時計だらけの男
『時計だらけの男』(とけいだらけのおとこ、原題:The Man with the Watches)は、アーサー・コナン・ドイルが、ストランド・マガジン誌1898年7月号に掲載した短編小説。『時計を持った男』との訳題も用いられる。ホームズの登場は明言されないものの、『消えた臨時列車』と共に、シャーロック・ホームズシリーズの外典とされる作品である。 あらすじ1892年3月18日、ユーストン駅発マンチェスター行列車の発車直前に、男女2人組が現れる。2人は一等車を希望するが、最初に見つけた客室には葉巻を ラグビー駅に列車が到着したところで、駅員が一等車のドアが1つ空いていることに気付く。駅員が踏み込むと、喫煙室からは葉巻の男性が消えていた。また男女2人組の客室では、2人が消えていただけでなく、6つの時計を持った男が、心臓を撃ち抜かれて殺されていた。6つの時計はいずれも米国製だったことから、死亡した男性はアメリカ人だと推測される。 パーマー車掌の証言から、列車が線路の修理のため、時速8〜10マイル[注 1]に速度を落とした区間があることが分かる。その区間の近くですり切れた聖書が見つかったほか、駅員の1人が、途中の停車駅で、誰にも気付かれずに別の客室に移ることも可能だったと証言する。 この事件に対して、デイリー・ガゼット紙に高名な犯罪研究家が意見を寄せるが、実現不可能だったと判明する。 5年経ったある日、自説を寄せた高名な犯罪研究家宛に、ニューヨークから真相を明かす書簡が出される。書き手はジェームズと名乗り、自分が喫煙席の男だったこと、2人組が女装した彼の弟エドワードと、いかさま賭博師のスパロー・マッコイだったと明かす。父の死後堕落したエドワードは、カードでいかさま賭博を行うスパロー・マッコイと付き合うようになった。ある日エドワードが偽小切手を切ったことをきっかけに、ジェームズは彼を堅気に戻そうとし、知り合いの時計輸出商・ウィルスン老人に頼み込み、ロンドンの代理店をエドワードに任せることにする。ジェームズは、エドワードがロンドンに向かってすぐに、マッコイも英国へ向かい、再びいかさまカード賭博で稼いでいることを知る。エドワードの下宿の女将から、賭博がばれた2人の逃亡を知ったジェームズは、2人を追って列車に乗り込む。ジェームズはユーストン駅で、逃亡のため女装したエドワードとマッコイの2人連れにばったり遭遇するが、2人は彼に気付き別の客室へ移る。途中の停車駅で2人の客室へ移ったジェームズは、悪事をばらすと息巻くが、マッコイが彼に向けてとっさに撃った銃弾が、エドワードを殺してしまう。マッコイは列車の徐行した隙に飛び降り、ジェームズもそれを追う。落ち着いたジェームズはマッコイと話し合い[注 2]、2人の悪事を隠すことを決める。書簡の結びには、発見された聖書は家族の記録でもあるので返してほしいとして、ニューヨークの図書館の住所が付記されていた。 登場人物
背景・位置づけこの作品は、ストランド・マガジン誌1898年7月号に掲載された。当時ドイルが同誌に連載していた『炉辺物語』の1つで[1]、1908年に発行された同名の短編集(英: "Round the Fire Stories")に収録された[2]。挿絵はフランク・クレイグ(英: Frank Craig)が担当している[2]。 ホームズが1893年に『最後の事件』で「葬られて」から5年後に発表された。また、正式なホームズシリーズ作品の続編『バスカヴィル家の犬』(1901年発表)に先行して発表されている。ホームズの登場は明言されないが、デイリー・ガゼット紙に、「この事件には大胆な仮説が必要だ」とする高名な犯罪研究家の言説が掲載されたとされ、このことからホームズシリーズの外典として扱われている。しかしこの事件の発生は1892年とされ、『最後の事件』後の大空白時代中の事件であるため、この犯罪研究家をホームズと同一視するには無理がある(ライヘンバッハの滝でのモリアーティ教授との対決は、1891年に設定されている)。 またマッコイはいかさまカード賭博師とされているが、ホームズが復活した『空き家の冒険』には、いかさまカードが露呈した犯人が、それを見抜いた相手を殺す筋書きが含まれている。 書誌情報
脚注注釈出典
参考文献 |