藤子不二雄Aブラックユーモア短編『藤子不二雄Ⓐブラックユーモア短編』(ふじこふじおエーブラックユーモアたんぺん)とは、藤子不二雄の安孫子素雄(1987年まで)、藤子不二雄Ⓐ(1988年以降)による短編漫画作品シリーズ。1968年以降に描かれた短編漫画のうち、ブラックユーモア要素(またはブラック要素)のある作品のことを指す。 概要1968年、『ビッグコミック』(小学館)に発表した『黒イせぇるすまん』に端を発する(『小池さんの奇妙な生活』を第一作とする場合もあるが、同作にはブラックユーモア要素はほぼない)。同作はそれまで「児童・少年漫画家」と目されてきた藤子にとって異例ともいうべき大人向け漫画で、その破滅的な作風は新境地を開拓することとなり、以後数年にわたって同傾向の作品が精力的に執筆された。 1968年当時の安孫子は『怪物くん』や『怪人わかとの』など従前の児童・少年漫画作品も執筆を続けており、どちらかに軸足を移しきることなく車の両輪として藤子不二雄の安孫子素雄作品の作風の幅を広げた。
ブラックユーモアの要素は1965年に連載が開始された少年漫画『怪物くん』でも取り入れられていたが、1969年に『怪物くん』のアニメ放送と連載が終了すると、その後を継いで、ブラックユーモア要素を前面に押し出した『黒ベエ』(少年画報社『少年キング』)の連載が開始された。『黒ベエ』は前述の『黒イせぇるすまん』の少年版ともいえる内容だが、黒ベエの観察対象となる人物には、妻子に虐げられるサラリーマンや、軍隊の訓練を強制されるサラリーマンなどの大人も含まれ、回によっては少年漫画とは思えないほどの過激な内容が描かれている。
『黒ベエ』連載開始から3か月後には、大人漫画の『黒ィせぇるすまん』(実業之日本社『漫画サンデー』)の不定期連載が開始された。その後も『夢魔子』や、『ぶきみな5週間』『白い童話』シリーズ(以上1970年)などの連載の他、多数のブラック短編の読切が描かれるようになった。
1972年に連載を開始した『魔太郎がくる!!』(秋田書店『週刊少年チャンピオン』)は、少年向けエンターテインメントとブラック要素の両輪が結実した人気シリーズとなった。 1973年からは『番外社員』や『戯れ男』などのシリーズもの、『愛ぬすびと』(小学館女性セブン)などの女性向け作品が執筆されるようになる。1974年の『愛たずねびと』は、出勤恐怖症の男等の様々な男性の心の闇を描き、大人向けブラック作品の一つの到達点となった。
1973年頃から藤本弘によるSF短編が量産されたこともあり、1974年から安孫子素雄のブラック短編はほぼ描かれなくなった[1](藤子不二雄の読切一覧#1970を参照)。その代わりに、安孫子は『無名くん』『添乗さん』『ミス・ドラキュラ』等の多数の大人向けサラリーマン漫画を連載した(藤子不二雄の連載一覧#1970を参照)。
1980年代に入ると『ドラえもん』(藤本単独作)のブームを受け、安孫子も児童漫画に回帰し、ブラックユーモア作品は描かれなくなったが、1988年の独立を経て、1989年にアニメ『笑ゥせぇるすまん』が放送開始して人気を博すると、漫画『笑ゥせぇるすまん』も読切掲載から連載へと発展。安孫子は再び大人向けブラックユーモア作品を手掛けるようになった。他に『憂夢』『喪黒福次郎の仕事』『切人がきた!!』等が1990年代に連載され、せぇるすまんシリーズはタイトルを変えながら2006年まで描かれた。 児童漫画でも、悩みを魔力で解決する代わりに魂を要求する『プリンスデモキン』が1999年まで描かれた。 評価これらブラック短編の発表は「藤子不二雄」が一般的な児童・少年漫画にとどまらないポテンシャルを秘めた作家であることを認知させることとなり、以後の藤子の連載作品にも影響を及ぼしている。