ガソリン直噴エンジンガソリン直噴エンジン(ガソリンちょくふんエンジン、英語:Gasoline Direct injection engine)とは、燃料であるガソリンをシリンダー内に、高圧で直接噴射するガソリンエンジンのことである。「筒内噴射」方式と呼ばれる。 概要50から350気圧という高圧のガソリンを、エンジンの吸気行程から圧縮行程にかけてインジェクターからシリンダー内に直接噴射し、点火プラグによる火花放電により着火するものである。世代によって、以下の分類がなされる。
成層燃焼シリンダー内の気流を利用して、点火プラグ付近に燃焼可能な混合比の層(成層燃焼)を形成することで、シリンダー内全体としては空燃比20:1から55:1の超リーンバーンを可能にしている。リーンバーンにより、以下の理由で燃費が向上する。 また、高負荷時は出力空燃比(12:1)付近での燃焼(均質燃焼)へ切り替えて吸気行程でガソリンを噴射する。この際、ガソリンの気化熱によりシリンダー内の吸気が冷却されることで充填効率(酸素濃度)が向上し、高出力が得られる。 燃焼モード切替時(超希薄空燃比 ⇔ 理論空燃比)には必要とする吸入空気量に大きな差があり、また切り替え時のトルク変動を抑えるため、スロットルバルブの動作には、電子制御スロットルを用いる場合がほとんどである。 希薄燃焼時の排出ガスは酸素過多の状態にあり、従来の三元触媒ではNOxの還元作用が期待できず、リーンバーン時にはNOxを吸蔵し、理論空燃比よりもリッチな状態になった場合に還元するNOx還元触媒が必要となる。 排ガス規制の緩かった初期のガソリン直噴エンジン車では、鼻を突く独特な匂いの排出ガスを出すものがある。 均質燃焼理論空燃比下での燃焼(ストイキオメトリ燃焼)を行い、燃費や出力の向上だけでなく低排出ガス化を図ったガソリン直噴エンジンも増えた。希薄燃焼を行わない場合でも燃費に有効なのは、
によるものである。 特色利点
→詳細は「ダウンサイジングコンセプト」を参照
欠点
→詳細は「ディーゼルエンジン § 逆回転運転」を参照
歴史世界初の実用筒内直噴ガソリンエンジンとしては、第二次世界大戦中においてドイツでメッサーシュミットMe109用に開発された航空機用エンジンJumo 210Gがある。現代の自動車用エンジンとは異なり、主目的はフロート式キャブレターの弱点であった高G下での燃料の安定供給やガソリンの気化熱によるアイシング、高高度でのベーパーロックの克服[6]と、過給機による高ブースト圧状態での高出力化のためであった。この技術はドイツのボッシュが世界に先駆けて完成させた、列型ポンプによるディーゼルエンジンの無気噴射システムの応用である。その後ダイムラー・ベンツにより開発されたDB 601エンジンがMe109に搭載されたため、直噴ガソリンエンジンとしてはこちらのほうがより有名である。またこのエンジンは日本でもライセンス生産 (川崎 ハ40、愛知 アツタ)されている。航空機用エンジンで自動車用エンジンに先んじて実用化できたのは、航空機は自動車と比較してエンジンのスロットル操作の頻度が極めて少ないからである。 戦後、ボッシュのガソリン噴射システムを自動車用としたものが、1951年に西ドイツのゴリアート2サイクル2気筒エンジンに採用され、続いて1954年にメルセデス・ベンツ・300SLのM186エンジン(直6・3000cc)に搭載[7]されている。ただし明らかに当時の技術では無理があり、燃料ポンプは点火を止めてもエンジンが停止するまでガソリンを噴射しつづけたため、シリンダの壁面からオイルが洗い流されてしまい、頻繁なオイル交換が必要になるという問題が生じた。 1990年代以降は電子制御スロットルの技術が確立したため、三菱自動車工業のGDIを先駆けとして、各メーカーが次々と直噴エンジンを投入する事となった。三菱以外にはトヨタ自動車のD-4、本田技研工業のi-VTEC I、日産自動車のNEO Di、マツダのDISI TURBO/DISI、欧州ではフォルクスワーゲングループのFSI/TSI、メルセデス・ベンツのCGI、アルファロメオのJTSなどがある(アルファロメオJTSは三菱自動車からの技術供与によってGDIエンジンを元に開発されたもの)。 これらは初期はリーンバーン(希薄燃焼)を前提としていたため不具合や煤の問題が多く発生したが、その後技術の進歩で00年代半ばにはストイキ(理論空燃比)での直噴も可能となり弱点を克服していった。 