『草の陰刻』(くさのいんこく)は、松本清張の長編推理小説。『読売新聞』に連載され(1964年5月16日付 - 1965年5月22日付)、1965年11月に講談社から刊行された。検察庁失火事件に秘められた謎を追跡する青年検事の、挫折と希望を描く推理長編。
1994年にテレビドラマ化されている。
あらすじ
5月16日の夜、松山地方検察庁地方支部の第二倉庫から出火する事件が発生、焼け跡からは事務官・平田の焼死体が発見された。平田と事務員の竹内は、庁舎の宿直を脱け出し、飲み屋で呑んでいたが、酔った竹内の記憶は途中からなくなり、気づいた時には40キロ離れた町に居たという。検事の瀬川良一は、火事で焼失した書類の復元につとめると共に、竹内の言葉と飲み屋の証言の食い違いに疑問を覚える。しかし、出火の原因は、決め手のないまま、漏電による失火と決定された。
平田は古い刑事事件簿の保管を担当していたが、刑事事件簿中、ちょうど昭和25年から26年にかけての部分が、行方不明となっていた。瀬川は当時の担当検事・大賀庸平に、焼失した書類の記載内容を覚えていないか問い合わせたが、大賀はその後ほどなく交通事故で死んでしまう。平田と竹内の行動を調べる中で、何者かによる放火との疑いを強める瀬川に、探索を止めるよう脅迫する電話が来る。瀬川は亡くなった大賀の娘・冴子に会って事件のヒントを得ることを強く希望するが……。
主な登場人物
- 瀬川良一
- 松山地方検察庁の検事で、昨年杉江支部に転任。31歳で独身。東京生まれ。
- 平田健吉
- 松山地検杉江支部の検察事務官。40歳。出火で焼死する。
- 竹内平造
- 松山地検杉江支部の事務員。31歳。出火事件後、神経衰弱をきたす。
- 大賀庸平
- 昭和25年から26年末にかけて、松山地検杉江支部に在任した元検事。その後東京で弁護士を開業。
- 尾形巳之吉
- 八幡浜市内の映画館「松栄劇場」経営主。パチンコ屋も経営。
- 大賀冴子
- 大賀庸平の娘。出火事件と父の死の関係に疑問を抱く。
- 青地洋子
- 瀬川の縁談相手。父・久吉は、大手建設会社「久島建設」の常務。
- 花田
- 5月中旬に、道後温泉で舞踊団を引率して廻ったとされる男。
- 山口重太郎
- 昭和25年に起こった大島信用金庫理事殺人事件の被疑者となるが、証拠不十分で釈放される。その後鞆町で土産物屋を営む。
- 山岸正雄
- 大島信用金庫理事殺人事件で取り調べを受けた元職員の一人。
- 朝風かおる
- 新宿東口の劇場のスネークダンサー。
- 春日月子
- 「草刈芸能社」所属のヌードダンサー。
- 増田与茂平[1]
- 大阪に拠点を持ち、関西で一、二を争う暴力団「増田組」の総長。
- 栗山ゆり子
- 高崎市内の割烹料理屋「成田屋」経営主。
- 佐々木信明
- 群馬県に地盤を持つ代議士。予算委員長の高村忠一と親しい。
エピソード
- 小説中に登場するスネークダンサーにはモデルがあり、その女性に取材している。女性はドサ回りから帰ると、著者に挨拶の電話をかけてきていたという[2]。
関連項目
テレビドラマ
「松本清張三回忌特別企画・草の陰刻」。1994年8月5日、フジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」枠(21:02-22:52)にて放映。 サブタイトル「怪火事件に隠された黒い疑惑 過去を消した男と謎のスネークダンサー」。視聴率17.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
- キャスト
- スタッフ
- 脚本:金子成人
- 監督:長尾啓司
- 音楽:岩間南平
- 選曲:山川繁
- 技術協力:映広
- 企画:鈴木哲夫(フジテレビ)
- プロデュース:名島徹(レオナ)、小坂一雄(レオナ)、林悦子(霧企画)
- 制作:フジテレビ、レオナ、霧企画
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脚注・出典
- ^ 本名は第十一章参照。
- ^ 福岡隆『人間・松本清張 - 専属速記者九年間の記録』(1968年、大光社)184頁参照。