していた。芽衣子も親友のつぐみを取られたくないと言いつつ、今でもカズを愛していると告白した。抱き合いそうになるカズと芽衣子。だが、会社のスタッフが戻って来て、芽衣子はビルから飛び出して行った。 3日後、喫茶店で寛ぐ芽衣子とつぐみ。今夜、彼と会うと嬉しそうに話すつぐみ。すると、喫茶店の大窓の外を久保田(カズ)が通りかかった。気づいて呼び入れ、芽衣子に紹介するつぐみ。そんな2人を前に、カズが好きだと告白する芽衣子。 芽衣子が顔を覆うと時間が戻り、つぐみが彼を紹介している。「お似合い」と言って喫茶店を出た芽衣子は、吹っ切れたように歩き去った。 扉は開けたままで大学生の佐々木(甲斐翔真)は、フランス文学教授の瀬川(渋川清彦)を深く憎んでいた。瀬川の授業で単位が足りず、佐々木は必死になって瀬川の前で土下座までしてみせたのだが、謹厳な瀬川は頑として聞き入れず、留年した佐々木は決まっていた大手企業への就職を棒に振ってしまったのだった。 5ヶ月後。佐々木は、同じ大学に通っている奈緒(森郁月)という人妻との情事を楽しんでいた。奈緒と抱き合っているとき、あの瀬川が書いた小説で高名な文学賞を受賞したというTVニュースを目にする。社会的地位と名声につつまれて微笑む瀬川の映像に、佐々木が向ける憎悪の視線。佐々木は瀬川を引きずり下ろそうと、奈緒に色仕掛けで瀬川に迫って弱みを握るようけしかける。 瀬川の研究室を訪ねた奈緒は、自分は先生の大ファンなのだと告げ、今回の文学賞の受賞作を朗読させてほしいと申し出る。あくまで冷ややかに応じる瀬川。その小説には過激なセックスシーンが含まれており、その部分を朗読する奈緒。だが、瀬川は研究室のドアを開け、廊下から丸見えの状態で冷静に対応し続けた。 瀬川に好意を持ち、今の会話をマスコミに売るつもりで録音したと打ち明ける奈緒。性的に弱く、人妻でありながら魅力的な男性に言い寄られると拒めないと告白する奈緒に、瀬川はカウンセリングを勧め、良い声で朗読してくれた録音をメールで送って欲しいと依頼した。 5年後。校閲の会社で働く奈緒は、疲れて帰宅するバスで偶然に佐々木と再会した。出版社で編集者になったと話し、瀬川の噂話をする佐々木。5年前、朗読の録音をメールで送った奈緒はアドレスを間違えて大学の事務に送信してしまい、卑猥な内容が問題となって瀬川は大学を辞め、奈緒も離婚に追い込まれたのだ。 現在の瀬川が消息不明なのも奈緒の離婚も自分のせいではないと言い放つ佐々木に、嫌悪感を示す奈緒。しかし、編集者の佐々木を利用すれば瀬川を探し出せるかも知れない。瀬川の新作を自分が校閲して世に出す事を想像する奈緒。佐々木が結婚すると聞いた奈緒は、気が変わったと佐々木にキスをし、名刺を渡してバスを降りて行った。 もう一度2019年、未知の強力なコンピュータ・ウィルスが大発生した。このウィルスはあらゆる端末から機密情報を拡散させ、世界は大混乱に陥る。インターネットは遮断され、世界は郵便と電話をつかった古いシステムへ逆戻りしていた。 世界的な大事件からしばらく後、女子高の同窓会に参加するため故郷の仙台市に帰省する夏子(占部房子)。20年ぶりに会った顔ぶれとは全く話がかみあわない。落胆を覚えつつ東京へ戻ろうとした夏子は、仙台駅のエスカレーターでクラスメートの女性(河井青葉)とすれちがう。驚いて駆け寄る夏子を自宅に招く女性。 同窓会の招待状を受け取らなかったのは、社会の大混乱が原因かもしれないと近況や高校時代の思い出を語り合う夏子と女性。しかし細かなところで話は噛み合わない。 今は幸せではないと打ち明ける夏子。夏子は高校時代に同性の恋人だった結城ミカと20年ぶりに会うために同窓会に出席し、駅で偶然に再会したと思っていたのだ。だが、女性は小林あやと名乗り、人違いだと告げた。夏子の懐かしそうな様子につられて、ボーイッシュな同級生だと思っただけで名前も思い出せないと言うあや。通った高校も違う事が判明した。 結城ミカは初恋の相手だったが、純粋なレズビアンではなかったミカは男性と結婚し、20年も会っていないと話す夏子。それほど似ているなら、ミカの代わりを演じると申し出るあや。今は幸せでないと言った夏子は、20年前の別れの電話で想いを伝えきれなかったこと、自分に空いている“穴”が今もミカにもあって、その“穴”で繋がっていると伝えたくて同窓会に来たと打ち明けた。 夏子を仙台駅まで見送りに行き、今度は、あやの同級生の「ふり」で再会を演じる2人。高校時代にボーイッシュな同級生と音楽室でピアノを弾いていた頃は、何にでもなれると思っていたと話すあや。夫も子もいる今の生活に不満はないが、燃えるものが無いと嘆くあやに、夏子は同級生になりきって、孤独な自分と親しくしてくれた。あなたは他人(ひと)を勇気づけられる人だと礼を言った。 一旦は別れて帰路についたが、慌てて夏子を追いかけ、呼び止めるあや。高校時代に憧れていたのに名前も忘れていたボーイッシュな同級生の名が“のぞみ”だったことを、あやは思い出したのだ。 評価
脚注
外部リンク |