これらの作風は米沢嘉博が愛蔵版『ぶきみな5週間』にて、「キャビアの味」と評している。 また、『週刊少年「」』において船越英一郎が、『明日は日曜日そしてまた明後日も……』を「引きこもりを描いた先駆け」と語っている。人間精神の暗部を描いた作品は多く描かれ、『内気な色事師』におけるストーカー、『なにもしない課』における社内失業など、後年社会問題化した事象を先駆けて取り扱った例は他にも複数ある。 年代別作品一覧どの作品を「ブラックユーモア短編」と呼ぶかは諸説ある。下表では、ブラック要素を含む作品を、「連載」「初出が大人・青年(または一般)向け媒体の短編」「初出が少年向け媒体の短編」の3つに分類した。 「ブラックユーモア短編」の名が冠された単行本に収録されたことのある作品はすべて記載した。中にはブラックユーモア要素がない作品も含まれている。
シリーズ
藤子不二雄の変シリーズ
赤ゲット漂流記第2作の『マンハッタン・ブルース』から、表紙に「赤ゲット漂流記−ニューヨークの巻」等と記載され、シリーズ物の連作として雑誌掲載された。日本の青年・風田伸一が世界の都市や豪華客船を旅する悲喜こもごもを描いた連作短編。赤ゲットの漢字表記は「赤毛布」で、ここでは初めて海外を訪れた田舎者の意味(赤い毛布を纏って都会にやってきた田舎者のことを指す隠語で、はじめて洋行する者にも用いられる)。
ぶきみな5週間奇妙な古道具をテーマにした1970年の連作。5週にわたり短期連載された。『毛のはえた楽器』は、愛蔵版の増刷時に『禁じられた遊び』に差し替えられた後、単行本未収録の状態となっている。作中に登場する原住民への差別的な表現が問題になったものと見られる。 白い童話1970年〜1971年に『COM』に連載された短編シリーズ。各作品に物語上の繋がりはない。『わが分裂の花咲ける時』が未収録作となっていることもあり、単行本でシリーズとしてまとめられたことはない。
藤子不二雄恐怖千一夜1970年頃から『ビッグコミック』に掲載された短編の扉に記載されていた名称。各作品に物語上の繋がりはない。下記の作品の扉に「藤子不二雄恐怖千一夜」の表記があることを確認済。 師シリーズ1972年に発表された、タイトルに「師」が付く短編。各作品に物語上の繋がりはない。
大シリーズ1972年〜1973に『まんがNo.1』にて発表された、タイトルに「大」が付く短編シリーズ。各ジャンルの名作映画を題材したギャグ作品。
夜シリーズ1976年に発表された、タイトルに「夜」が付く短編。各作品に物語上の繋がりはないが、旅行先で起きた悲劇を扱っている点が共通している。
戯れシリーズ
男シリーズタイトルの末尾に「男」が付く短編が断続的に発表されている。副題の末尾が「男」の作品は、下記の他にも多数存在する。
作品北京塡鴨式読みは「ペキンダックしき」。食人、拷問、人種差別等が描かれ、短編の中ではブラックさが特に際立つ作品。第二次世界大戦中の南京で中国人捕虜を生き埋めにした後で首を刎ねるという、登場人物(旧日本軍軍人)の回想シーンが後年の版では全面的にカットされている。
単行本ブラックユーモア短編作品は、1970年に『黒ィせぇるすまん』(実業之日本社)が単行本化されたことを皮切りに、1971年『ひっとらぁ伯父サン』(朝日ソノラマ)、1978年『ヒゲ男』(奇想天外社)など散発的にまとめられ、1988年からの『愛蔵版 ブラックユーモア短編集』(中央公論社)において集成されることとなった。また、この愛蔵版をベースに後年の出版状況に応じて文庫化、コンビニコミック化もなされている。 諸事情(差別表現など)により一部作品は表記の修正、改変が生じている。また、初出以来いずれのシリーズにも未収録となっているものや、収録後他作品に差し替えとなったものもある。 主な単行本
愛蔵版
関連項目脚注 |