Think different
"Think different"(シンク・ディファレント)とは、1997年のApple Computerの広告キャンペーンのスローガン。アメリカ合衆国の広告代理店TBWA\CHIAT\DAYのロサンゼルス・オフィスが制作を担当した[1]。 概要このスローガンは、テレビコマーシャルのほか、印刷広告や個別のApple製品のテレビ広告などでも使用された。このスローガンの使用は、これに続く広告キャンペーンであった Apple Switch 広告キャンペーンが2002年に始まるまで続けられた。このスローガンは、昔から業界に定着していたIBMの初代社長トーマス・J・ワトソンが生み出したモットー「Think」を踏まえて、一捻り加えたものであるように受けとられた。当時IBMは、パソコン市場においてAppleの直接のライバルのひとつであった。はっきりしていたのは、Appleのこのスローガンが、IBMに起源を持つPC/AT互換機とWindowsを購入しようかと思っている消費者に向けられた、より賢明な選択肢としてApple製品を提示しようとするものであったということである。 テレビ広告"Crazy Ones"(「いかれた奴ら」の意)として知られる、2種類のテレビコマーシャルでは、かなり短く編集されたテキストが用いられていた。このコマーシャルの監督はChiat/Dayのジェニファー・ゴラブ(Jennifer Golub)で、彼女はジェシカ・シュルマン(Jessica Schulman)、イヴォンヌ・スミット(Yvonne Smit)と共にアート・ディレクターのクレジットにも名を連ねている。ナレーションはリチャード・ドレイファスで、放送されなかった別バージョンにはスティーブ・ジョブズの声を使ったものもあった[2]。 "Think different" というキャッチコピーは、Chiat/Dayのアート・ディレクターだったクレイグ・タニモト(Craig Tanimoto)によるもの。コマーシャルには、様々な別バージョンのテキストが用意されたが、その文章を書いたのは、ロブ・シルタネン(Rob Siltanen)とケン・シーガル(Ken Segall)であった。 60秒版は、白黒のフィルム映像で構成され、20世紀に活躍した17人の象徴的人物を取り上げている[3]。登場順に列挙すると、アルベルト・アインシュタイン、ボブ・ディラン、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、リチャード・ブランソン、ジョン・レノン(オノ・ヨーコと共に)、バックミンスター・フラー、トーマス・エジソン、モハメド・アリ、テッド・ターナー、マリア・カラス、マハトマ・ガンディー、アメリア・イアハート、アルフレッド・ヒッチコック、マーサ・グレアム、ジム・ヘンソン(カエルのカーミットと共に)、フランク・ロイド・ライト、パブロ・ピカソとなる。コマーシャルは最後に、小さな少女が、あたかも何かを願うかのように閉じていた眼を開く映像で終わる。この最後のカットは、ターセム・シンが監督したディープ・フォレストの曲「Sweet Lullaby」のミュージック・ビデオ(数バージョンあるビデオのうち、Round the World Mixと称されるもの)から流用されており、少女はシンの姪であるシャーン・サホタ(Shaan Sahota)である[4]。 30秒版は、60秒のバージョンを圧縮し、17人のうち11人を取り上げ、最後には少女ではなくジェリー・サインフェルドが登場する。登場順に列挙すると、アルベルト・アインシュタイン、ボブ・ディラン、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、ジョン・レノン、マーサ・グレアム、モハメド・アリ、アルフレッド・ヒッチコック、マハトマ・ガンディー、ジム・ヘンソン、マリア・カラス、パブロ・ピカソ、ジェリー・サインフェルドとなる。このバージョンが放送されたのは、1998年5月14日の『となりのサインフェルド』の最終話の放送のときだけであった。 "Think different" のメッセージが登場する初期の広告の例としては、Appleのロゴの色がとられる何か月も前の1998年2月4日に放映された、カタツムリがインテルPentium IIのチップを背中に載せてゆっくりと進んでいく映像に、Power Macintosh G3ならその2倍も速いとコメントが続くコマーシャルが挙げられる[5][6] コンセプト、哲学、背景当時、Appleの CEOに復帰したばかりだったスティーブ・ジョブズは、Apple社内でより強化されるべきだと考えていた哲学を、キャンペーンに反映させて展開することを指示した。ジョブズは、Appleの共同創業者の1人であったが、CEO復帰当時の状況は困難なものであった。 1994年のPBSのドキュメンタリー番組『One More Thing』のインタビューで、ジョブズは次のように述べている。