特に海外では2000年代以降、年々厳しくなる排ガス規制や燃費基準に対応するために、均質燃焼タイプの直噴エンジンを採用するメーカーが増えてきている。また大排気量自然吸気エンジンを小排気量過給器付きエンジンに置き換えて、パワーと燃費をバランスさせる動き(ダウンサイジングコンセプト)が欧州メーカーを中心に一般化したが、その際過給器との相性が良く燃費の向上も図ることが出来る直噴技術は必要不可欠なものとなってきている。日本でも2010年代半ばからダウンサイジングコンセプトを受けた小排気量過給器付きエンジンを搭載した車種が多数登場し、今では欧州同様大衆車から高級車まで展開されている。 一方で排ガス規制等との兼合いや、メンテナンスの難しさ(カーボン発生による不具合の頻発)などから、ポート噴射再評価の機運もある。メーカーによっては直噴とポート噴射を併用し、ポート噴射でノッキングを起こさない程度の燃料を予混合し均質化した空気をシリンダーに吸入させ、シリンダー内のインジェクタノズルによって噴射した微量の燃料に点火することによって燃料を完全燃焼させるという方法で直噴エンジンの燃費のよさを活かしつつ、カーボンの発生を抑えるという工夫を凝らしている。またいわゆるストロングハイブリッドにおいては、走行中のエンジンの停止時間・再始動が多いためPMを発生させやすいこと[8]、直噴を用いずとも十分な燃費とパワーを得られることから、ポート噴射を用いるのは古くから一般的である。 日本メーカーの動向としては、日産では一時は大排気量エンジンに直噴を積極的に採用していたが、排出ガス規制に適合するため一時期ラインナップから消滅、その後技術的進歩などによって再び採用を始めている。トヨタでは以前は一部車種の一部グレードに限定して直噴エンジンを搭載していたが、現在は主力ミニバンやコンパクトカーのコンベンショナルモデルにも広く展開している。また12代目クラウンなどに搭載されるGR型V型6気筒エンジンではポート噴射と直噴を併用するD-4Sを採用し、2010年代後半のダイナミックフォースエンジンの展開以降は2.0L以上のエンジンにD-4Sを広く採用している。レクサスブランドの車種でもGR型およびUR型エンジン、ダイナミックフォースエンジンを搭載したモデルは、信頼性が優先されるLX、GXを除きD-4Sを採用している。 マツダでは、直噴の制御性の高さを利用したアイドリングストップシステム「i-stop」、またミラーサイクルとの掛け算で圧縮比14:1を実現したSKYACTIV-Gなど積極的に展開しており、現在ではスポーツカーのロードスターも含めた全ての自社製乗用車が直噴エンジンとなっている。一方でダイハツ工業はコスト増加を嫌い、00年代半ばを除きポート噴射のみを採用し続けている。 ボッシュの開発したピエゾ式インジェクターにより数回に分けた噴射等と空間混合が可能になり、従来の成層燃焼時の問題が幾つか解決された。その技術は現在メルセデス・ベンツやBMWのエンジンに採用されている。 年表第二次世界大戦中:ドイツでメッサーシュミットBf109用に開発された倒立V型12気筒航空機用エンジンJumo 210Gに使用される。
主な直噴エンジン搭載車及びエンジン三菱・GDI日産・NEO Di/DIG
マツダ・DISI→「マツダ・DISI」も参照
トヨタ・D-4→「トヨタ・D-4」も参照
スズキ・ブースタージェット2サイクルエンジンにおける直噴クランクケース圧縮式2ストロークエンジンの直噴化→「2ストローク機関 § デイ式2ストロークエンジン」も参照
有害な排出物の発生を抑えることができるため、直噴の恩恵は2ストロークエンジンにおいてより高まる。従来の2ストロークエンジンでは吸気時に排気口が同時に開くため、排気ガス中に未燃焼ガスが含まれ燃費の悪化にも繋がっていたが、直噴により解決する[11]。
前述したとおり1951年に西ドイツで市販を始めたゴリアート・GP700Eとグートブロート・スーペリア700Eの2サイクル2気筒エンジンが市販乗用車のガソリン直噴方式として世界初のものであった。これはボッシュとエンジンメーカーの共同開発によるもので、ゴリアートでは25馬力のキャブレターモデルに対して29馬力に出力が向上し、最大トルク、燃費も改善した。噴射ポンプはクランク軸を用いた直接駆動で、エンジンオイルはガソリンに混合せず別個のオイルポンプから供給された[9]。
