特命全権大使特命全権大使(とくめいぜんけんたいし、仏: ambassadeur extraordinaire et plénipotentiaire、英: ambassador extraordinary and plenipotentiary、独: Außerordentlicher und bevollmächtigter Botschafter)は、外交使節団の長で最上級の階級である[1]。接受国の元首に対して派遣され、外交交渉、全権代表としての条約の調印・署名、滞在する自国民の保護などの任務を行う。国際連合などの国際機関の政府代表部に対しても派遣される。 来歴上野景文(2006年から在バチカン日本大使を4年間務めた[2])によると、ローマ教皇が4世紀に欧州の各地の司教協議会に代表を派遣したことが、現代へ続く外交使節派遣システムの起源の一つである[3]。 ヨーロッパにおける外交は貴族の手によりなされていたので、近代官僚制が発達して一般の家柄の者が外交に関わる時代になっても、長くその風習は残り、大使を筆頭とする外交官には、貴族的な高い教養が求められた。現代でもプロトコールには、外交儀礼の伝統が留められており、フランス語が多用されている。 かつては、大使のほか、駐在使節 (resident)、派遣使節 (envoy)、特命派遣使節 (extraordinary envoy)、公使 (minister)、駐在公使 (minister resident)、全権公使 (plenipotentiary minister)、特命全権公使 (minister extraordinary and plenipotentiary)、などの階級が乱立し、席次に関する紛争が起こった。 1815年のウィーン会議で採択された「外交使節の階級に関する規則」では、大使 (ambassadeur, nonce)、公使 (envoyé, ministre, internonce)、代理公使(chargé d'affaires、外交使節団の長の代理者である臨時代理大使 (Chargé d'affaires ad interim) とは異なる。)の3階級とされ、1818年に弁理公使 (minister resident) の階級が認められた。 呼称・敬称一般的には略して大使または全権大使と呼ばれるか、「在○○大使」(○○国に派遣されている大使)・「在○○××大使」(○○国に派遣されている××国の大使)と呼ばれる[注 1]。あるいは、「駐○○大使」(○○国に派遣されている大使)・「駐○○××大使」(○○国に派遣されている××国の大使)と呼ばれる。 また、日本国外務省では「駐箚」(ちゅうさつ)の語を今でも用いており、任命の辞令等には「○○駐箚特命全権大使」と記される[注 2]。駐箚とは、公務員が命により派遣されて駐在することの意であり、自ら名乗る場合「○○国駐箚××国特命全権大使(姓名)」と名のることがある。同様に、格式ある場では、例えば「日本国駐箚フランス共和国特命全権大使ローラン・ピック閣下」(仏: Son Excellence, M. Laurent pic, ambassadeur extraordinaire et plénipotentiaire de France au Japon、英語: His Excellency Mr. Laurent PIC, Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary, Embassy of France in Japan)と呼ばれる[注 3]。公文書上の一人称は「本使」、二人称は「貴使」である(英文で一人称は通常どおり「I」、二人称は「you」であるが、公式日本語翻訳文では、それぞれ「本使」「貴使」と訳している)。 派遣特命全権大使については、派遣国は派遣する者について、接受国からアグレマン(合意)を得なければならない(外交関係に関するウィーン条約(仏: Convention de Vienne sur les relations diplomatiques)4条1項)。 特命全権大使は、接受国の元首(chef d’Etat)に対し、派遣国の元首が派遣する。その際に派遣国の元首から信任状が託され、大使が接受国の元首に信任状を直接奉呈する儀式を信任状捧呈式という。 大使の席次は、信任状の捧呈式の実施の時が大使の任務開始とされる(外交関係に関するウィーン条約第13条)ため、信任状捧呈式の順により定められる(外交関係に関するウィーン条約第16条第1項及び第2項)。 