日産・シルフィ
シルフィ (SYLPHY) は、日産自動車が海外市場で生産・販売するセダン型乗用車である。初代と2代目は日本国内でブルーバードシルフィ (BLUEBIRD SYLPHY) として生産・販売した。 概要初代G10型は、東南アジアなどではB14型サニーのモデルチェンジ版としてサニーまたはセントラの名で販売し、韓国ではルノーサムスン・SM3/SM3 CEならびにOEM版のルノー・スカラとしてライセンス生産した[注 1]。 2代目G11型は、日本ではブルーバードシルフィ、中国ではシルフィ(のちにシルフィクラシック)、台湾ではブルーバード、ロシアではアルメーラとして各地で販売・生産した。東風汽車のブランド「風神」は、内外装を大幅に改良して「A60」として現在も販売している。 3代目B17型は、おもに北米向けのセントラならびにブルーバードシルフィ/シルフィ、ティーダラティオを統合して販売し、市場により複数の車名がある。 →「日産・B17」も参照
2000年8月に「ブルーバード・シルフィ」として初代G10型を発売した。既存のB15型(9代目)サニーを基に開発し、旧来の「パルサー」、「プレセア」の統一後継車種として登場した。P12型プリメーラが3ナンバーサイズへ拡大して従来のブルーバードのポジションへ昇格し、車格がプリメーラと入れ替わりP11型以前のプリメーラのポジションをシルフィが担う。車種名にブルーバードを冠するが、2001年8月までブルーバード(10代目)と並売した。G10型シルフィはブルーバードを冠する車種として11代目となる。このモデルは当時のガソリン車で排出ガス低減性能に優れた。 2005年12月にフルモデルチェンジでG11型となり、5ナンバーサイズをキープしながらも大型化を図った。先代モデルの不評点であった室内空間の狭さを克服し、Lサイズセダンにも劣らない室内空間を実現した。ライバルはトヨタ・プレミオ(コロナの後継車)であり、ボディサイズもホイールベースも同様となり、1960年代 - 1970年代にしのぎを削ったライバル関係が復活している。 2012年12月のフルモデルチェンジで、従来以上に世界戦略車として企画して全幅は1,700㎜を超える3ナンバーサイズとした。同時に、同一ボディで北米、アジア、オセアニアなど世界各国で販売した。型式も従来のG1#型からサニーやセントラの流れを汲むB1#型へ編入してB17型とした。日本国内は、ブルーバードを外してシルフィを車名とした。 日産車のチューニングを得意とするホシノインパルは、「シルフィは地味だけどキッチリと真面目に作られたクルマ。なかなかの実力だし、インパルのコンプリートで渋く乗ってもらいたい」と星野一義の提案[1] で、G11型をベースにかつてのブルーバードのスポーツグレード「SSS(スリーエス)」をモチーフにした「IMPUL BLUEBIRD SSS」を開発・発売した。過去に完成車両も販売した。同車両は仕様により外装に加えてエンジンや足回りも改装した。この流れは次代・B17型へ継承して「IMPUL SYLPHY」としてエアロパーツを用意した[2]。 初代(通算11代目)G10型(2000年 - 2005年)
顧客層のターゲットを子育てを終了したポスト・ファミリー層[4][5]である40 - 55歳のミドルエイジに設定し(2000年当時)、内外装は同社のB15型サニー同様、非常に保守的なデザインを採っている[3][6]。中級車には珍しく黒塗りの公用車・社用車仕様も存在する。搭載するエンジンは全て直列4気筒DOHCガソリンエンジンであり、直噴のQR20DD型、北米向け「セントラCA」と同じQG18DE型、そしてQG15DE型の3機種。4WD車にはQG18DE型が搭載される。 車名に「ブルーバード」を冠するが、当初は消滅が決定していたパルサーに代わるラインナップ拡充策として、サニーがベースのブルーステージ専売新規車種として開発した。U14型で主要メカニズムを共用したプリメーラがDセグメントへ移行し、ブルーバードは開発を凍結したが、販売サイドや顧客からブルーバード廃止に反対意見が多く、新規車種にその名を充てた[7]。 上記経緯から、エンジンの排気量も先代のブルーバードと同じ1,800ccクラスをメインストリームとしたものの、車体はサニーなどに用いられるMSプラットフォームを採用し[8]、N16型アルメーラをベースに前後のデザインを上級車種のセフィーロへ寄せ、車体寸法は1つ下のクラスのものとして設計した。Dセグメントであった従来のブルーバードに比してCセグメントへ車格は降格[注 2] した。