消えた臨時列車
『消えた臨時列車』(きえたりんじれっしゃ、原題:The Lost Special)は、アーサー・コナン・ドイルが、ストランド・マガジン誌1898年8月号に掲載した短編小説。『消えた臨急』、『消えた特急』、『臨時急行列車の紛失』との訳題も用いられる。ホームズの登場は明言されないものの、『時計だらけの男』と共に、シャーロック・ホームズシリーズの外典とされる作品である。 あらすじ1890年6月3日、ムッシュー・カラタルと名乗る男がリヴァプール中央駅に現れる。彼は、パリに向かうのにロンドン行きの急行に乗り損なったので、臨時列車を手配してほしいと駅長に頼み込む。直後に別の男ムーアが、ロンドンに居る妻の重病を理由に臨時列車を依頼するが、カラタルは彼の同乗を拒む。列車はカラタルとその同伴者ゴメスだけを乗せて、次の停車駅・マンチェスター駅へ向けて出発する。 2時間ほど経って、リヴァプール中央駅に、マンチェスター駅から臨時列車が現れないとの連絡が入る。駅長たちが調べると、途中の駅までは通過記録があること、線路には脱線などの事故痕が無いことが分かる。加えて、列車の通過を最後に記録した駅から、次の駅との間にある藪で、臨時列車の機関士ジョン・スレイターが遺体で見つかったと連絡が入る。 鉄道会社は調査を開始し、列車の通過を最後に記録した駅と次の駅の間に、製鉄所や炭鉱が点在し、そこへ向かう引き込み線がいくつかあると分かるが、いずれも事件の発生日には臨時列車を引き込める状況になかった。また、線路に繋がれていない旧引き込み線がいくつかあることが分かる。 1ヶ月ほど経った7月5日付で、臨時列車の車掌であるジェームズ・マクファースンから、妻宛にニューヨークから手紙が送られてくる。中にはニューヨークへの渡航代が同封されており、妻とその妹を呼び寄せる文面だった。2人は手紙の通りニューヨークに向かうが、マクファースンは待ち合わせ場所のホテルに現れなかった。 事件から8年経った1898年[注 1]、フランスで死刑判決を受けたエルベール・ド・レルナックという男の手記がマルセイユの新聞に載る。レルナックは、当時パリで起きていたスキャンダルの裁判に出席できないよう、カラタルの暗殺を依頼されていた。彼は英国人の協力者を見つけ計画を練らせた上で、鉄道員のマクファースンとスミスを買収した。英国人の協力者はムーアと名乗って臨時列車を依頼するが、カラタルは用心棒まで付けて警戒しており、彼を車内で射殺するという当初の計画は失敗する。しかし車掌のマクファースンの手引で英国人の協力者は列車に潜り込んだ。次善の策として彼らは、旧引き込み線にレールを継ぎ足し、カラタルを乗せた臨時列車を廃炭鉱に引き込む計画を実行する。計画では、火夫のスミスがスレイターにクロロホルムを嗅がせ、カラタルたちと一緒に消すつもりであったが、2人は揉み合いとなり、スレイターは機関車から落ちて死亡する。現場で待ち構えていたレルナックは、旧引き込み線に臨時列車を引き込み、全速力で廃炭鉱へ突っ込ませた。ゴメスは書類鞄を放り投げ、スキャンダルに関する資料と引き換えに命乞いをしたが、列車は既に制御不能で、そのままカラタルたちは列車ごと廃炭鉱に落ちて行った。マクファースンとスミスと英国人の協力者はその前に列車から飛び降りていたが、後にアメリカに逃亡したマクファースンは妻に手紙を書いたために殺されたと示唆されて手記が終わる。 登場人物
背景・位置づけこの作品は、ストランド・マガジン誌1898年8月号に掲載された。当時ドイルが同誌に連載していた『炉辺物語』に属する短編であり[1]、1908年に発行された同名の短編集(英: "Round the Fire Stories")に収録された[2]。挿絵はマックス・クーパー(英: Max Cowper)が担当している[2]。 ドイルが1893年に『最後の事件』を発表して、ホームズを「葬って」から5年経って発表された作品である。また、正式なホームズシリーズ作品の続編『バスカヴィル家の犬』(1901年発表)に先行して発表されている。 ホームズの登場は明言されないが、タイムズ紙に載った素人推理家の言説として、「不可能なことを除いて残ったものが、どんなにありそうもなくても真実だ」との文があり、このことからホームズシリーズの外典として扱われている。この言葉は、『緑柱石の宝冠』[3]や『ブルースパーティントン設計書』[4]などに登場し、ホームズの名言として知られている[5]。この事件の発生は1890年とされ、大空白時代に突入する『最後の事件』の前年にあたる(ライヘンバッハの滝でのモリアーティ教授との対決は、1891年に設定されている)。 この作品では、臨時列車の手配料金が1マイルあたり5シリング、しめて50ポンド5シリングとされている[注 2]。 また、ヘンリー・マックレイ監督で本作品と同名の後日談にあたる映画が作られている (The Lost Special (serial)) 。 2014年に放送された、『SHERLOCK』シーズン3初回の『空の霊柩車』では、この作品がプロットの一部に用いられた[6]。 書誌情報
脚注注釈出典
参考文献 |