外交使節団長ある国(接受国)に駐在している外交使節の長 (仏: chef de mission) たる大使の中で最も在任期間の長い大使は、駐在国における各種外交行事の際、全ての外交団の代表格とみなされ、外交使節団長 (外交団長、仏: doyen du corps diplomatique) としてふるまう。ただし、いくつかの国では、接受国が容認する慣習(教皇の代表者 (仏: représentant du Saint-Siège) の席次に関する習律)に従い、在任期間の長短にかかわらず、教皇大使が外交使節団長としてふるまう(外交関係に関するウィーン条約第16条第3項)。 各国の制度日本日本の特命全権大使は原則として大使館または政府代表部の在外公館の長(在外公館長)であるが、国連政府代表部など複数名の特命全権大使を擁する在外公館がある。その場合は上位者が館長に、次席が次席館員となる。新しい任地が決まるまで国内勤務の大使は待命大使と呼ばれ、「臨時本省事務従事」という特殊な業務に就く者もいる(担当大使)。 特命全権大使は特別職の国家公務員かつ外務公務員であり、その任免は、外務大臣の申出により内閣が行い、天皇がこれを認証する(認証官)。また、特命全権大使の信任状及び解任状は、天皇がこれを認証する。 現在の日本においては、慣例的に、外務省職員(特にキャリア官僚)の任命が多くを占めているが、他府省庁の職員や民間人が各国大使に任命される例も少なくない。 外務省においては、大使のポストが職員のキャリアパスに組み込まれており、外務事務次官をつとめた後に在米大使など主要国の大使に転出するという慣例が続いてきた。これは、事務次官が官僚の最高ポストである他府省と異なっている[注 4]。一方で、相対的に日本との関係で重要性が低いと見られる国の大使には、しばしば本省の課長相当職すら経験していない人物が赴任するケースがあった。外務省改革の一環としてその運用が見直された。 外務省改革では大使のポストに民間の人材が多く登用された。 下記に例を挙げる。
外務省改革の以前に、外務省外から大使に登用された例としては、下記の通りである。
日本の特命全権大使一覧以下は日本の特命全権大使の一覧である。(2024年11月15日現在)[7][8][9]
バチカンローマ教皇の派遣する大使 (Diplomatie du Saint-Siège) には、かつては2階級あり、司教や大司教がなる教皇大使 (Nonce apostolique) と枢機卿がなる教皇特派大使 (Légat apostolique) があった。現在は教皇大使のみである。 また、公使に相当する教皇大使代理 (internonce; pro-nonce) がある。 教皇大使は、主権国家であるバチカン市国との外交関係と、ローマ教皇庁との外交関係に基づいて大使の派遣及び接受の関係があるとされる。 1969年6月23日の教皇答書では教皇大使及び教皇大使代理に関してのみ規定されており、教皇特派大使は規定上も廃止されている。 教会法では、教皇の大使といえども、一般の司教が持つ権限のみで、駐在国における司牧上の権限は持たず、駐在国の司教協議会(Conférence des évêques catholiques 日本ではカトリック中央協議会)が当該国の司牧について決定すると定めている。 1961年の外交関係に関するウィーン条約では、同様に「ローマ法王の大使」及び「ローマ法王の公使」とのみ規定している。 イギリス連邦イギリス連邦の所属国同士は大使を交換せず、高等弁務官 (High Commissioner) と呼ばれる外交使節団の長を交換する。また、大使館についても高等弁務官事務所と呼ばれる。 アメリカアメリカ合衆国では大使は、政治任用ポストであり、合衆国憲法第二章第2条に基づき連邦議会上院による承認を得て、大統領が任命する。政治家や時には与党の有力支持者である実業家、学者などが任命される(国務省の官僚が任命される場合ももちろん存在する。湾岸戦争時の駐日大使マイケル・アマコストなど)。 また、著名な人物が任命されることがあり、元ハリウッド女優のシャーリー・テンプル・ブラック(ガーナ大使、チェコスロバキア大使)、ミッドウェー海戦を始め太平洋戦争で活躍した海軍大将レイモンド・スプルーアンス(フィリピン大使)、ジョン・F・ケネディ大統領の長女であるキャロライン・ケネディ(日本大使、オーストラリア大使)が代表例である。チャールズ・チャップリンも第二次世界大戦中の一時期、「駐ソ大使に任命か」という噂が流れたことがあった(昭和17年8月6日付朝日新聞夕刊)。 脚注注釈
出典
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