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日本国憲法 第99条(にほんこく(にっぽんこく)けんぽう だい99じょう)は、日本国憲法の第10章にある条文で、天皇(又は摂政)と全ての公務員が憲法を尊重し擁護する義務があることについて規定している。
条文
沿革
大日本帝国憲法
東京法律研究会 p.4
- (上諭)
- 朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ爲ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及將來ノ臣民ハ此ノ憲法ニ對シ永遠ニ從順ノ義務ヲ負フヘシ
憲法改正要綱
なし[1]。
GHQ草案
「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
日本語
- 第九十一条
- 皇帝皇位ニ即キタルトキ並ニ摂政、国務大臣、国会議員、司法府員及其ノ他ノ一切ノ公務員其ノ官職ニ就キタルトキハ、此ノ憲法ヲ尊重擁護スル義務ヲ負フ
- 此ノ憲法ノ効力発生スル時ニ於テ官職ニ在ル一切ノ公務員ハ右ト同様ノ義務ヲ負フヘク其ノ後任者ノ選挙又ハ任命セラルルマテ官職ニ止マルヘシ
英語
- Article XCI.
- The Emperor, upon succeeding to the Throne, and the Regent, Ministers of State, Members of the Diet, Members of the Judiciary and all other public officers upon assuming office, shall be bound to uphold and protect this Constitution.
- All public officials duly holding office when this Constitution takes effect shall likewise be so bound and shall remain in office until their successors are elected or appointed.
憲法改正草案要綱
「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第九十四
- 此ノ憲法ノ日本国民ニ保障スル基本的人権ハ人類ノ多年ニ亙ル自由獲得ノ努力ノ成果ニシテ、此等ノ権利ハ過去幾多ノ試錬ニ堪へ現在及将来ノ国民ニ対シ永劫不磨ノモノトシテ賦与セラレタルモノトスルコト
- 天皇又ハ摂政及国務大臣、両議院ノ議員、裁判官其ノ他ノ公務員ハ此ノ憲法ヲ尊重擁護スルノ義務ヲ負フコト
憲法改正草案
「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第九十五条
- 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
解説
天皇・摂政、公務員全て[2]が、日本国憲法に遵い、守り、擁護しなければならないと定めている。政治に携わる者達に、憲法を守り、さらに「憲法違反行為を予防し、これに抵抗」[3]する絶対義務を課したものである。
この規定が、内閣総理大臣及び国務大臣が、日本国憲法改正について言及することを禁じる趣旨かどうかについて議論がある。学者の中には内閣総理大臣や国務大臣が日本国憲法改正について言及することを禁止しているとする立場を取る者もいる[4][5]。例えば、戒能通孝は「内閣総理大臣以下の各国務大臣は、いずれも憲法自身によって任命された行政官でありますから、従って憲法を擁護すべきところの法律上の義務が、憲法自身によって課せられている」と述べている[6]。一方で、宍戸常寿は衆議院憲法審査会において「総理大臣であるところの与党党首であられる方が憲法改正をしかるべき場でしかるべきやり方でおっしゃるということは、これは一般的に私は憲法尊重擁護義務に反しない」としてそうした見解を否定[7]。また西修のように、公務員は職務を遂行するにあたり、日本国憲法に問題点があると認識した場合に、その問題点を広く国民に問いかけることを禁止していないとする見解もある[8]。
法律では[9]、裁判官及び一部の公務員[10]について、「日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」を欠格条項とする規定が存在し、また公務員は就任の際に『服務の宣誓』中で、憲法に遵い守ると宣言することが法令等[11]で規定されているが、これは本条文が根拠となっている。
なお、ドイツの憲法である基本法では、ドイツ国民に憲法擁護義務(戦う民主主義)を課しており、日本国憲法でも制定者である国民に憲法尊重擁護義務があるのは当然としている。日本国憲法審議録・99条を見ると当時政府の憲法担当大臣の説明だと国民より国家機関に携わるものはよりこの憲法を遵守しないといけないと答弁し、あえて明記はしなくても当然のことと説明。それを元に採決がされ制定されている。
