第3世代光ディスク第3世代光ディスク(だいさんせだいひかりディスク)は、光ディスクのうち、主に2000年代以降に登場し、記録・再生に青紫色半導体レーザーを使用するものである。片面1層の12 cmディスクの場合で最大25 GB程度の容量がある。映像記録用途では、HDTV画質に適する。 主要な第3世代光ディスクとしてBlu-ray Disc(BD)、Ultra HD Blu-ray (UHD BD)、Professional Disc (PFD、PD)、HD DVD、Ultra Density Optical (UDO)があり、本記事では主にBDとHD DVDについて記述する。 BDとHD DVDは日本のメーカーを中心にアメリカの映画会社やパソコン会社などが両陣営に分かれて規格争いを繰り広げ、かつてのベータマックス・VHSによる家庭用VTRの規格競争(ビデオ戦争)を彷彿とさせていたが、東芝のHD DVD事業終息に伴い[1]事実上BDの1規格に収束した。 第3世代光ディスクが実現されていなかった時代には、第2世代光ディスクであるDVDの次世代の光ディスクとなることから「次世代DVD」と一般に呼ばれることがあったが過渡的な呼称である。また「次世代ビデオディスク」[2][3][4]や「次世代光ディスク」[5]との呼称も見られたほか、「新世代DVD」や「高精細ビデオディスク」などと呼ばれることもあったが、これらの総称はいずれも正式なものではない。 登場の背景
おもな参入企業下表の太字は一方を独占的に支持していた企業を表す。太字でないものは両陣営に参入していた企業を表すが、どちらかと言えば片方の陣営に近いと考えられる場合はそちらに含めている。いずれも2008年2月19日終結時点のものであり、規格争い終結後の移動・離脱は変更しない。
両方に消極的な企業
HD DVDとBDの比較呼称BDはBlu-ray Disc Association(Blu-ray Disc Foundersより改称)により策定されており、HD DVDはこれまでDVD規格を策定してきたDVDフォーラムによって策定された。そのためDVDの直接の後継となる規格はHD DVDのみであり、BDは独自に開発が行われている。 日本のマスメディアではそれぞれの規格を支持している代表的な企業の名称を示し、「東芝陣営」「ソニー・パナソニック陣営」と併記されることも多い。[要出典] 2007年6月に発表された「次世代DVD」に関するアンケート調査では、ソニーやパナソニック、シャープなどの広告戦略によって「ブルーレイ」は徐々に認知されつつあるが、HD DVDはハードディスク(HD)や従来のDVDと混同されやすく分かりにくかったのではないかと言われていた。このような誤解を持った回答者が多かったため、一部項目ではHD DVDに関する有効なデータが得られなかったという[10]。 コスト記録メディアおよびROMの製造においてHD DVDはDVDの製造機器を一部流用することが可能でありコスト面で有利[11]と言われてきたが、一定の流通量が見込まれるようになった無機型BDメディアの方が結果的に低コストとなった。またBDにおいても有機素材を用いることでDVD等の設備を流用出来る技術が開発された事から、有機素材を用いたBD-R LTHメディアの発売を国内外の各社が発表し、2008年2月下旬から発売した。これによりさらなるBDの低価格化が進んだ。 また松下電器産業が試験製造ラインをハリウッドに建設[12]するなどして映画スタジオ各社にコストの不安を払拭するよう努めたことがBD支持の拡大につながった。 物理構造HD DVDとBDでは物理的には記録層の深さ(保護層の厚さ)の違いがあり、HD DVDではDVDと同じ0.6mm厚である[13]のに対しBDは0.1mm厚である[14]。この違いが様々な影響をもたらしている。
採用技術BDとHD DVDは互換性がないが、共通する技術が数多く使用されている。 ともに直径12 cmまたは8 cm、厚さ1.2 mmの円盤状で素材は主にプラスチックからなる[注 2]。読み取りには波長405 nmの青紫色のレーザーを用いている[14]。なおCDでは波長780nmの赤外線レーザー、DVDでは650 nmの赤色レーザーを用いており、より波長の短いレーザーを用いることで高密度の読み取りを可能にしている。そのためBDとHD DVDはDVDと共通する基本構造・用途を持ちながら、デジタルハイビジョン映像の長時間収録が可能な大容量を実現している。 