消費者庁
消費者庁(しょうひしゃちょう、英: Consumer Affairs Agency、略称: CAA)は、日本の行政機関のひとつ。消費者に関する行政および消費生活に密接に関連する物資の品質表示に関する事務を行うことを目的として設置された内閣府の外局である。 概要消費者庁は、消費者の視点から政策全般を監視する組織の実現を目指して、2009年(平成21年)5月に関連法[注釈 1] が成立し、同年9月1日に発足した。消費者庁が所管する独立行政法人として国民生活センターがあり、全国の消費生活センター等と連携し、消費者行政の中核的な実施機関としての役割を担っている。 部局制を採っておらず、審議官の下に直接課が設置されている。発足後すぐは正規職員が200名程度にとどまるため、立ち入り調査や処分を行う消費者安全課は2,30名程度しか職員が確保できなかった[3]。そのため、捜査や規制の知識や経験が豊富な警察や公正取引委員会のOBを非常勤職員として100人規模で雇用し[4]、立ち入り調査などにこれらの非常勤職員を積極的に投入する方針とされていた[3]。 消費者庁や関係省庁の消費者行政全般に対して監視機能を有する第三者機関として内閣府本府に消費者委員会が消費者庁と同時に設置された。消費者委員会は内閣府の審議会等として位置づけられ、内閣総理大臣によって任命される委員10名以内で組織される。事務局が置かれるほか、必要に応じて臨時委員、専門委員が置かれる。消費者基本法に基づく消費者基本計画の案を作成し、その実施状況を監視するため、内閣府本府の特別の機関として消費者政策会議が置かれている。同会議の庶務は消費者庁消費者政策課が担当している。 組織消費者庁の組織は基本的に、法律の消費者庁及び消費者委員会設置法、政令の消費者庁組織令及び内閣府令の消費者庁組織規則が階層的に規定している。 特別な職内部部局
審議会等
所管法人、財政、職員内閣府の該当の項を参照 歴代担当大臣→詳細は「内閣府特命担当大臣(消費者担当)」および「内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当)」を参照
歴代長官
幹部職員2024年4月1日現在、消費者庁の幹部(指定職以上)は以下のとおりである[7]。
設置の経緯と諸課題設置までの経緯消費者庁設置前の消費者行政は、製品や事業ごとに所管が多数の省庁にまたがり、こうした縦割り行政が、こんにゃくゼリー窒息事故や中国製冷凍餃子中毒事件、パロマ湯沸器死亡事故、渋谷温泉施設爆発事故などについて、行政上の対応の遅れを露呈した。このことから、消費者行政の一元化が急務となった。 消費者庁は、2008年(平成20年)1月18日に、内閣総理大臣 福田康夫が第169回国会(常会)で行った施政方針演説の中で示した、「消費者行政を統一的、一元的に推進するための、強い権限を持つ新組織」の構想を具体化した行政機関であり、福田康夫の宿願とも言われた政治主導案件である。 福田は「消費者行政の司令塔として、消費者の安全、安心にかかわる問題について幅広く所管し、消費者の視点から監視する強力な権限を有する消費者庁を来年度に立ち上げ、早急に事務作業に着手する」[8] として、各省庁に対する是正勧告権を新機関に附与する考えを明らかにした。さらに「消費者庁創設は行政組織の肥大化を招くものであってはならない。各省の重複や時代遅れの組織の整理にもつながるものでなければならない」[9] との方針を表明し、消費者庁の職員は他省庁から振り替えることで行政の肥大化を防ぎ、同時に縦割り行政の弊害解消や小さな政府の実現を目指すよう指示した。
消費者庁の設置により、主務業務に影響が及ぶことを畏れた各省庁は設置には概ね冷ややかであり、中には設置の必要はないというアピールとも取れる行動に動いた省庁も幾つかみられた。たとえば、2009年(平成21年)6月2日に山口県美祢(みね)市のホテルで死者1名を出した、ボイラーの不完全燃焼による修学旅行児童らの集団一酸化炭素中毒事故では、経済産業省が原子力安全・保安院職員及び専門家からなる原因究明チームを組織し、現地へ派遣して事故原因の特定に速やかにあたり、事故5日後には調査の結果をまとめた[10]。また、翌月の7月31日付けで各自治体宛てにホテル・旅館の緊急調査の実施を依頼する通達を出す一方(緊急調査の調査票は原子力安全・保安院が作成した)[11]、翌年の2010年1月には安全・再発防止対策についての報告書を作成している[12]。この件以外にも、穀物輸送船の酸欠労災事故に農林水産省が職員を急派するなど、通常では例のない迅速な対応がとられたケースがあり、マスコミも注目せざるを得なかった。 法案化の過程内閣総理大臣が随時開催する消費者行政推進会議(2008年2月8日閣議決定により設置)において、その組織・所管法令の内容等について検討された。同会議は座長の佐々木毅以下11名の委員により組織され、会議の庶務は内閣官房に置かれた消費者行政一元化準備室が行うものとされた。会議は、委員のほか政府からの出席者も交えて、月に2回のペースで行われた。 