ホイールベースもサニーと同一の 2.535 mmで、車格やホイールベースの短さに起因する室内空間の狭さから大ヒットはしなかったが、排ガス性能の高さや上質さを誇示して当時の日産セダンとして比較的堅調に売り上げた。シートおよびドアトリムの生地は屏風をイメージして設計した。 発売当初はセカンドネームの「シルフィ」を強調するエンブレムを後部に配し、2001年8月のマイナーチェンジで「ブルーバード」と「シルフィ」を同じ大きさとし、2003年2月のマイナーチェンジで「ブルーバード」を大きくした。 1.8L, 2WD車の排出ガス性能は当時のガソリン車で突出して高く、炭化水素、NOxの排出量は平成12年規制75%低減レベル(★★★)の半分であった。シルフィと同型の1.8Lエンジンを搭載する北米仕様セントラCAは、カリフォルニア州で最も厳しい排ガス基準であるOBDII基準で電気自動車と同等の認定を受け[9]、シルフィも同程度の排出ガス性能を実現した[10]。1.8Lエンジン搭載車は、当時のハイブリッドカーよりも高い排出ガス性能を誇り[11]、都市の空気よりも清涼な排出ガスレベルを実現した[10][11]。 年表
サニーネオ/セントラタイではブルーバードシルフィをサニーネオ (SUNNY NEO) の名称で販売した。日本仕様との違いとして、フロントマスク・ヘッドライトのデザインが大幅に変更されている。リアデザインは後期型シルフィと共通となっている。 中国仕様のサニー陽光のデザインはブルーバードシルフィ前期型と同一であったが、のちにマイナーチェンジでサニーネオと同一のデザインとなった。 パルサーオーストラリアではパルサー (PULSAR) の名称で販売した。日本仕様との違いとして、フロントグリルやバンパー、リヤコンビネーションレンズのレイアウトが変更されているが、リアデザインは前・後期ともシルフィとほぼ共通となっている。 ルノーサムスンSM3→詳細は「ルノーサムスン・SM3 § 初代 (N17型 2002年-2010年)」を参照
上述の通り、韓国・ルノーサムスン自動車(現・ルノーコリア自動車)が初代をベースに開発・生産したモデル。前期モデルは細部を除いてベース車とほぼ同じだが、後期モデルは別モデルと見まがうほどアウターパネルが大幅に変更されている。のちに、日産・アルメーラクラシックとしてロシアなどにも輸出された。 2代目(通算12代目)G11型(2005年 - 2012年)
ティアナ、ティーダに続く日産モダンリビングコンセプト第3弾であり、モダンリビングコンセプトを謳う商品としては最後のモデルとして、ティアナの発売後、ティーダの開発終了前に開発が開始された[26]。グランドピアノをモチーフとしたダッシュボードや、日産が「Sモーション」と呼ぶS字曲線を全体に取り入れたエクステリア、「シェルシェイプデザイン」とよばれる、二枚貝が口を開いた形をイメージしたというシート形状などが採用される。給油口は他のアライアンスプラットフォーム採用車同様に右側となった。月間販売目標台数は3,000台と発表されている。 プラットフォームにはBプラットフォームが採用されるが(それに伴ってPCDも先代の114.3/4Hから100/4Hに変更)、フルCセグメント級の車格に相当するにもかかわらず、マーチなどと共通のプラットフォームを用いたのは、日産がプラットフォームの使い分けの基準を主に重量や荷重としているためである[27]。フロアパネルの一部や、サスペンションの構成パーツであるスプリング、ダンパー、ブッシュなど以外は基本的に他のBプラットフォーム採用車との共通部品となっている[28]。サスペンション周りやトランク開口部を強化して、Bプラットフォーム採用車の中ではボディ剛性が最も高く[29]、捩り剛性は同社の高級車、フーガ並みとした[5]。ショックアブソーバーにはティーダにも採用されたリップルコントロールやリバウンドスプリングのほか、新たにプリロード付きダンパーバルブが採用され[5]、走行安定性を向上させた[29]。 全長を大幅に延長し、先代モデルと比べホイールベースを165 mm延長したことで、先代の不評点であった室内の狭さを克服しただけではなく、圧倒的な室内空間を確保することに成功した。