著作権保護技術はどちらもAACS(Advanced Access Content System)を採用する。完全にコピーを禁止しているわけではなく、マネージドコピー(著作権者が許可する範囲内でハードディスクなどにコピーできる)に対応している。ただし、現在もAACSは暫定的なライセンスでありマネージドコピーは使用できない。 ビデオ規格いずれもビデオ規格では、多重化フォーマットとしてMPEG-2トランスポートストリームが採用され、また、映像コーデックとしてH.264/MPEG-4 AVCやVC-1が採用され、主に1920×1080ドットの映像が収録される。音声コーデックには従来のDVDと同じドルビーデジタル・DTS・リニアPCM(ただしDVDよりも高いビットレートやマルチチャンネルのPCMを収録可能)、さらに新世代のコーデックとしてドルビーデジタルプラス、ドルビーTrueHD、DTS-HDが採用されている。 HD DVDではプレーヤーにおいて新世代のサラウンド音声フォーマットであるドルビーデジタルプラスとドルビーTrueHD 2chのデコードが必須であるが、BDのプレーヤーではオプション扱いである。もっとも、これらの音声フォーマットに対応したAVアンプは2007年6月に発売されたばかりで需要が非常に限られる上、PCMマルチチャンネル音声を収録した物や両者のプレーヤーの必須・オプションに無関係にロスレスサラウンドを収録する物、実質的にはBDプレーヤーでもデコード可能な音声フォーマットの範囲が拡大していること等、両者の決定的な違いには至らなかった。なおDTS-HDは両フォーマットともオプション扱いである。 DVD-Videoに比べて広範な機能を搭載できるインタラクティブ技術はBDはJavaを基にしたBlu-ray Disc Java(BD-J)を、HD DVDはマイクロソフトが開発したHDiを採用し、XML、CSS、SMIL、ECMAScriptなどの技術が使われている。当初マイクロソフトが中心となっており、BDでもiHDを採用する提案がなされていたが見送られた。2007年6月時点ではピクチャーインピクチャーやインターネット接続などの機能はBDではオプション、HD DVDでは必須となっており、製品化当初から標準規格化されていたHD DVDが先行している。 収録可能時間はBSデジタルハイビジョン放送の最大24 Mbpsで換算し片面1層HD DVD-R (15 GB) で75分、片面1層BD-R/RE (25 GB) は130分と表示されている。地上デジタルハイビジョン放送(最大17 Mbps)ではより長時間の記録が可能であるもののHD DVD-R (15 GB) で115分と表示され、2時間を切る短さであった。 著作権保護技術に関して、BDではAACSに加えより万全に海賊版対策ができる技術「BD+」を必須として採用している。BD+を搭載した映像ソフトは2007年10月に登場し始めた。 消費者の反応規格分裂は消費者にとって利益とならないため、規格争いが決着するまで購入を手控えている消費者が多いことが各種調査で指摘されていた[要出典]。 互換性の確保そのため市場ではHD DVDおよびBDの両方に対応する機器の開発およびパッケージソフトの発売をした。 DVDとの互換性HD DVD・BDの再生/記録機器はDVDにも対応しているが、メディア側でも従来のDVD機器への互換性を保とうとする動きがある。HD DVDで製品化されているツインフォーマットディスクがその例である。 DVD版の同梱バンダイビジュアルは「BD+DVD」または「HD DVD+DVD」の2枚組製品を発売することを決めた[17]。 またこれらの製品は現在流通している「BD用ケース」または「HD DVD用ケース」ではなく主に市販のDVDに用いられるトールケースを採用しているため、一般的なBD/HD DVDソフトとはケースのサイズが異なり、判りづらいという指摘や、サイズを一般的な「BD(HD DVD)用ケース」に合わせてほしいという意見も多い[要出典]。その後、バンダイビジュアルは販売形態をBDに一本化し、「BD+DVD」で販売されていた製品をBD単品で再発売した。なお、OVAビデオアニメカーニバル・ファンタズムの1st Seasonから3rd Seasonまでの初回生産分が「BD+DVD」で発売された。 BD・HD DVD両対応機器2006年、NECエレクトロニクスがBDとHD DVDの両方に対応したLSIを発表[18]。その後LG電子とサムスン電子がBDとHD DVDの両方を再生可能なプレーヤーを発表し、2007年前半に発売された[3][19][20]。