印刷広告物このキャンペーンの印刷広告は、『ニューズウィーク』や『タイム』をはじめ数多くの主要雑誌に掲載された。そのスタイルは概ね伝統的なもので、同社のコンピュータやその他の電子機器にスローガンを添えたものがほとんどだった。 これと並行して、特定の商品ではなくブランド・イメージに焦点を当てた、もうひとつの広告シリーズがあった。こちらは、歴史的人物の肖像に小さなAppleのロゴと "Think different" の言葉を一角に配しただけのもの。しばしば取り上げられた人物には、ジム・ヘンソン、ネルソン・マンデラ、リチャード・ファインマン、ジミ・ヘンドリックス、マリア・カラス、マイルス・デイヴィス、マーサ・グレアム、フランク・シナトラ、ジャッキー・ロビンソン、オーソン・ウェルズ、ベンジャミン・スポック、アンセル・アダムス、セサール・チャベス、ジョーン・バエズ、黒澤明、三宅一生、盛田昭夫、手塚治虫らがいた。 宣伝用ポスターこのキャンペーンでは、24インチ x 36インチサイズの宣伝用ポスターが、少ない枚数で制作された。このポスターも、歴史的人物の肖像に小さなAppleのロゴと "Think different" の言葉を一角に配していた。こうしたポスターの制作は、1997年から1998年にかけて行なわれた。 "Think different" のポスターは、少なくとも29種類が制作された。セット別に示すと以下の通りである。[要出典] Set 1 Set 2 Set 3 Set 4 Set 5(映画監督シリーズ:公式には発表されなかった) 以上のほか、バズ・オルドリン、ローザ・パークス、アリのフリックなどがこのキャンペーンで取り上げられた。 さらに、2000年頃には、11インチ x 17インチ のポスター10枚を収めた「教育者セット (Educator Set)」と通称されたセットが、Appleの教育関係の流通経路を通して配られた。Appleが送った箱には、ビニールで梱包された10枚の小さなポスターが、合わせて3組収められており、箱の蓋は「Crazy Ones」のオリジナル Think different ポスターのコピーになっていた。 Educator Set テキストオリジナル版: オリジナルのロング・バージョンのCMのナレーション用のものとして、Appleが作成したポスターに記された文言は以下の通りである。[要出典] The Crazy Ones
キャンペーンへの反応と影響Think different キャンペーンが始まると、Appleにとっても TBWA\CHIAT\DAY社にとっても大きな成功をもたらすことになった。好評に迎えられたテレビのスポット広告は、1998年のエミー賞最優秀広告賞や、アメリカで最も効果を上げたキャンペーンとしての2000年のグランド・エフィー賞(Grand Effie Award)など、数多くの受賞や評価につながった。 この新しい広告キャンペーンは様々な意味で、技術の巨人としてのAppleの再興を象徴するものとなった。この広告が始まるまでAppleは、それまで最も強く支持していた顧客たちさえもが、より洗練された優れたプロセッサーを備えたライバル企業の製品に乗り換えるような事態が続いていた。なお悪いことに、Appleは数十億ドルを投じたプロジェクトでありながら批評においても、商業的にも不首尾に終わったApple Newtonの失敗によって何億ドルもの損失を出していた。Appleが初期に獲得していた「対抗文化」的なイメージを訴えることで、Think different キャンペーンはスティーブ・ジョブズの復帰とともに、同社に明るいスポットライトを引き戻し、さらに、その後に発表され大成功したiMacや、さらに後のmacOSなど、新製品の多くに注目を集めた。 キャンペーン終了後のリバイバル製品の梱包2009年後半以降、iMac コンピュータの仕様書を収めた小箱には次のような注記が付されている。 Macintosh Think different. それまでの梱包では、仕様書の下にはAppleのウェブサイトのURLが記されていた。 このような目立たない形での使用は、Appleがこの2つの商標登録を維持していきたいという意思表示であるように見える。多くの判例では、商品に商標を付け続けることが商標登録を維持するためには必要であると判断されているが、同社の2015年のマーケティングにおいて、いずれ商標も(「Macintosh」も「Think different」も)現在は広く使用されていないという状況がある(「Macintosh」について付言すれば、今日では通常の販売活動において、Appleのコンピュータは単に「Mac」と呼ばれている)。 Mac OS XMac OS X Leopardで導入されたテキストエディットの高解像度アイコンや、Mac OS X Lionで導入された "All My Files" ファインダーのアイコンには、やや短縮された "Crazy Ones" のテキストが流用されている。 Apple.comAppleのホームページ (Apple.com) は、これまでに少なくとも5回、当初のキャンペーンには含まれていなかった人物の肖像を、Think differentのスローガンと共に大きく掲げたことがある。
パロディテレビ・アニメ『ザ・シンプソンズ』のエピソード「Mypods and Boomsticks」[9]では、このスローガンがネタにされ、文法的に正しいとは言えないことを踏まえて "Think differently" と記されていた。 Valve CorporationによるSteamのMac OS X版のリリースに際して、バルブ社はゲーム『Left 4 Dead』の登場人物で、ゲーム中に様々なものを嫌う(hating various things)、フランシス(Francis)を取り上げた広告を展開した。そのスローガンは、"I hate different" であった[10]。その後、ゲーム『Team Fortress 2』マック版がリリースされた際、その予告編は "Think bullets" で締めくくられていた[11]。 脚注
参考文献
関連項目外部リンク |