同化 (どうか、英 : anabolism )は、同化作用 (どうかさよう)とも呼ばれ、小さな部品から分子 を構成する一連の代謝経路 である[ 1] 。これらの反応にはエネルギー が必要であり、吸エルゴン過程 とも呼ばれている[ 2] 。同化作用は代謝 における構築の側面で、これに対して異化作用 (異化とも呼ぶ)は分解の側面である。通常、同化作用は生合成 と同義 である。
経路
核酸 、タンパク質、多糖類 などの高分子を構築するための同化経路である重合反応 は、モノマーを結合するために縮合反応 を利用する[ 3] 。酵素や補因子 を使用して、高分子 はより小さな分子から作られる。
生物は平衡状態 になく、その秩序を維持するために自由エネルギー (ΔG )の継続的な流入が必要である。食物の分解(左上から左下への矢印)は、エネルギーを発生する発エルゴン反応 )である。また、生物が生命状態を維持するための分子を構築する同化作用(右下から右上への矢印)は、エネルギーを必要とする吸エルゴン反応 )である。生物は両者を結びつけることによって、非平衡状態を維持している。ATP とNADH は、食物の分解と細胞内化合物の生合成をつなぐエネルギー担体 として作用する。
エネルギー源
同化作用は、大きな分子を小さな部分に分解して細胞呼吸 に用いる異化作用 から得られるエネルギー によって起こる。多くの同化過程は、アデノシン三リン酸 (ATP)の切断 (英語版 ) を通じて起こる[ 4] 。通常、同化作用は還元 を伴い、エントロピー 減少させるため、エネルギー投入がないと不利となる[ 5] 。前駆体分子と呼ばれる出発物質は、ATPの加水分解、補因子NAD+ 、NADP+ 、FAD の還元、あるいは他の有利な副反応を行って生み出された化学エネルギー を使用して結合される[ 6] 。ときには、細胞のリン脂質二重層 の形成のように、疎水性相互作用によって分子が凝集する場合、エネルギーの投入なしでエントロピーによって結合が行われることもある[ 7] 。
補因子
還元剤であるNADH 、NADPH 、FADH2 [ 8] 、ならびに金属イオンは[ 3] 、同化経路のさまざまな段階で補因子 として機能する。NADH、NADPH、およびFADH2 は電子伝達体 として作用し、酵素内の荷電金属イオンは基質 上の荷電官能基 を安定化させる。
基質
同化のための基質のほとんどは、細胞内のエネルギー充足 (英語版 ) が高い期間に異化経路から取り出された中間体である[ 9] 。
機能
同化過程は、器官 や組織 を「組み立てる」方向に働く。このような過程で細胞は成長、分化し、複雑な分子 が合成 され、個体は大きくなる。同化の例としては、骨の成長 や石灰化 、筋肉 量の増加があげられる。
タンパク同化ホルモン
内分泌学者 は慣例的に、代謝のどの部分を刺激するかに基づいて、ホルモン を同化型と異化型に分類してきた。古典的なタンパク同化ホルモンは、タンパク質の合成 と筋肉の成長を促すタンパク同化ステロイド (アナボリックステロイド)、およびタンパク質・炭水化物 ・脂肪 の代謝を調節するインスリン である。
光合成による糖合成
植物やある種のバクテリアの光合成による糖質合成 は、CO2 からグルコース 、セルロース 、デンプン 、脂質 、およびタンパク質 などを生成する同化過程である[ 5] 。これは、光合成の光駆動反応から生成されたエネルギーを利用し、光合成炭素還元サイクル(別名: カルビン回路 )による炭素同化 (炭素固定とも)を介して、これらの大きな分子への前駆体を生成する[ 9] 。
解糖 およびクエン酸サイクル の中間体によるアミノ酸生合成 の概要。
アミノ酸生合成
すべてのアミノ酸は、解糖系 、クエン酸回路 、またはペントースリン酸経路 の異化過程の中間体から形成される。解糖系からは、グルコース-6-リン酸 がヒスチジン の前駆体として、3-ホスホグリセリン酸 がグリシンおよびシステイン の前駆体として、ホスホエノールピルビン酸 が3-ホスホグリセリン酸誘導体のエリスロース-4-リン酸 と結合してトリプトファン 、フェニルアラニン およびチロシン として、ピルビン酸 がアラニン 、バリン 、ロイシン およびイソロイシン の前駆体としてそれぞれ生成される。クエン酸回路からは、α-ケトグルタル酸 がグルタミン酸 に、次いでグルタミン 、プロリン 、アルギニン に変換され、またオキサロ酢酸 がアスパラギン酸 に、次いでアスパラギン 、メチオニン 、スレオニン 、リジン に変換される[ 9] 。
グリコーゲン貯蔵
高血糖の時には、解糖によるグルコース-6-リン酸 は、グリコーゲン貯蔵経路に転換される。それは、ホスホグルコムターゼ (英語版 ) によってグルコース-1-リン酸 に変換され、次いでUTP--グルコース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ (英語版 ) によってUDP-グルコース に変換される。グリコーゲン合成酵素 は、このUDP-グルコースをグリコーゲン鎖に付加する[ 9] 。
糖新生
グルカゴン は慣例上は異化ホルモンであるが、飢餓時に肝臓による糖新生 の同化過程を刺激し、さらに低血糖 を防ぐために腎皮質と腸を刺激する[ 8] 。これは、ピルビン酸をグルコースに変換する過程である。ピルビン酸は、グルコース、乳酸 、アミノ酸、またはグリセロール の分解により生成される[ 10] 。糖新生経路には、解糖と共通する可逆的な酵素過程が多くあるが、解糖を逆行する過程ではない。これは、さまざまな不可逆的な酵素を使用して、経路全体が一方向にしか進まないようにするものである[ 10] 。
調節
同化作用は、触媒作用とは別の酵素で行われ、その経路のどこかで不可逆的な段階を経る。これにより、細胞は生産速度を調節し、異化作用で無限ループ(無益サイクル として知られる)が形成されるのを防ぐことができる[ 9] 。
同化と異化のバランスは、ADP とATP、すなわち細胞のエネルギー充足 (英語版 ) に敏感である。細胞は、ATPが多いと同化経路を有利にして異化活動を遅らせ、ADPが多いと同化を遅らせて異化を有利にする[ 9] 。これらの経路は概日リズム によっても調節されており、解糖 などの過程は一日を通して、動物の通常の活動期間に合わせて変動する[ 11] 。
語源
anabolism という言葉は新ラテン語 に由来し、ギリシャ語 のἁνά (上向き)とβάλλειν (投げる)を語源とする。
脚注
^ de Bolster MW (1997年). “Glossary of Terms Used in Bioinorganic Chemistry: Anabolism ”. International Union of Pure and Applied Chemistry. 30 October 2007時点のオリジナル よりアーカイブ。2007年10月30日 閲覧。
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