アエネーイス
『アエネーイス』(古典ラテン語: Aeneis)は、古代ローマの詩人ウェルギリウス(前70年–前19年)の叙事詩。全12巻。イリオス(トロイア)滅亡後の英雄アエネーアース(Aenēās、ギリシア語ではアイネイアース Αἰνείας)の遍歴を描く。アエネーイスは「アエネーアースの物語」の意[1]。 ウェルギリウスの最後にして最大の作品であり、ラテン文学の最高傑作とされる。この作品の執筆にウェルギリウスは11年(前29年–前19年)を費やした。最終場面を書き上げる前に没したため未完である。彼は死の前にこの草稿の焼却を望んだが、アウグストゥスが刊行を命じたため世に出ることになった。ギリシア文学に対してローマ独自の文学を作り上げたと言え、その影響は計り知れない[2]。 主な登場人物英雄と人間
神々
内容トロイアの王子でウェヌスの息子であるアエネーアースが、トロイア陥落後、様々な辛労辛苦とカルタゴの女王ディードーとの悲恋を経てイタリアにたどり着き、現地王の娘との婚約とそれに反対する勢力との戦いを描く。詩の中でしばしばその建設が予言されるアルバ・ロンガはローマの創立者ロームルスとレムスの出身地であり、当時ローマの礎と見なされていた。単に神話的英雄を謡うにとどまらず、当時内乱を終結させたローマの実力者アウグストゥスの治世をアエネーアースに仮託し、褒め称える構造をもつ。ディードーと別れたのち冥界で今後進むべき道について受ける託宣には、主人公アエネーアースにとっては未来、ウェルギリウスにとっては同時代である、 内乱の一世紀を経て再び平和をもたらしたアウグストゥスは、ユリウス・カエサルの養子であり、ユリウス氏族はアエネーアースの子ユールス(ラテン語: Iulus)の子孫を称していることから、アエネーアースはアウグストゥスを連想させ、ここに至る定められた運命を予感させた[4]。アウグストゥス称揚のプロパガンダ臭さを拭い去るために、アエネーアースが利用されたとも解釈できるが、ウェルギリウスの手によって、武勇と愛憐、冷徹と哀惜が同居する、独自の魅力をもつものとなった[5]。ユリウス氏族ユッルス家(ラテン語: Iullus)は、アエネーイスの出版後はIulusと表記されている[6]。
ローマの双子の建国神話の後に、ギリシア神話に組み込まれ、人々に受け入れられていた、トロイアの末裔としての神話を語ることも目的であった[8]。その構成はホメーロスの『イーリアス』と『オデュッセイア』に範を取っている。すなわち、前半部分(1-6巻)の、アエネーアースがイタリアにたどり着くまでに放浪を続ける箇所が『オデュッセイア』的であり、後半部分(7-12巻)の、イタリアにたどり着いたアエネーアースが、土着の勢力と戦う箇所が『イーリアス』的であるとされる。前半部についてはアエネーアースにオデュッセウスが投影されていることが明らかであるが、後半部については『イーリアス』の様々な英雄の属性が投影されている。例えば婚約が決まっていた娘ラーウィーニアと結婚する異国人の立場はパリスを連想させ、逆に一騎討ちから逃げる敵の大将トゥルヌスを追うさまはメネラーオスを連想させる。また一騎討ちの決着後参戦したパラースの剣帯を見て、友を殺された怒りからトゥルヌスに報復するさまはアキレウスを連想させる。もちろん、全編にわたって、ホメーロスの影響は大きく、以上の『オデュッセイア』『イーリアス』の区分はあくまで作品全体を巨視的に見た場合に妥当するものである。 アエネーアースのことを物語りつつも、ウェルギリウスの時代のローマの覇権を、予言の形で見せることで、これまでのローマの歴史を思い起こさせ、ギリシア軍に負けたトロイアの末裔であるローマが勝利することは運命とし、ギリシアに対するコンプレックスを克服している[9]。 『アエネーイス』を題材とした作品
他にも多数の作品が存在する。
翻訳
出典参考文献
関連項目
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