同会議は、同年4月23日の第6回会合の後に「消費者庁(仮称)の創設に向けて」と題して、消費者庁の所管、位置づけなど「6つの基本方針」と国民本位の行政実現など「守るべき3原則」をまとめた文書を発表し、同年6月13日に最終報告書となる「消費者行政推進会議取りまとめ ~消費者・生活者の視点に立つ行政への転換~」を発表した[13]。福田内閣は同月末に報告書の内容をもとにした「基本計画」を閣議決定し、同年9月29日、麻生内閣が第170回国会(臨時会)に「消費者庁設置法案」および関連法案を提出した。同国会では同法案は成立に至らず、会期末において継続審議とされた。 同法案は、第171回国会(常会)の衆議院消費者問題特別委員会において審議された。この結果、委員会では消費者委員会を設置するなどの共同修正案が提出され、2009年(平成21年)4月16日に共同修正案を全会一致で可決、翌17日には委員長報告のとおり衆議院本会議でも共同修正案を全会一致可決した。法案を送付された参議院でも消費者問題特別委員会で審議され、同年5月28日に委員会の全会一致で可決、翌29日には参議院本会議でも全会一致で可決成立した。 諸課題2010年6月、消費者庁の初年度実績について、通報された消費者事故情報の9割に対応できていなかったことが報じられた。消費者庁側は深刻な人員不足が原因としている[14]。 一方で、諸課題が山積しているのが現状である。たとえば、学校教育法第135条に基づかずに大学・大学院を名乗ることは違法となるが、民間の教育施設だけではなく、自治体が経営する生涯学習センター等でも大学・大学院を名乗るケースが相次いでいる。同法第146条では「第135条の規定に違反した者は、十万円以下の罰金に処する」としているが、文部科学省はディプロマミルの潜在的脅威が指摘されているにも関わらず、私立大学並みの年間授業料を徴収して起業を教えるとする無認可大学[15] についても是正措置をとらないままでいる。 これを消費者庁も所管法の所掌にないことを理由に黙認できるのかといった諸課題に加え[注釈 2]、「原子力 明るい未来のエネルギー」という謳い文句は景表法に違反しないのかと言った指摘などもある。また、開運ブレスレットと称した商品を申し込むと高額な祈祷料を払わされる「開運商法」や、内容をともなわない法外な受講料を徴収する"起業セミナー"など[16]、相変わらず悪質または詐欺的な商法が次々と出現しているのが現状である。 →「§ その他」も参照
事故調査機関の在り方に関する検討会2010年(平成22年)8月20日、事故調査機関の在り方に関する検討会が設置された。
関連項目:事故調査 消費者行政推進会議消費者行政推進会議(しょうひしゃぎょうせいすいしんかいぎ)は、各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための、強い権限を持つ新組織の在り方を検討し、その組織を消費者を主役とする政府の舵取り役とするため、2008年(平成20年)2月8日の閣議決定により内閣に設置された会議である。会議は、議論を行うとともに、ワーキング・グループを立ち上げ、各団体からヒアリングを実施し、同年6月13日の第6回の会議で取りまとめを行った。 委員は以下のとおり。
消費者行政推進会議取りまとめの概要本文
別紙
地方移転計画政府は「東京一極集中」を是正して地方の活性化につなげるために、役所や研究所など、政府の施設を地方に移転する事を検討している。2015年12月現在では消費者庁や観光庁などの22研究機関や施設など、計34の機関を地方へ移転する検討対象としている。 消費者庁については、2016年(平成28年)3月から2回にわたり徳島県に試行的に滞在し、検証を行った。検証では、徳島県との連携により、実証に基づいた政策の分析・研究機能の強化に寄与する可能性がみられた。しかし、各府省共通のテレビ会議システムが整備されておらず、消費者行政の司令塔機能、制度整備等の業務については、関係者との日常的な関係の構築等に課題がみられ、テレビ会議システム等を活用したやり取りでの多人数での意見調整についても課題がみられた。 平成29年度に徳島県に設置する職員30~40人規模の「消費者行政新未来創造オフィス」(仮称)での実績等を踏まえ、3年後に全面移転の可否について目途を判断することとされていたが[17] 、2019年8月19日、2020年4月徳島県に全面移転を見送る代わりに「消費者庁新未来創造戦略本部」を新設すると発表した[18]。人員は50名から80人に増員、現地のトップも参事官級から審議官級に格上げし、戦略本部の機能を強化する。2020年7月、徳島県庁内に「新未来創造戦略本部」を設置[19]。 天下り問題内閣府の再就職等監視委員会が発足してから、文部科学省天下り問題が2017年1月に発覚する前、2015年度までに認定された違反行為6件のうち、2件が消費者庁だったとされる[20]。認定が見逃された事例もあり、のちに特定商取引法と預託法違反で、消費者庁から業務停止命令を受けたジャパンライフの顧問となっていた元課長補佐(経済産業省から出向)については、その経緯を週刊通販新聞が大きく報じ、国会でも追及される事態となった[21][22][23]。 その他
脚注注釈
出典
関連項目
外部リンク
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