関連条文
脚注
- ^ 「憲法改正要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」
- ^ 非正規雇用の公務員は服務の宣誓をしていないので除外される
- ^ 佐藤幸治他共著『注釈 日本国憲法』下巻、青林書院
- ^ 拝啓 安倍晋三様 あなたが「改憲」に前のめりになるのは筋が違いませんか? 法学館憲法研究所(伊藤真・浦部法穂・水島朝穂・村井敏邦・森英樹連名)
- ^ 憲法擁護尊重義務 浦部法穂の憲法時評 2013年2月21日(法学館憲法研究所)
- ^ 東京都立大学教授 戒能通孝 (1956年3月16日). “第24回国会 衆議院 内閣委員会公聴会 第1号 昭和31年3月16日”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館. 2023年7月18日閲覧。 “憲法の改正は、御承知の通り内閣の提案すべき事項ではございません。内閣は憲法の忠実な執行者であり、また憲法のもとにおいて法規をまじめに実行するところの行政機関であります。従って、内閣が各種の法律を審査いたしまして、憲法に違反するかどうかを調査することは十分できます。しかし憲法を批判し、憲法を検討して、そして憲法を変えるような提案をすることは、内閣には何らの権限がないのであります。この点は、内閣法の第五条におきましても、明確に認めているところでございます。内閣法第五条には「内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出」するというふうにありまして、どこにも憲法改正案の提出という問題は書いてございません。「その他」というふうな言葉がございますが、「その他」という中に憲法の改正案を含むのだというふうに言うのは、あまりにも乱暴な解釈でありまして、ちょっと法律的常識では許さないというふうに考えているわけであります。内閣法のこの条文は、事の自然の結果でありまして、内閣には、憲法の批判権がないということを明らかに意味しているものだと思います。(中略)内閣に憲法改正案の提出権がないということは、内閣が憲法を忠実に実行すべき機関である、憲法を否定したり、あるいはまた批判したりすべき機関ではないという趣旨を表わしているのだと思うのであります。憲法の改正を論議するのは、本来国民であります。内閣が国民を指導して憲法改正を企図するということは、むしろ憲法が禁じているところであるというふうに私は感じております。(中略)元来内閣に憲法の批判権がないということは、憲法そのものの立場から申しまして当然でございます。内閣は、決して国権の最高機関ではございません。従って国権の最高機関でないものが、自分のよって立っておるところの憲法を批判したり否定したりするということは、矛盾でございます。(中略)内閣総理大臣以下の各国務大臣は、いずれも憲法自身によって任命された行政官でありますから、従って憲法を擁護すべきところの法律上の義務が、憲法自身によって課せられているのでございます。こうした憲法擁護の義務を負っているものが憲法を非難する、あるいは批判するということは、論理から申しましてもむしろ矛盾であると言っていいと思います。”
- ^ 東京大学大学院法学政治学研究科教授 宍戸常寿 (2017年6月1日). “第193回国会 衆議院 憲法審査会 第7号 平成29年6月1日”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館. 2023年7月18日閲覧。 “政党の党首である方が同時に内閣総理大臣を務めるということが想定されている議院内閣制のもとで、総理大臣であるところの与党党首であられる方が憲法改正をしかるべき場でしかるべきやり方でおっしゃるということは、これは一般的に私は憲法尊重擁護義務に反しないものと考えております。”
- ^ 西「日本国憲法を考える」(文春新書)216頁
- ^ 国家公務員法、裁判所法、検察庁法、外務公務員法、国会職員法、裁判所職員臨時措置法、自衛隊法、防衛省設置法、独立行政法人通則法、地方公務員法、地方独立行政法人法、人権擁護委員法、保護司法、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
- ^ 人事官、検察官、国家公務員及び地方公務員の一般職、外務公務員、国会職員、裁判所職員、自衛隊員、特定独立行政法人職員、人事委員会委員、公平委員会委員、特定地方独立行政法人職員、人権擁護委員、保護司、裁判員。
- ^ 国家公務員一般職は「職員の服務の宣誓に関する政令」で、人事官は「人事院規則二―〇」で、国家公安委員会委員は「警察法施行規則第1条」で、警察職員は「警察職員の服務の宣誓に関する規則」で、自衛隊員は「自衛隊法施行規則第39条」で、それぞれ規定されている。保安隊が自衛隊に改組された際、全ての保安官と保安隊員が身分替えに当たって再宣誓を行った
参考文献
関連項目
外部リンク