M をネーター環 R 上の有限生成加群とし、N を部分加群とする。N が準素分解がもつことを示すには、M を M/N でおきかえて、N = 0 のときを示せば十分である。さて、
である、ただし Qi は M の準素部分加群である。言い換えると、0 は次のとき準素分解をもつ:M の各素因子 P に対して、準素部分加群 Q が存在して、 となる。さて、集合 を考える(0 が属するから空でない。M はネーター加群だから集合は極大元 Q をもつ。もし Q が P 準素でなかったら、 を M/Q の素因子として、 がある部分加群 Q′ に対して成り立ち、極大性に反する。(注:)したがって Q は準素であり証明は完了する。
注意:同じ証明により、R, M, N がすべて次数付けられていれば、分解における Qi も次数付けられているようにとることができる。
最短分解と一意性
この節では、すべての加群はネーター環 R 上有限生成であるとする。
加群 N の部分加群 M の準素分解が最短であるとは、準素加群の個数が最小であることをいう。最短準素分解に対して、準素加群の素因子は一意的に決定される:それらは N/M の素因子である。さらに、極小あるいは孤立素因子(他の素因子を含まない素因子)に伴う準素部分加群も一意である。しかしながら非孤立素因子(幾何学的な理由から埋め込まれた素因子とも呼ばれる)に伴う準素部分加群は一意とは限らない。
例:ある体 k に対して N = R = k[x, y] とし、M をイデアル (xy, y2) とする。このとき M は2つの異なる最短準素分解 M = (y) ∩ (x, y2) = (y) ∩ (x + y, y2) をもつ。極小素因子は (y) であり、埋め込まれた素因子は (x, y) である。
ネーターでない場合
次の定理は環がそのイデアルについて準素分解を持つための必要十分条件を与える。
定理 ― R を可換環とする.このとき以下は同値である.
R のすべてのイデアルは準素分解をもつ.
R は以下の性質をもつ:
(L1) 任意の真のイデアル I と素イデアル P に対して,ある x ∈ R − P が存在して,(I : x) が局所化写像 R → RP のもとでの I RP の逆像となる.
(L2) 任意のイデアル I に対して,S は R のすべての積閉集合を走るとして,局所化写像 R → S−1R のもとでの I S−1R の逆像全ての集合は,有限である.
定理 ― R を可換環とし,I をイデアルとする.I は極小準素分解 を持つとする(注:「極小」は たちが相異なることを含んでいることに注意).このとき
集合 E = {√Qi | 1 ≤ i ≤ r} は集合 {√(I : x) | x ∈ R} のすべての素イデアルの集合である.
E の極小元全体の集合は I 上の極小素イデアル全体の集合と同じである.さらに,極小素イデアル P に対応する準素イデアルは I RP の逆像であり,したがって I によって一意的に決定される.
さて、任意の可換環 R、 イデアル I、 I 上の極小素イデアル P に対して、局所化写像のもとでの I RP の逆像は I を含む最小の P 準素イデアルである[4]。したがって、直前の定理の設定では、極小素イデアル P に対応する準素イデアル Q は I を含む最小の P 準素イデアルでもあり、I の P 準素成分と呼ばれる。
例えば、素イデアル P の冪 Pn が準素分解を持てば、その P 準素成分は P の 記号的 n-乗(英語版)である。
Hermann, Grete (1926), “Die Frage der endlich vielen Schritte in der Theorie der Polynomideale”, Mathematische Annalen95: 736–788, doi:10.1007/BF01206635。 English translation in Communications in Computer Algebra 32/3 (1998): 8–30。
Lasker, E. (1905), “Zur Theorie der Moduln und Ideale”, Math. Ann.60: 19–116, doi:10.1007/BF01447495