想定ユーザーは主に40代の女性とされ(2005年当時)[30]、家庭での車選びで「発言力」の強い40代の女性に受けるよう、高級感のあるデザインの内外装と、シーマ以上の脚部スペースをもった後部座席など室内の広さを重視した造りとなっている一方で、センターコンソールはハンドバッグがそのまま入る超大型とし、付属のリッドが180度回転して後席用テーブルとしても使用できる「スーパーマルチコンソール」やオートドライビングポジション機構付の運転席パワーシート、プラズマクラスター内蔵のインテリジェントオートエアコン、アクティブAFS付キセノンヘッドランプ、カーテンシールドエアバッグなど女性と安全にきめ細かく配慮したアイテムを盛り込んだ。 従来のベースグレードであった1.8Lエンジン搭載グレードが廃止され、2.0LのMR20DEと1.5LのHR15DEの2種類のエンジンを積み、トランスミッションは2Lがジヤトコ製エクストロニックCVT、e-4WDを含む1.5Lにはフルレンジ電子制御4速オートマチック (E-ATx) が採用された。 同じくコンパクトセダンクラスに属していたシビックは衝突安全性と室内幅を両立するために3ナンバーサイズのミドルセダンクラスへと移行したが、ブルーバードシルフィもミドルクラスへ移行しつつも、3ナンバーサイズに対して「日本の狭隘な道路では運転しにくい」というイメージを抱く顧客層が少なくない観点から、5ナンバーサイズをキープした[31]。 日本と台湾においては2012年、2013年にそれぞれ生産・販売が終了しているが、2019年7月まで中国市場においては「シルフィ クラシック(軒逸 経典)」の名で販売された[注 3]。ロシア市場においては「アルメーラ」[注 4](型式はB11)の名で2019年12月現在も販売が続けられている。東風日産汽車のパートナーである東風汽車においては、シルフィ クラシックとは別に内外装の一部を独自にアレンジした自社ブランド車「風神・A60」として販売されている。 インテリア先代から延長したホイールベースと、プラットフォームのフロントのレイアウトを非常にタイトとするという特性を生かし、室内空間を大幅に拡大した[27]。その後席ニールームは同一ホイールベースのトヨタ・プレミオ/アリオンよりも70 mm以上広く、先代シルフィよりも141 mm長い[32]。レッグスペースは同社の最上級車であるプレジデントやシーマ、さらに当時販売されていたトヨタの高級車セルシオをも凌ぐ[29] ため、日産のセダンとしてはフーガに次ぐ後席スペースを持つ。前席はプラットフォームの性質上フットスペースなどが若干狭くなっている[27]。 室内高は、目線を下げて車内でのコミュニケーションが行えるよう、1クラス下のティーダラティオやティーダよりも低めに設定された[26]。 グレード構成グレードは、ベースグレード「20S」、中間グレード「20M」、オートドライビングポジションシート等を標準装備する最上級グレード「20G」、低燃費のHR15DEを搭載するエコノミーグレード「15S」、4輪駆動モデルの1.5L「15M FOUR」を設定する。オーテックジャパン扱い特別仕様車の「AXIS(アクシス)」)はFF・2Lの「20S」をベースとするが、本革シート、専用デザインのクロームグリル、フロントバンパープロテクタ、専用意匠の16インチアルミホイール[注 5]、専用意匠のセンタークラスター等が専用装備として備わる。助手席バニティミラーや運転席シートバックポケット、アイボリーメーターなど「20M」以上に付く装備も一部特別に装着しており、ベースグレードにはない運転席パワーシート装着車も設定する[注 6]。さらに前期型には、法人向けグレード「Brougham(ブロアム)」も用意された。これはかつてセドリック / グロリアの上級グレードで用いられていた名称である。専用の「Brougham」エンブレムやカッパークリア塗装フロントグリル・トランクフィニッシャー、シャンパンゴールド塗装15インチフルホイールカバー、純正装着サイズのテンパータイヤが採用された。尚、「AXIS」「Brougham」ともに日本市場専用設定である。 年表
3代目(通算13代目)B17型 (2012年 - 2021年)
→「日産・B17」も参照