またPC用のBD記録再生・HD DVD-ROM再生に対応したドライブが製品化され、2007年後半以降に市場に出回っている[5]。 双方の書き込み規格に対応可能なピックアップレンズやLSIが製品化されている[18]が、HD DVDは書き込み規格の製品化が進まないまま2008年3月で終息し、双方の書き込みに対応するドライブやレコーダーは未発売のままとなった。 Total Hi Def2007年1月、両規格を支持するワーナー・ブラザースがBD・HD DVDの双方を両面に記録した再生専用ディスクTotal Hi Def(トータルハイデフ、略:Total HD、THD)を発表した[21]。Total Hi Def DiscやTotal Hi Defディスクとも表記される[22][23]。 しかし以下のような理由で多くの冷ややかな反応・批判を受けていた[24]。
これらの反響を受けてか、ワーナーは2007年6月、同年後半としていたTotal Hi Defの発売を2008年に延期した[25]。 さらに2008年1月にワーナーがHD DVD撤退を発表し、Total Hi Defソフトが継続的に発売される可能性はほぼ無くなった。開発が既に打ち切られたとの報道もなされた[26]。 なお、ワーナーでは片面にBD、HD DVD、DVD、CDのいずれか2規格の記録面を持つことのできる光ディスクの特許も出願した[27]が、製品化されていない。 BDの普及およびフラッシュメモリ・ハードディスク・ネット配信との競争ハイビジョン映像に対応したテレビの普及と共に第3世代光ディスクの需要も増えることが見込まれた。実際に2007年度の年末商戦では、規格争い中にもかかわらずBDレコーダーが販売シェアで2割、金額ベースで4割ほどを占めたとBCNにより発表された。特に第3世代光ディスク全体に対するBDの販売シェアは9割以上を占め、翌年の規格争い終結へとつながった。 →詳細は「高解像度光ディスク規格戦争」を参照
第3世代光ディスクにおいてBDがデファクトスタンダードとなったのち、その容量を上回るUSBフラッシュメモリの登場と価格低下からフラッシュメモリと競合し、ハードディスクドライブやSSDの大容量化と光ファイバー網、また5Gの広がりから、ネット配信やクラウドストレージとも競合するようになった[28]。 しかしハードディスクドライブは容量あたりの単価は安い[29]が、その構造上耐久性に問題が多い[30]。ネット配信によるオンデマンド配信も快適に楽しむには高速なネット環境が必要となる。特にストリーミング形式の場合、通信速度が低い場合はコンテンツの再生ができないこともある。 デジタルコンテンツの配信・保存に重要なコピー制御に関しても特にフラッシュメモリについては、特に家電向け据付録画機の分野において普及したコピー制御技術が日本では存在しないか主流となっておらず、そのためコピー制御の掛かっているデジタルコンテンツをフラッシュメモリに格納してやり取りすると言うスタイルは、携帯機器向けに品質を大幅に落としたダウンコンバートを施してコピーすると言う場合以外には、特に家電向け据付録画機の分野において一般的ではない。 一方BDは拡張、後継規格としてBDXLやUHD BDが開発され、UHD BDでは「CMP Export」と呼ばれる外部媒体コピー技術をサポートするが、BDでの放送の録画需要は日本国内にほぼ局在しており[31]、よってBDXL対応録画機器の流通も日本国内にほぼ局在している。 映像のネット配信は4Kの場合15から30 Mbps程度だが、激増するインターネットのトラフィックによるネットワークの混雑が足かせとなる。一方BDでは約54Mbps、UHD BDでは約92から123 Mbpsの安定したストリームをサポートできる。 以上のように記録媒体としてBDはフラッシュメモリ・ハードディスク・ネット配信と比較して利点はあるが、2020年代以降、無料で使用できるGoogle DriveなどのオンラインストレージサービスやSSD、フラッシュメモリーのさらなる低コスト化・大容量化に伴い、光ディスクが必要となる機会は減少し、PCでも光学ドライブを搭載しない機種が増えている[32]。AV分野に関しても、DVDやBlu-rayで映画が供給されるが、Amazon primeやNetflixなどの定額制配信サービスの普及によりその使用機会は減っている。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目 |