一般市販の自動二輪車では、イタリアのビモータによる「500 V-Due」(500 ブイ-ドゥエ)で採用され発売された。スピードメーターの目盛りも320 km/hまで刻まれており、500ccでありながら110馬力、トルクは9.0キロと当時のオートバイ専門誌でインパクトのある記事が掲載されていたが、実際には制御用コンピューターはじめ多くの点で技術的に不完全なところも多く、期待されていた性能は出なかったこともあり、モデルチェンジの際に通常のキャブレター仕様になっている。 低圧空気式と高圧式の2種類の直噴が2ストロークエンジンに使用されている。オーストラリアのオービタル社が燃料と空気の混合気を燃焼室に噴射するエンジンを開発した。空気は膨張して燃料は8μm径の油滴になる。他の直噴形式では油滴は20〜30μmである。オービタル社(Orbital Australia)のシステムはアプリリア、ピアジオ、プジョーとキムコのスクーターと船外機の製造企業であるマーキュリー社と東発によるボンバルディア向けに使用されている。 1990年代初頭、フィヒト社 (Ficht GmbH) は高圧噴射式の2サイクルエンジンを開発した。噴射装置は他に類を見ないもので、高圧ポンプを持たずに、閉鎖された燃焼室で噴射する充分な圧力を得る事ができるものだった。船外機の製造会社であるアウトボード・マリーン・コーポレーションが1995年に許諾を得て1996年から船外機を製造している[12][13] OMC purchased a controlling interest in Ficht in 1998.[14][15][16][17]。 ヤマハ発動機もまた、高圧直噴エンジンの船外機を開発した。 コロラド州立大学の支援を受けて非営利企業のEnviroFitは東南アジアにおける大気汚染を減らすため、オービタル社の開発した技術を基に2ストローク自動二輪向けの改造キットを開発した。(フィリピンなど、対策、TV映像)
[18]。
ユニフロースカベンジング式2ストロークガソリン直噴エンジンの可能性2ストローク方式のレシプロ内燃機関は上記クランクケース圧縮式の他に、ルーツブロアによる強制掃気を行うユニフロースカベンジング式が存在する。かつては、バス・トラック用及び電気式ディーゼル機関車用として一世を風靡した中型高速ディーゼルエンジンの1形態であった。 クランクケース圧縮式同様吸気の吹き抜けが起き、またクランクケース圧縮式より構造上複雑になるため、市販車用のガソリンエンジンには使用されていない構造だった。しかし、直接噴射式であれば吸気吹き抜けによる未燃ガソリンの放出がなくなる。 この方式でガソリン直噴エンジンを開発するメリットとしては、4ストロークエンジンと比較した場合、従来キャブレター式やポート噴射インジェクター方式に比してトルク不足となることから、コンパクトカー・軽自動車クラスのエンジンの開発が難しかったが、爆発回数が倍になるためトルクが増しトルクの増大・小排気量化が可能となる。2ストロークエンジンとしては、クランクケース圧縮式と異なり、4ストローク機関と同等のクローズした潤滑系統になり、エンジンオイルを燃やすことがないため、排ガス浄化の面で有利になる。と言った点がある。 この事から1980年代後半から、BMW、トヨタ自動車、ダイハツ工業などが研究・開発を行っていた。 しかし、クランクケース圧縮式と異なり4ストロークエンジン同様のバルブ機構(排気のみ)があり、しかもSOHC化が難しくOHVに甘んじなければならない、また同一回転数での爆発回数が倍になることから回転数の限界が4ストロークエンジンに比べて低いなどのデメリットから、BMW、トヨタ自動車はエンジンの一応の完成まで見たものの、その後はその技術を4ストロークのリーンバーンエンジンへと応用したに留まった。ダイハツ工業は、2003年に車両本体まで完成したコンセプトモデルaiを東京モーターショーに参考出展するが、これも市販化には至っていない。 ロータリーエンジンにおける直噴マツダは、RX-8に搭載された13B-MSPエンジンをベースに直噴化の研究を進め、排気量を拡大させた16Xという直噴化を取り入れた試作エンジンを公表した。その後も開発が進められ、2023年1月に発表されたMX-30「eスカイアクティブR-EV」には、レンジエクステンダーとして新開発の830ccシングルローターの直噴ロータリーエンジンが搭載される。[21] 参考リンク関連項目
脚注注釈
出典
|