2012年4月に北京モーターショーで発表された。北米市場へはセントラ、オーストラリア市場へはパルサーセダン、台湾市場にはスーパーセントラ/セントラエアロの名でそれぞれ導入される。外寸は全長4,615 mm、全幅1,760 mm、全高1,495 mmと、特に全幅は拡大されたが[39]、引き続きBプラットフォームを採用しているため、ホイールベース長2,700 mmとボディ右側に設置されるフューエルリッドは先代から不変である。エンジンは新開発のMRA8DE型 1.8Lが搭載される[40]。日本は同年12月5日から販売開始[41]。 2012年7月19日に世界に先駆け中国市場での販売が開始されたが、従来のG11型(「軒逸・経典」)も1.6L車のみが継続販売される[42]。2012年8月30日にはタイ王国で発売した[43][44]。エンジンは1.6Lと1.8L、トランスミッションは1.6L車の最廉価グレードに5速MTが搭載されるほかは全てCVTとなる。タイ向けシルフィは後席中央ヘッドレストが省かれている。 日本仕様車は、2012年10月5日の新型ラティオ発表の席で同年末に日本でも発売することが発表された[45]。そして2012年12月5日に日本市場での販売開始。日本仕様車では1.8L・2WD・CVT車のみの設定となっており[39]、ベースグレードの「S」、中間グレードの「X」、上級グレードの「G」の3グレードが設定され、併せて、オーテックジャパンからは、福祉車両「ライフケアビークル」のラインナップに「X 助手席回転シート」が追加されている。日本市場での想定ユーザーは格下のラティオ同様、70歳以上の男性とされ月販台数は600台を目標(発表当時)としている。生産は追浜工場で行われる[41]。 2015年1月22日には、特別仕様車「Gルグラン」を発売[46][注 9]。「G」をベースに、専用のブラック本革シートと合皮ドアトリム、16インチ切削光輝アルミホイールを装備したもの。同時に、ベース車のボディカラー変更が行われ、サファイアブラックパールが廃止になり、新たにスーパーブラックが追加された。 2015年8月24日に、特別仕様車「Sツーリング」を発売[47][注 10]。「X」をベースに、専用のフロントエアロバンパー(メッキフォグランプフィニッシャー付)、リヤエアロバンパー、サイドシルプロテクター、リヤスポイラー、グロスブラックのフロントグリルを装備し、専用エンブレムと16インチ切削光輝アルミホイールに加えてキセノンヘッドランプを標準装備。内容的には、エンブレムとアルミホイール以外の全てが台湾向け「セントラエアロ」と同一内容となる。本車は持込み登録で、オーテックジャパン扱いである。 2020年2月には、一部の仕様変更が実施され、内部突起に係る協定規則(第21号)に対応となったが、これと同時に助手席回転シートが廃止された。 2020年9月30日を以って日本仕様車の生産終了[48]。以後、流通在庫のみの販売となり、在庫が無くなり次第、販売終了となる[注 11]。 2021年10月26日に販売を終了して公式ホームページから掲載を削除した。日産は、1938年誕生のダットサン17型セダンを経て1959年誕生のブルーバードを源流とする基幹クラスのセダンから完全撤退し、ラインナップから前輪駆動のセダンが消滅した。
4代目(通算14代目)B18型(2019年 - )
2019年4月の上海モーターショーでワールドプレミア[49]。同年7月16日、中国市場で発表・発売開始。 フロントマスクには近年の日産デザインアイコン「Vモーション」を進化させた「Vモーション 2.0」を採用した上で、ワイド&ローフォルムへ転換。プラットフォームはエンジニアリングアーキテクチャ「CMF」によって形成された「CMF C/D」を新たに採用。 エンジンは先代からキャリーオーバーとなるHR16DE、トランスミッションも同様に先代からのキャリーオーバーとなるエクストロニックCVTないしは5速MTを採用するが、いずれにも改良が施され、燃費が向上している。XL以上のリヤサスペンションには新たにマルチリンクが採用された。 安全装備は進化し、前方衝突予測警報(インテリジェントFCW)、側・後方車両検知警報 (BSW)、車線逸脱警報 (LDW)、後退時車両検知警報 (CTA)、ふらつき警報(インテリジェント DA)などを総合制御する最新の日産インテリジェントモビリティを全グレードに搭載する。当代の登場に伴い「シルフィクラシック」はG11型からB17型に変更され、当代と併売されることになった。 北米および台湾市場においては、先代に引き続いて「セントラ」の名で投入されるが、北米仕様のエンジンはMR20DEに換装される。 2018年、中国国内の乗用車販売台数でトップを記録。2020年、2021年の販売台数はそれぞれ50万台を超えた[50]。 2021年9月29日には、中国市場で初のe-POWER搭載モデルとなる「シルフィ e-POWER」が発表された[51]。 2023年3月上旬、中国市場でマイナーチェンジし発売された[52]。
車名の由来脚注注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
|